1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 木内登英のGlobal Economy & Policy I…
  5. CoCo債が金融危機の早期警戒指標に

CoCo債が金融危機の早期警戒指標に

2017年08月18日

<要旨>
発行体である金融機関の自己資本比率が一定の水準を下回ると、株式への転換(株式転換型)や元本削減(元本削減型)が行われ、それによって損失が吸収されるという設計のCoCo債(偶発転換社債)は、金融機関の破綻リスクを低下させる効果を持つ一方、金融システムの不安定化などの早期警戒指標としても有益である。しかし利回りを追求する投資家行動によって、CoCo債の利回り低下が行き過ぎている場合には、CoCo債の発行体である金融機関は資本増強を通じて財務のリスクを低下させるとしても、CoCo債を購入する投資家にリスクが移転されてしまうという側面もある。これは広い意味での「金融規制のアービトラージ」ともいえ、その場合には、金融システム全体として安定性が高まっているとは言えない面もある。

CoCo債とは?

グローバル金融危機以降の金融規制強化の流れの中で、バーゼルⅢのもとでも自己資本に算入可能な債券の発行が、銀行の自己資本増強策として増加してきた。その一つが偶発転換社債・CoCo債(Contingent Convertible Securities)である。発行体の金融機関の自己資本比率が一定水準を下回るというトリガーによって、株式への転換(株式転換型)や元本削減(元本削減型)が行われ、それによって損失が吸収される(ベイルイン)という設計になっている(注1)。

CoCo債から金融機関のベイルイン確率を計測

ところで日本銀行は、CoCo債の流通スプレッドから、発行体である金融機関の信用リスクの変化、金融システムのリスクの変化を早期に察知するなど、ミクロ・マクロのプルーデンス政策の観点からこのCoCo債を注目してきた。最近では、①CDS(クレジット・デリバティブ・スワップ)市場が示す「デフォルト確率」と、②CoCo債が示す、金融機関の資本不足を補うためにCoCo債が株式転換されるなどの確率である「ベイルイン確率」、との比較などを踏まえた、興味深い分析を「CoCo債市場から観測される金融機関のベイルイン確率」(注2)という論文で発表している。以下ではその内容を概観してみたい。

CoCo債は早期警戒指標として有益

CDSプレミアムにはデフォルト確率が反映されている(デフォルトの保険料)一方、CoCo債にはデフォルト確率と共にベイルイン確率が反映されていると言える。金融機関が破綻する局面では、CoCo債の保有者は、株式への転換や元本削減を強いられるが、金融機関が破綻しなくても、自己資本が一定水準を下回ればベイルインが生じるためである。

例えば、2016年2月に生じた欧州金融機関の財務健全性に関する憶測、いわゆる「ドイツ銀行ショック」の際には、デフォルト確率は余り上昇しなかったが、ベイルイン確率は大きく上昇したのである。この際に意識されていたのは、金融機関のデフォルトのリスクではなく、自己資本比率が一定水準を下回り、普通株式への強制転換、元本削減などのベイルインが行われるリスクであったと言える。これに対して、2016年6月EU離脱の英国国民投票の際には、ベイルイン確率、デフォルト確率の双方が同様の規模で高まった。この際には、銀行資本が大きく損なわれ、CoCo債のベイルインによっても損失を吸収しきれずに、銀行が破綻に追い込まれる可能性が意識されたためであろう。

このように、リスクイベントに対して、CDSよりもCoCo債の方がより敏感に反応するということは、CoCo債は銀行破綻や金融危機のリスクを察知する早期警戒指標として有益であることを示していよう。

CoCo債の発行増加は、デフォルトリスクを低下させる

また、ベイルインをした条件のもとで、さらにデフォルトに追い込まれる確率を推計すると、CoCo債の累積発行量が増えるにつれて低下していくことが確認された。これは、CoCo債の発行は、損失吸収バッファーを増加させることを通じて、銀行のデフォルトリスクを減じている、との市場参加者の認識を反映していると言えるだろう。これが正しければ、当局の意図した通りに、CoCo債は銀行の破綻と、公的資金の投入とを回避させることに貢献していることになる。

日本のベイルイン確率は低い

さらに、発行体が5年以内にベイルインする確率を地域別に算出すると、欧州(英国、フランス、ドイツ、スイス)が足もとで25%程度、中国が15%程度であるのに対して、日本は5%程度で、以前からかなり低位に安定した状態にある。これは、投資家が日本の大手銀行の財務が相対的に健全であると考えていることを反映している面が強いだろう。ただしそれに加えて、投資家の利回り追求の動きが、日本においてより顕著であることの反映、つまり利回りが過度に低下しているという可能性もある点には留意が必要である。

CoCo債発行によるリスクの移転

以上、日本銀行の論文に基づいてみてきたように、CoCo債の発行拡大は、金融機関の資本増強を助け、デフォルトリスクを低下させてきた面がある。また、CoCo債から得られる情報は、銀行の破綻や金融システムの不安定化などの早期警戒指標として有益であるという面もある。

しかしながら、株式への転換や元本削減を強いられる恐れがあるCoCo債の流通スプレッドは、通常の社債より相当高いことは当然のこと、投機的格付けのハイイールド債の流通スプレッドよりも高く、金融機関の利払い負担を高めているという側面もある。

この観点から、金融機関はCoCo債の発行を通じた資本の拡充と金融機関の収益性とはトレードオフの面があり、結果としてCoCo債の拡大が金融機関の財務の健全性を高め、金融システムの安定性に貢献したのかは、厳密なところでは確かでない面もある。

さらに、CoCo債の価格が適正でない場合には、発行体である金融機関は資本増強を通じて財務の健全性を高めることができるとしても、CoCo債を購入する投資家にリスクが移転されてしまうという側面もある。これは広い意味での「金融規制のアービトラージ」ともいえ、その場合には、金融システム全体としては安定性が高まっているとは言えない面がある。

低金利が長期化するなかで、より高い金利を求めて投資家の資金が様々な債券へと向かい、その過程で安全資産である国債などとの利回りの乖離、つまりスプレッドが過度に低下している面があると考えられる。これは、将来、金融市場でのリスク回避傾向が強まる局面で、大きな損失を投資家に生じさせる可能性に繋がろう。CoCo債は、そうした潜在的リスクを抱える金融資産の一つとして注目しておきたい。


(注1)日銀レビュー「バーゼルⅢ対応資本性証券について」(2015年4月)
(注2)日本銀行金融研究所・ディスカッションペーパー「CoCo債市場から観測される金融機関のベイルイン確率」、風戸正行、山田哲也(2017年7月)

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

この執筆者の他の記事

木内登英の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています