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マイナス金利に苦悩するドイツ企業

2017年08月16日

<要旨>
ドイツの有力シンクタンクであるifo研究所の最新の調査によると、ドイツ企業の5社に1社が、銀行から預金金利にマイナスを適用することを求められたという。2014年6月のECBによるマイナス金利導入が銀行収益を圧迫する中、それを顧客に転嫁する銀行の行動が、最近になって強まっている可能性が考えられる。「マイナス金利政策」が長期化する、あるいは長期化する見通しが強まると、銀行は、相応の時間が経過した後に、顧客にそのコストを転嫁する行動を始めるのである。これは、マイナス金利の幅の縮小を含めた正常化策をECBに促す一因ともなるだろう。また、「マイナス金利政策」の副作用が、遅れて企業、家計に及んでいく可能性については、日本においても十分に配慮されるべきである。

5社に1社が銀行からマイナスの預金金利を求められた

ドイツの有力シンクタンクであるifo研究所の最新の調査は、銀行からマイナスの預金金利の受け入れを求められて苦悩するドイツ企業の姿を浮き彫りにしている。ドイツ全土の様々な規模の企業4千社を対象にしたサーベイ調査によると、5社に1社に当たる18.9%の企業が、銀行から預金金利にマイナスを適用することを求められたという(図表1)。その比率は企業の規模が大きいほど高くなっており、従業員数50人未満の小規模企業では10%であるのに対して、従業員数250人以上の大企業では29%に及んでいる。

約半数が銀行と再交渉

また、銀行からマイナスの預金金利適用を求められた企業のうち、マイナス預金金利を受け入れた企業は8%である。そのうち、企業収益に深刻な影響があったとの回答は8%、影響は深刻でない、あるいは影響はないとの回答は53%となった。

他方で、マイナスの預金金利適用を求められた企業の約半数である48.9%は、マイナス金利適用を回避するために銀行と再交渉をし、また36%は、マイナスの預金金利適用を求めない銀行に預金を移し換えたと回答している。


マイナス金利政策の遅れた影響

ところでECB(欧州中央銀行)が「マイナス金利政策」を導入したのは、3年以上前の2014年6月であった。それ以降、ドイツを含むユーロ圏で、銀行が広範囲な企業に対してマイナス預金金利の適用を求めているとの報道は聞かれなかった。その意味で、ドイツ企業の5社に1社が銀行からマイナスの預金金利適用を求められた、という今回のサーベイ調査結果は驚きでもある。過去のサーベイ調査との比較はできないため、あくまでも推測になるが、最近になってこうした銀行の行動が強まっている可能性が考えられる。

中銀当座預金にマイナスの金利を適用する「マイナス金利政策」が収益に与える悪影響を緩和するために、銀行は預金金利の引下げ、各種手数料の引上げ、貸出金利の引上げ、中銀当座預金を取り崩して現金で保有する、などの対応をとることが考えられる。

しかしこうした対応は、「マイナス金利政策」導入直後に実施されるとは限らないのである。「マイナス金利政策」が比較的短期間で終了するのであれば、取引先との良好な関係を維持するために、銀行は預金金利の引下げ、各種手数料の引上げ、貸出金利の引上げなどを見合わせる傾向がある。他方、「マイナス金利政策」が長期化する、あるいは長期化する見通しが強まると、銀行は、顧客にそのコストを転嫁する行動を始めるのである。現状はまさにそのような時期なのかもしれない。

現金保有コストは時間と共に低下

銀行の対応のうち、まさに時間の関数となりやすいのが、マイナス金利を回避するために、中銀当座預金を取り崩して現金に換える行動である。これを行う場合には、大量の現金を輸送するコストやそれを保管する巨大な金庫などを新たに用意するコストが銀行に生じる。通常は、中銀当座預金金利にかかるマイナス金利のコストが、こうした現金の輸送・保管コストを上回れば、銀行は中銀当座預金を取り崩し、現金で保有することになる。

しかし重要なのは、中銀当座預金へのマイナス金利適用は、銀行にとって継続的なコストであるのに対して、現金の輸送・保管コストは一時的なコスト(固定費)である。そのため、マイナス金利政策が長期化すれば、あるいはそのような見方が強まれば、時間当たりでみた現金の輸送・保管コストは低下し、いずれ中銀当座預金のマイナス金利のコストを下回ることになる。その際には、マイナス金利の水準は変わらなくても、銀行は新たにコストをかけて、中銀当座預金を取り崩して現金に換える行動をとる。そしてこれは、「マイナス金利政策」の効果を減じてしまうことになるのである。

ユーロ圏あるいはマイナス金利政策を導入したその他の欧州地域では、マイナス金利の幅を拡大させなくても、その水準を維持する中で、以上のような「マイナス金利政策」の副作用が、遅れて表面化していくことになるのである。これは、マイナス金利の幅の縮小を含めた正常化策をECBに促す一因ともなるだろう。また、「マイナス金利政策」の副作用が、遅れて企業、家計に及んでいく可能性については、日本においても十分に配慮されるべきである。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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