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有事の仮想通貨買い?

2017年08月15日

地政学リスクで買われるビットコイン

仮想通貨ビットコインの価格が、8月13日に初めて4,000ドルを超えた。分裂騒動が収束したことが、再びビットコインへの需要を高めている模様である。しかしそれだけではなく、北朝鮮問題の緊迫を受けた投資家のリスク回避傾向がビットコインへの需要を高め、価格を押し上げている面がある。以前から、地政学リスクが高まる局面ではビットコインなど、仮想通貨の価格が上昇する傾向が見られた。また地政学リスクではないが、昨年末には新興国通貨が下落する中、資金投資先として仮想通貨が買われた時期もあった。これは果たして合理的な投資行動なのだろうか?

「有事のドル買い」から「有事の円買い」へ

かつては、地政学リスクが高まる局面ではドルが買われる傾向が強く、「有事のドル買い」と呼ばれた。その背景には、米国の突出した経済力と圧倒的な軍事力があった。当時は、通貨の信認を支える重要な要素の一つが、軍事力であったのである。

ところがその後は、地政学リスクが高まる局面で買われる通貨の主役は、円やスイスフランなどへと移っていった。日本がいわば当事者でもある北朝鮮問題で円が買われることは不可思議、との見方も依然強いが、「有事の円買い」の背景としては、日本が巨額の対外純資産を保有しているなか、リスク回避の局面では、リスクの高い外貨建て資産を日本国債等、円建ての低リスク資産に移す傾向が強まることがしばしば指摘されている。それ以外にも、通貨取引の流動性が高いこと、低インフレであることが通貨の低ボラティリティを支えていることなどの要因も、「有事の円買い」の背景であろう。

通貨の信認は発行者である中央銀行と政府の信認に依存

それでは、これらの経験を踏まえて、地政学リスクが高まる局面でビットコインなど仮想通貨の価格が上昇する傾向を、どう考えれば良いのだろうか?ところで、法定通貨は中央銀行の債務であると一般には考えられている。そのため、発行者としての中央銀行がその通貨価値の安定に責任を持ち、中央銀行並びに政府に対する信認が、通貨価値の信認を大きく左右するのである。既に議論した経済力、軍事力、物価安定(通貨価値の安定)などの要素も、通貨の発行体である中央銀行や通貨の有効性を保証する政府に対する信認と深く関わっているとの解釈が可能である。

仮想通貨は価値の安定に責任を持つ機関は存在しない

ところが、ビットコインなどの仮想通貨は誰の債務でもなく、その価値の安定維持に責任を持つ機関は存在しない。その意味で、それらは通常の通貨とは異なり、資産なのである。そのため、その性格はコモディティーに近いとも言われる。そのように、価値の安定に責任を持つ機関が存在しない資産が、リスク回避の局面で資金逃避の受け皿となるのも不思議な感じがする。むしろリスク資産として、資金逃避の対象となるのが自然なのではないか。

仮想通貨は有事に買われる「金」のように安定した需要にも支えられていない

しかし、「金」は誰の負債でもなく、誰もその価値の安定に責任を持っていないにも関わらず、リスク回避の局面で資金逃避の受け皿となってきた。それでは、ビットコインなどの仮想通貨も「金」と同様の商品性を持つと考えることができるのだろうか?金には希少性があるととともに、宝飾用、工業用で着実な需要が世界的に存在する。この点で、「金」はそれ自身に明確な価値を持つ。他方、仮想通貨は決済に利用できるという価値はあるが、実際に決済に利用されている取引の比率は依然としてかなり低く、投資目的以外の実需は依然として限定的である。

こうした点を考えると、仮想通貨に「金」と同様の商品性を見出すのは難しく、地政学リスクが高まる局面で、「有事の仮想通貨」となる根拠は明確ではないだろう。そうであれば、そのような傾向が将来的にも続くとは考えない方が安全なのではないか?

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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