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地政学リスクの高まりで浮き彫りになるイールドカーブ・コントロールの欠点

2017年08月14日

<要旨>
北朝鮮と米国との間での軍事衝突の可能性を巡って、グローバルな金融市場は足もとで俄かに動揺し始めている。一般に地政学リスクが高まると、グローバルに国債利回りが低下しやすくなるが、それは、経済・金融市場の安定維持に貢献する。しかし10年金利に0%程度という目標値を設定した「イールドカーブ・コントロール」のもとでは、地政学リスクの高まりを受けた国債利回りの低下が妨げられる。そのため、他国と比べて日本での金融市場の不安定性は大きくなりやすいのである。さらに、内外長期金利差の変化が円高進行を促し、株価に下落圧力をかけるという側面もあるため、地政学リスクが金融市場に与える打撃は、他国よりもかなり増幅される。これが、「イールドカーブ・コントロール」という枠組みの欠点の一つである。地政学リスクの高まり次第では、「イールドカーブ・コントロール」という枠組みを大きく見直すきっかけになることも考えられる。

地政学リスクの高まりは国債利回りの低下を促す

北朝鮮と米国との間での軍事衝突の可能性を巡って、グローバルな金融市場は足もとで俄かに動揺し始めている。日本銀行が昨年9月に導入した「イールドカーブ・コントロール」によって、日本ではそうした地政学リスクの金融市場への悪影響が増幅される可能性があり、これが「イールドカーブ・コントロール」の欠点の一つを浮き彫りにさせている。

一般に地政学リスクが高まると、投資家はリスク回避の志向を強め、金融資産を安全資産に移す傾向がある。代表的な安全資産が国債であるため、グローバルに国債利回りが低下しやすくなる。こうした国債利回りの低下は、経済・金融市場の安定維持に貢献するのであるが、これこそが市場メカ二ズムの健全な作用とも言える。

「イールドカーブ・コントロール」は金融市場の不安定性を増幅する

具体的には、国債利回りの低下はあらゆる金利の低下に繋がることから、地政学リスクがもたらす企業、家計の心理的な悪影響や、それが実際に経済活動に与える悪影響を緩和するのである。他方、国債利回りの低下は、キャッシュフローの割引現在価値を高めることも通じて株価を支えるなど、リスク資産価格の安定にも寄与するのである。

ところが、10年金利に0%程度という目標値を設定した「イールドカーブ・コントロール」のもとでは、地政学リスクの高まりを受けた国債利回りの低下が妨げられる。そのため、他国と比べて日本での金融市場の不安定性は大きくなりやすいのである。さらに、内外長期金利差の変化が円高進行を促し、株価に下落圧力をかけるという側面もあるため、地政学リスクが金融市場に与える打撃は、他国よりもかなり増幅されるのである。

「イールドカーブ・コントロール」の運営はジレンマに

さらに、地政学リスクの高まりの程度によっては、日本銀行の金融政策運営を非常に困難にさせ、日本銀行に「イールドカーブ・コントロール」の枠組みを放棄させるきっかけにもなり得るだろう。地政学リスクを受けて国債利回りに低下傾向が強まれば、日本銀行は国債買入れペースを減らすことで利回り低下を回避する行動を強いられる。ところがこうした調整は、金融緩和策の縮小と見なされるのである。つまり地政学リスクが高まることで経済の先行きへの不確実性が高まり、金融市場が不安定化するなかで、日本銀行は、長期金利目標を維持するためにそれに逆行する金融緩和策の縮小策を強いられてしまうという、ジレンマを抱えることになるのである。

「イールドカーブ・コントロール」を見直すきっかけにも

他方で、国債買入れペースの縮小が金融緩和策の縮小と見なされる場合には、市場の景況感はその分悪化し、これは国債利回りをさらに低下させることになるのである(国債需要曲線のシフト)。その結果、日本銀行はさらなる国債買入れペースの縮小を強いられるため、ここに悪循環が生じてしまうことになる。

また、国債利回りは、日本銀行の国債買入れ額というストックによって決まるという「ストックビュー」に基づけば、そもそも国債買入れペースの縮小だけで、国債利回りの低下を抑えることができるかどうかも疑わしいのである。そうとはいっても、日本銀行が保有する国債を売却する措置は、簡単には採用できない。そのため、地政学リスクの高まりの程度によっては、日本銀行は長期金利の目標を維持できなくなり、「イールドカーブ・コントロール」という枠組みを大きく見直すきっかけになることも考えられるのである。

さらに、「イールドカーブ・コントロール」という枠組みが、他国と比べて金融市場の不安定化も通じて経済に与える悪影響を増幅してしまうのであれば、それは、経済の安定、国民生活の安定を最終目標とする日本銀行の使命にも反してしまうとも言えるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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