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最近の欧州銀行救済策と銀行破綻処理のガイドライン見直し

2017年08月10日

<要旨>
2017年6月に行われた2つのイタリアの地方銀行に対する公的資金注入では、銀行救済で公的資金を投入する前には、株主に加えて債権者の負担を求める(ベイルイン)という従来からの原則が事実上崩れたという側面もあるとも考えられる。そのため、将来の銀行救済、破綻処理のプロセス等に関する不確実性も高まってしまったのである。これを受けて欧州単一銀行破綻処理委員会(SRB)のケーニッヒ委員長は、銀行破綻処理のガイドラインを見直す考えを示唆している。

欧州銀行破綻処理のガイドライン見直しの動き

欧州で、銀行破綻処理のガイドラインを見直す動きが浮上している。欧州単一銀行破綻処理委員会(SRB)のケーニッヒ委員長は、フィナンシャルタイムズ紙のインタビュー(注1)の中で、2013年に欧州委員会が採用した銀行破綻処理のガイドラインは既に時代遅れになっている面もあるとして、その見直しを検討する可能性を示唆した。これは、ガイドラインをより厳格化することで、安易な公的資金の注入を回避する方向での見直し検討である。しかし他方で、欧州委員会はガイドラインの見直しは必要ないとしており、欧州内で意見の相違も見られる。

イタリア地方銀行の救済策

この議論のきっかけになったのは、2017年6月に行われた2つのイタリアの地方銀行に対する公的資金注入であった。銀行救済で公的資金を投入する前には、株主に加えて債権者の負担を求める(ベイルイン)という原則が崩れたことが、ガイドライン見直し議論のきっかけであった。この救済策に対しては、ドイツを中心に、問題銀行が安易に公的資金を受け入れることができるとの誤ったメッセージを送ることになり、いわゆるモラルハザードのリスクを高めるとの批判が高まったのである。以下では、このイタリアの地方銀行の救済策を詳細に見ていこう。

従来からその対応が注目されていた、イタリアの2つの中小銀行の救済策が、6月25日に公表された。2行を優良資産(グッドバンク)と不良資産(バッドバンク)に切り分け、優良資産(グッドバンク)をイタリア第2の銀行インテーザが取得する。一方、不良資産(バッドバンク)は政府が引き受け、その処理には公的資金が利用されたのである。この2つの中小銀行への対応については、①イタリア最大の銀行モンテ・パスキの救済策に用いられた、破たん処理開始をトリガーとせずに銀行への公的支援を可能にするEUの例外措置である「予防的公的資金投入」(注2) のスキーム、あるいは②、サンタンデール銀行への売却を通じた破綻処理で公的資金の利用が回避された、スペインの大手銀行バンコ・ポピュラールの救済策、のいずれかが適用される、との見方が一般的であった。それゆえに、実際の破綻処理の方法に関しては驚きを持って迎えられたのである。

破綻処理策の詳細

ベネチア近郊の地銀2行(バンカ・ポポラーレ・ディ・ビチェンツァ、ベネト・バンカ)の具体的な破綻処理策について見ると、2行の優良資産(グッドバンク)をイタリア第2の銀行インテーザが取得した。インテーザは、自己資本比率や業績に悪影響が出ないことを条件に、1ユーロでの買取りに合意したのである。そのためイタリア政府は、52億ユーロをインテーザに支払うことを決めた。他方、不良資産(バッドバンク)は政府が引き受けるが、そこから生じる将来の損失に備えて、政府は120億ユーロの政府保証を提供することを決めた。

預金者、及び破綻の際に優先的に資金を還元するシニア債の保有者は保護される。他方で、株主は損失を被ることになる。劣後債保有者も損失を負担するが、モンテ・パスキ銀行の救済策と同様に、十分な説明がなされずに劣後債を購入した個人投資家には政府から損失補てんを受けられるという、一種の抜け道が認められたのである。

ちなみにEUのルールでは、政府が国内倒産法のもとで倒産銀行を市場から退室させる際に、公的資金が使われる場合でも、国家補助規定が適用され、株主とともに劣後債保有者による損失負担が求められている。

第3の道を選択

この2つの中小銀行の救済策については、①公的資金を投入せずに、株主と劣後債保有者のみの負担(ベイルイン)で破綻処理され、他の銀行に吸収されたスペインの大手銀行バンコ・ポピュラールの救済策、②株主と劣後債保有者の負担(ベイルイン)を伴う一方、存続可能な(solvent)銀行を対象とするEUの例外措置である「予防的公的資金投入」の適用、の2つの対応策が当初は模索されていたと考えられる。

しかし第1の対応策については、売却先の銀行を見つける難しさ、が最大の障害になったとみられる。バンコ・ポピュラールの破綻処理では、株主と劣後債保有者の負担(ベイルイン)によって、債務超過状態は解消されたとみられるが、イタリアの2つの銀行については、バランスシートの状態はそれ以上に悪かった可能性が考えられ、公的資金注入をせずに他行への売却は難しかったと考えられる。

また第2の対応策については、2つの銀行が存続可能(solvent)と判断されるかが不確実であるうえ、EUの例外措置である「予防的公的資金投入」が適用されるとしても、なお相当の時間を要する可能性があったと推測される(2行は3月にその適用を申請していた)。さらに、この枠組みは銀行の債権者の負担(ベイルイン)を前提とするものであったが、銀行の劣後債の多くを個人投資家が保有するイタリアでは、その実施は社会的な不安につながる可能性がある点が障害であった。モンテ・パスキの救済策では、十分にリスクが説明されずに劣後債を購入した個人投資家は対象外になるという仕組みを通じて個人債権者の負担は大きく軽減される仕組みが講じられたが、それが2つの銀行に適用できるかは不確実であった。

そこで、今回の救済策については、EUレベルではなく、イタリア政府独自の公的支援策とすることが選択されたのである。

EUレベルの対応

欧州中央銀行(ECB)は、6月23日に、両行が破綻しつつある、あるいは破綻する可能性が高いと判断し、ユーロ圏の銀行破綻処理を担う単一破綻処理委員会(SRB)に処理を委ねた。SRBは、自国の法律に基づいて両国を処理するようにイタリア政府に求めたのである。欧州委員会は25日に、イタリア政府が2行の清算を促す手段をとることを認める、この措置で不良債権は180億ユーロ削減される、と説明した。

しかしこうした対応は、欧州債務危機発生後に、破綻処理制度の欧州連合(EU)内での統一を図り、地域全体の金融システムの安定性確保を目指すという、銀行再建・破綻処理指令(BRRD)の考え方と相容れない面があったのである。BRRDは、銀行破綻の処理は、公的資金を利用せずに民間の負担でなされることを原則とするEU統一の基準を定めるものである。今回の対応は、こうした制度に抜け道を作ってしまったと、一部では批判された。

この点に関して、対象となる2つの銀行は、システム上重要な銀行と言えないことから、当該国による破綻処理が利用できるものであり、BRRDの抜け道ではない、との解釈がなされたのである。

今後の銀行救済策の不確実性を高める可能性

しかしながら、資産規模でバンカ・ポポラーレ・ディ・ビチェンツァはイタリア12位、ベネト・バンカは15位であり、システム上重要な銀行でないと言えるかどうかは疑わしいかった。また今回は、明確な基準がないまま、銀行の破綻処理がEUの統一基準に基づいて行われるか、各国の制度に基づいて行われるかをSRBの裁量によって判断されるという前例を作ってしまったことが、今後の銀行救済、破たん処理を巡る不確実性を強めてしまった面があり、これは欧州銀行同盟の理念を傷つけてしまった面もあろう。

欧州での銀行破綻処理の理念と方策は見直しへ

冒頭の話に戻ると、ガイドラインの見直しに関連してケーニッヒ委員長は、問題銀行の処理をより円滑に行うために、さらなる手段の追加が望ましいとしている。例えば、問題のある銀行から資金が流出する場合に、各国当局が連携してそれを止めるモラトリアムの顕現EU全体のレベルで賦与すること、また銀行救済で、当局が格付けの高い社債も放棄させることをより容易にするような、EU全体のルール作りが必要であるとしている。

イタリアの地方銀行救済をきっかけに、欧州での銀破綻処理の理念が揺らぎ、また将来の処理について、不確実性が強まってしまったことは、間違いはないだろう。この点から、欧州での銀行破綻処理の理念と方策が、改めて見直される局面に入ってきた可能性は高いのである。


(注1)Tighter EU curbs urged on winding down banks”, Financial Times, August 8, 2017
(注2)欧州銀行再建・破綻処理指令(BRRD)第34条4項

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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