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米国の政策金利引き上げと銀行の預金金利設定

2017年08月08日

<要旨>
FRBが既に4回、合計1.0%ポイントの政策金利引き上げを実施する中でも、大手米国銀行の個人向け預金金利はほとんど上昇していない。その背景にあるのは、個人顧客が預金金利の引き上げを強く要求していないことがある。貸出の増加率が足もとで低迷する中、預金金利の引き上げは銀行の収益を悪化させるため、銀行はできるだけ預金金利の引き上げを先送りするインセンティブを持っている。しかし政策金利引き上げが進められるもとでも個人向け預金金利の引き上げがなされないと、その分、貯蓄率の上昇(消費性向の低下)を通じた消費抑制効果の発揮などが妨げられる、という問題を生じさせることにもなる。このように銀行の預金金利設定の動向は、金融政策正常化の効果にも影響を与えることから、いずれかの時期に、FRBも銀行の預金金利の動向に大きな関心を払う可能性が考えられる。

Fedの利上げにも関わらず預金金利は低水準持続

米国銀行の預金金利の動向が注目されている。FRB(米連邦準備制度理事会)が既に4回、合計1.0%ポイントの政策金利引き上げを実施する中でも、大手米国銀行の個人顧客向け預金金利はほとんど上昇していない。その背景にあるのは、個人顧客が預金金利の引き上げを要求していないことがあり、それが預金金利の据え置きを可能にして銀行の収益を助けている面がある。バンク・オブ・アメリカのケースでは、1-3月期の個人顧客向け預金金利の平均値(非付利預金は除く)は僅か0.09%である(注1)。ジェフリーズグループの計算によれば、大手銀行全体の4-6月期の平均値は0.18%だという(注2)。

しかし個人顧客が、この先預金金利の引き上げを明確に要求し始める際に、どのような対応をすべきかどうかは、現在銀行が頭を悩ませている点であろう。大手米銀の4-6月期の収益は総じて堅調であったが、先行きの純金利収入の見通しはなお厳しい、との見方が多い。

貸出増加率の減速

銀行が収益確保のためにできるだけ預金金利引き上げを先送りしたい背景の一つに、貸出増加率の低下がある。2017年1-3月期の銀行貸出は前期比年率で+1.0%、消費者向け貸出のみでは同+3.9%であった。これに対して銀行預金は同+5.3%増加したのである(注3)。他方、預金に対する貸出の割合、つまり預貸比率は約79%である。上記のそれぞれの増加率のもとでは預貸ギャップ(貯蓄額-貸出額)は拡大を続け、銀行の採算性は悪化しやすい。このもとで預金金利を引上げれば採算性はさらに悪化するため、銀行は預金金利の引き上げをできるだけ先送りしたいインセンティブを強く持っている状況である。この点を踏まえて、格付け会社フィッチのアナリストは、FRBがさらなる政策金利引き上げを進めるもとでも、大手銀行は、2017年中は個人向け顧客の預金金利の据え置きを維持するとの見通しを示している(注1)。

オンライン銀行との競争激化

FRBの政策金利引き上げが進む中、銀行は顧客が預金金利引き上げを要求するまではできる限り預金金利引き上げを先送りする戦略である。一方で他行が預金金利引き上げを実施することで、自行から預金が急激に流出するような事態は回避したいところである。この結果、大手銀行は他行の戦略を慎重に見極め、将来預金金利引き上げの動きが出てくる場合には、それに乗り遅れないように身構えている状況であろう。

他方、過去の金利上昇局面と比較して、銀行の預金金利設定の判断をより難しくさせているのは、オンライン銀行の存在である。こうした銀行は、店舗を持たないことや規制コストの低さなどを背景に、より高い預金金利を提示することが可能である。ゴールドマンサックス系列のオンライン銀行は、オンライン貯蓄預金に対して現在1.2%の金利を支払っている。

法人からは預金金利引き上げ要求が高まる

以上は、個人顧客向け預金金利の話であるが、法人向け預金金利の状況は異なっている。企業は米銀に対して、預金金利を引上げることを明確に要求している。金額が大きいことから、僅かな金利引き上げが企業の金利収入に与える影響が大きいためである。4-6月期の個人顧客預金の平均金利は既にみたように0.18%ということであるが、法人向け預金金利の平均は0.9%~1.0%、一部外銀の場合には1.25%~1.3%の例もあるという。

法人向け預金金利の上昇が避けられない分、個人顧客向け預金金利をできるだけ低位に抑えたいという銀行のインセンティブはより高まるだろう。

金融引き締め効果を弱める

FRBによる政策金利の引き上げは、銀行の貸出金利の上昇などを通じて、企業、消費者の資金調達コストを引き上げ、借入を抑制することで経済活動に対して引き締め効果を既に生じさせている。他方、政策金利引き上げが進められるもとでも預金金利の引き上げがなされないと、その分、貯蓄率の上昇(消費性向の低下)を通じた消費抑制効果の発揮などが妨げられる、という問題を生じさせることにもなる。

この点から、銀行の預金金利設定の動向は、金融政策正常化の効果にも影響を与えるのである。いずれかの時期に、FRBも銀行の個人預金金利の動向に大きな関心を払う可能性も考えられよう。


(注1)"Rates Are on the Rise, But Not for Depositors", Asian Wall Street Journal, July 13, 2017
(注2)"Big Depositors Push for Returns", Wall Street Journal, July 26, 2017
(注3)FRB

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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