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バランスシート圧縮に動くFRBのポートフォリオ変化と政策効果

2017年08月08日

<要旨>
FRBが9月にもバランスシート圧縮の開始を正式に発表するとの観測が広がるなか、その金融市場への影響が注目されている。FRBが今まで進めてきた保有財務省証券の平均年限の短縮化と、今後始める保有財務省証券の削減とは、FRBの研究成果も踏まえると、長期金利のタームプレミアムを押し上げるという点において、同質の影響を財務省証券市場に与え、同質の政策効果を生むと解釈できる。政策効果の源泉である金利(タームプレミアム)への影響を考えれば、バランスシート圧縮は従来の政策の延長線上にあり、非連続的な効果を生むものではない。この点から、FRBのバランスシート圧縮が金融市場及び経済に与える影響を過大評価すべきではないだろう。

「バランスシート圧縮策」が緩和効果縮小の始まり

FRB(米連邦準備制度理事会)が、9月にもバランスシート圧縮の開始を正式に発表するとの観測が広がるなか、その金融市場への影響が注目されている。一般に中央銀行の国債買入れ政策は、長期金利のタームプレミアムの低下を通じて、政策効果を発揮するものと考えられている。タームプレミアムとは、名目長期金利のうち、中長期の予想物価上昇率と実質短期金利予想(政策金利の予想)で説明できない部分全体を指す。このタームプレミアムへの影響は、中央銀行がどの程度の国債を保有するかで決まるという、いわゆる「ストックビュー」に基づけば、①国債買入れ増加額のペースを縮小する(国債保有の増加は続く)、いわゆる「テーパリング」は、タームプレミアムを押し下げて需要を刺激するスピードを落とす政策であるのに対して、FRBが間もなく実施しようとしている②「バランスシート圧縮策」は、タームプレミアムを押し上げて、需要刺激効果を縮小させる政策である、と整理できる。この観点からは、2014年にFRBが始めた「テーパリング」ではなく、この「バランスシート圧縮策」こそが、緩和効果を縮小させる国債買入れ策の正常化の始まり、との解釈もできるだろう。この考えのもとでは、金融市場がその影響に神経質になるのは当然のことである。

FRBのポートフォリオの変化が金利に与える影響の研究

しかし、「FRBのバランスシート圧縮と出口戦略(7月24日)」で既に指摘したように、資産買入れ策を通じた緩和効果の縮小は、FRBが保有している国債の平均年限(残存期間)の短縮化という形で、既に相応に進行していたと考えることができる。

FRBが保有している国債の平均年限を変動させるというポートフォリオの変化が、金利に与える影響について、最近、FRBのスタッフが論文を発表している(注1)。これは、1985年から2016年までのデータを用いて、FRBが保有する財務省証券の構成変化が、財務省証券の利回りに与える影響を実証分析したものである。分析対象期間のほとんどでは、FRBが財務省証券を大量に買入れる施策(LSAP)を実施していないが、発行された財務省証券全体の構成(ポートフォリオ)とFRBが保有する財務省証券の構成との差異が、政策効果を生むとして試算している。

この分析によれば、FRBが保有する財務省証券の平均年限が市場全体よりも短い場合には、それは財務省証券のタームプレミアムを押し下げ、また、FRBが保有する財務省証券の平均年限が市場全体よりも長い場合には、財務省証券のタームプレミアムを押し上げるとの結果が得られた。しかもその効果は大きなものであった。政府が発行する国債の構成を変化させることで、イールドカーブに影響を与え、それを通じて経済効果を発揮させることは、国債管理政策の一環と位置付けられることもあるが、政府が発行した国債の構成と異なる構成の国債を中央銀行が保有する(市場に対して中立的でない)ことで、追加的な政策効果を生じさせることが可能となるのである。

FRBのポートフォリオ変化とバランスシート圧縮は連続した効果

この点から、FRBが今まで進めてきた保有財務省証券の平均年限の短縮化と、今後始める保有財務省証券の削減は、長期金利のタームプレミアムを押し上げるという点において、同質の影響を財務省証券市場に与え、同質の政策効果を生むものと解釈できる。FRBがバランスシート圧縮を開始すれば、民間が保有する財務省証券はその分増加し、他方でFRBが民間金融機関に供給する流動性(マネタリーベース)はその分減少することになる。量的な側面に注目すれば、こうした新たな変化は確かに生じることになる。しかし政策効果の源泉である金利(タームプレミアム)への影響を考えれば、バランスシート圧縮は従来の政策の延長線上にあり、非連続的な効果を生むものではない。この点から、FRBのバランスシート圧縮が金融市場及び経済に与える影響を、過大評価すべきではないだろう。


(注1)"The Federal Reserve’s Portfolio and its Effect on Interest Rates", FRB.

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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