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金融仲介機能は既に低下

2017年08月03日

<要旨>
金融機関の貸出態度が引き続き積極的であることをもって、「金融仲介機能」は悪化していない、とは言えない。貸出金利が貸出先の収益性とリスクを正確に反映した水準であるもとで、効率性、収益性の高い産業、企業により多くの資金が配分されるような最適な資金配分がなされることこそが「金融仲介機能」であると考えれば、それは既に潜在的に低下している。そうしたもとで、経済・金融環境が悪化に転じれば、銀行の財務・収益環境の悪化を通じて銀行の貸出態度は俄かに慎重化し、実体経済にも大きな打撃となる可能性がある。こうした意味での「金融仲介機能」の改善に配慮した対応が、当局には求められるだろう。

「金融仲介機能」とは何か?

日本銀行は、「これまでのところ、金融仲介機能の悪化は窺われない」としばしば説明している。その根拠に挙げているのが、「短観、ローン・サーベイなどのサーベイ調査によると、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であるほか、貸出金利も低下するなど、金融環境は一段と改善して(注1)」いることである。この説明が意味しているのは、銀行が貸出金利を引上げ、また貸出姿勢を慎重化することを通じて借り手側の借り入れ条件が悪化することが、「金融仲介機能の悪化」である、ということだろう。確かにこの定義に照らせば、超低金利環境の長期化や「マイナス金利政策」導入によっても金融仲介機能が損なわれている証拠はないことになる。

しかし少なくとも筆者の考える「金融仲介機能」とは、単に資金余剰部門から資金不足部門へと金融機関が資金の橋渡しをするだけでなく、経済の効率性を高める、より効率性、収益性の高い産業、企業により多くの資金が配分される、といった最適な資金配分を担う金融機関の役割である。その際、貸出金利が貸出先の収益性とリスクを正確に反映した水準であることが、最適な資金配分を保証するものとなるだろう。

こうした定義に照らすと、貸出金利が適切な水準に設定されているか否かも含めて、現在、金融機関が最適な資金配分の機能である「金融仲介機能」を十分に果たしているかどうかは疑わしいところである。ちなみに最適な資金配分は、資本、労働も含めた最適な資源配分全体のベースを成しているものと考えられる。

貸出利鞘縮小は金融仲介機能低下の反映

日本銀行が発表した「2016年度の銀行・信用金庫決算」によると、2015年度から2016年度にかけての1年間で、ほとんどの銀行、信金では、貸出収益の増加率が貸出の増加率を下回っており、さらに、大半の銀行、信金では、貸出収益の増加率はマイナスである(同資料のp.10,図Ⅱ-1-5)。これは、貸出ボリュームの増加よりも貸出利鞘の縮小の方が、より収益に与える影響が大きく、収益が悪化を続けていることを裏付けている。また、他行との競争が激化する中、貸出ボリュームを増加させるために貸出金利を引き下げるために利鞘が縮小し、収益が一段と悪化する、という構図になっている可能性は否定できないだろう。

日本銀行が公表している国内銀行の新規約定平均金利と無担保コールレートから算出した貸出利鞘は、2000年代初頭以降、ほぼ一貫して低下傾向を辿っている(図表1)。この間、企業の中期成長期待や潜在成長率はほぼ横ばいの推移であったことから、期待収益率や信用コスト率に大きな変化がない中で貸出金利が低下傾向を辿り、利鞘が縮小を続けたことになろう。このことは、貸出金利が効率的で最適な資金配分の機能を十分に果たしていないことを、直観的に認識させるものであろう。

また銀行が貸出ボリュームを増やすために新たにより信用リスクの高い貸出先を開拓していく場合には、それに見合って平均貸出金利は上昇するのが通例であるが、実際には逆に貸出金利が低下傾向を辿っていることは、より信用リスクの高い先により低い金利で貸出す傾向が強まり、銀行の財務リスクが潜在的に高まっていることを示唆していよう。


確かに日本銀行が指摘するように、短観にみる銀行の貸出態度判断DIは改善傾向を続けており、最新のDIの水準は、バブル期直後の92年以来の高水準に達している(図表2)。しかしながら、過去の経験から明らかなように、ひとたび経済・金融情勢が悪化すれば、DIの水準は急激に悪化し、短期間でマイナスの領域にまで陥るのである。その後、銀行の貸出は大きく抑制され、実体経済にも悪影響が及ぶことになる(図表3)。

この点から、銀行貸出判断DIが現在高水準にあることが、借り手にとって良好な借り入れ環境が先行きも続くことを保証するものではないことは、明らかであろう。特に、銀行が、信用コストに見合わない低い金利で積極的な貸出を行っている際には、経済・金融状況の悪化とともに、銀行の財務環境も悪化し、これがリスク回避傾向を強めて、貸出姿勢を急激に慎重化させることも考えられるところである。



「追い貸し」の経済効果

本コラム「企業の中長期成長期待と金融政策(2017年7月31日付)」で指摘したように、金融危機による銀行の資本の毀損は、貸出姿勢の過度の慎重化などを通じて、1990年代及び2000年代のTFP(全要素生産性)上昇率の成長寄与度を半減させてしまった。

他方で、金融危機後などには、貸出抑制とは逆に、不良債権の表面化が財務リスクを高めることを回避するために、問題先企業向けの貸出を継続させ、あるいは「追い貸し」を実施することがしばしば生じる。日本においては、銀行の財務の健全化が損なわれた場合に、①「貸し渋り」、「クレジットクランチ」を通じて需要面から経済活動が損なわれるメカニズムと並んで、②銀行が経営再建の見込みが乏しい企業への貸出を継続する問題先送り型のこの「追い貸し」行動が、生産性低下という形で供給面から経済を弱体化させ、長期にわたる経済活動の低迷の一因を成したものと考えられる。

日本銀行の論文(2003年)(注2)では、個別企業データを用いた実証分析を行い、債務比率が高い貸出先ほど貸出の減少幅が小さくなる(あるいは貸出がさらに増加する)という形で、貸出と貸出先の債務比率が非線形な関係となることが、「追い貸し」の証左と解釈されている。バブル崩壊後は、建設・不動産といった非製造業部門を中心にこの非線形性が顕著になり、さらにこれらの企業では、高い債務比率先で貸出を受けたところほど、収益性が低下する傾向があることが確認された。

他方、非上場企業も含む個別企業の財務データを用いて、貸出が生産性に与えた影響を分析したものが、別の日本銀行の論文(2007年)(注3)である。その分析結果の主な概要は、以下の通りである。

①不良債権比率が増加し健全性を低下させたメインバンクの企業向け長期貸出について、その伸び率と企業のTFPの伸び率との間には、有意な負の相関が観測された。
②これらの企業で、貸出の伸びと資本ストックの伸びとの間には、有意な正の相関が観測された。
③健全性を低下させたメインバンクが貸出を抑制した企業では、TFPの回復が見られた。

これらの分析結果は、健全性が低下したメインバンクの「追い貸し」行動によって、企業の資本ストックにはプラスの影響を与えるが、それは非効率な企業の延命や非効率な過剰設備投資を促すことで、生産性の低下あるいは資本ストックの稼働率低下やTFPの伸び率低下をもたらす傾向があることを示唆している。

ちなみに日本においては、1980年代後半以降、銀行貸出は名目GDPを大きく上回って増加しており、まさにバブルの形成が示唆された一方、金融危機が発生した1997年から2000年にかけて両者の差が一段と拡大したことは、「追い貸し」的な行動が広範囲に生じた証左と考えることができるのではないか。

潜在的な「金融仲介機能」低下の弊害

現状は「追い貸し」傾向が強まる状況にはないが、適正な貸出金利のもとで、最適な資金配分がなされていないのだとすれば、より非効率な産業・企業に資源配分(資金、労働、資本)が偏ることで、経済全体の効率を損ねている部分があるだろう。この点から、現状における潜在的な「金融仲介機能」低下によって、既に経済や国民生活には悪影響が及んでいると言える。

銀行間での過度な競争激化と並んで、金融緩和の過度な進展などが、利鞘の急速な縮小を介してこのような潜在的な「金融仲介機能」低下をもたらしているのであれば、それを改善させるような政策対応も当局には求められよう。


(注1)「『量的・質的金融緩和』導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」【背景説明】(2016年9月21日)、p.10、日本銀行
(注2)「いわゆる『追い貸し』について」、関根敏隆、小林慶一郎、才田友美、日本銀行金融研究所、金融研究(2003年3月)
(注3)「金融危機下における銀行貸出と生産性:企業別成長会計を使った『追い貸し』の検証」、福田慎一、粕谷宗久、赤司健太郎、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ(2007年10月)

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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