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日本での高額紙幣廃止論

2017年08月02日

日本での高額紙幣廃止論

日本での現金流通水準の高さ、1万円札など高額紙幣の利用度の高さを問題視する論調が、海外で浮上している。高額紙幣の廃止を主張する代表的論者の一人であるハーバード大学のケネス・ロゴフ氏は、日本経済新聞のインタビュー(注1)で、マネーロンダリング、脱税、収賄などの犯罪行為に高額紙幣が利用されているとして、1万円札と5千円札の廃止を提案している。

しかし、日本における現金流通水準の高さや高額紙幣の利用度の高さを、こうした犯罪行為の証拠と考えているとすれば、それは誤解であろう。ドル紙幣やユーロ紙幣についてはそのようなことは言えるとしても、日本については当てはまらない。

日本は現金流通額の名目GDP比率が突出して高い

現金流通額の状況は、国ごとにまちまちである。2015年時点の現金流通額の名目GDP比率を主要国について見ると(図表1)、北欧の国々でその比率が低い一方、アジア諸国では同比率が比較的高いという傾向が見られる。とりわけ、日本での同比率は突出して高い。

さらに、1995年から2015年の10年間に同比率がどのように変化したかを見ると、低下したのは北欧のノルウェー、スウェーデンの2か国である。一方、増加幅でも突出して高いのが日本であるが、それ以外の多くの国でも同比率は高まっており、いわゆる現金離れ(キャッシュレス)がどの国でも急速に進んでいると考えるのは、誤りであることが分かる。むしろ多くの国で、現金の利用は、依然として経済規模対比で増加を続けている。重要なのは、それに大きく寄与しているのが高額紙幣、という点なのである。



利用の9割以上(金額ベース)が1万円札

日本における現金流通額の高さに加えて、ロゴフ氏が注目するのは、1万円札の利用度の高さである。現金発行残高に占める1万円札の比率は、金額ベースで9割を超えており、スイスと並んで、最高額面紙幣の構成比率としては主要国の中で突出している(図表2)。ロゴフ氏は、これをもって、日本においても高額紙幣の多くが非合法な経済活動に使われていると考えている模様である(注1)。

マイナンバー制度の導入と時期を併せて、日銀券発行増加ペースが一時的に高まったことを踏まえると、税務当局に保有資産を捕捉されたくないとの考えが、現金保有の誘因になっている可能性は否定できない。しかし、それが実際の避税行為、脱税行為と結びついている比率が高いとの証拠はない。ましてや、現金がその他の犯罪行為に利用されている比率は、日本ではかなり低いと考えられる。



日本で現金需要が高い背景

日本で現金(日本銀行券と硬貨の合計)需要が高い背景には、①現金決済を好む国民性があること、②90年代末には銀行不安を背景に銀行預金から現金へと資金をシフトさせ、その後もその現金が手元で保有される傾向が続いてきたこと、③長期化する低金利のもとで銀行預金を保有するインセンティブが低下したこと、④他国と比べて治安が良いため、現金を持ち運ぶことの不安が比較的小さいこと、⑤どのような地域でも現金が不足する事態が生じにくいこと、⑥紙幣のクリーン度が高いこと、など数多くの理由が挙げられるだろう。

日本銀行の果たす役割

日本で現金需要が高い背景には、日本銀行が果たす役割は大きい。全国どこでも現金がATMから入手できるのは、日本銀行が現金輸送車で頻繁に現金を移動させていることによるところも大きく、また他国と比べて紙幣がきれいであるのも、そのクリーン度を保つように、日本銀行が適切に紙幣を新札に入れ替えているからに他ならない。個人が現金利用を選好する志向が強い中で、個人の利便性を高めるよう、日本銀行はこのような形で最大限の努力を行っているのである。そのような努力が個人の現金選好をさらに強めている面もあるだろう。一方、そうした取り組みに多額のコストがかかっていることは事実であり、将来的には様々な工夫が検討されるべきではあろう。

しかし現金利用の利便性を高める日本銀行の取り組みが、日本のキャッシュレス化を遅らせているとの一部の指摘は的外れであり、ましてやその結果として、現金が犯罪行為に利用されることを間接的に助けているとの一部の意見は、誤りである。


(注1)「日本は1万円札を廃止せよ」日本経済新聞、2017年8月1日付

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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