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ネットショッピング拡大の物価への影響

2017年07月31日

<要旨>
MITのロベルト・カバロ准教授の調査・研究によれば、10ヵ国中日本では、オンラインの小売価格と実店舗の小売価格の差は最大であり、オンライン小売価格の実店舗小売価格に対する比率は-13%(10ヵ国平均は-4%)であった。双方の市場が同質ではなく分断化(Fragmentation)していることが、両者の価格差をもたらす重要な要因の一つと推測される。その背景には、ネット販売に不慣れ、あるいは決済などの面で不安を感じる中高年齢者の存在などもあるのかもしれない。しかし時間とともに他国並みに日本でのネット販売の普及率が高まっていけば、それは実店舗での小売価格を一段と押し下げる形で、価格差を他国並みに縮小させることになるのではないか。これは消費者物価統計で補足されていないオンライン販売価格の低価格が、消費者物価統計で補足されている実店舗での価格へと波及していくことを意味する。これによって、消費者物価はますます上昇しにくくなることも考えられるのである。

ネット販売拡大で個人消費や物価動向の判断は難しく

ネット販売の拡大は、個人消費や物価動向の判断を難しくさせる側面がある。消費者が実店舗ではなくネットを通じて商品の購入を拡大させれば、その分、百貨店、スーパーなど既存の業態での販売額は低下してしまう。ネット販売が統計で十分には補足されない中では、これは個人消費の動向を過小に評価することに繋がるだろう。他方、消費者物価統計にも、ネット販売での価格は十分に反映されていないと推察される。そのもとで、実店舗での小売販売価格は変化せず、ネット販売の小売価格が下落している場合には、物価の動向が過大評価されることになる。

10ヵ国でオンラインと実店舗の小売価格の差を調査

MIT(マサチューセッツ工科大学)のロベルト・カバロ准教授は、オンラインの小売価格と実店舗(オフライン)の小売価格の差を調査した論文 を、最近、米有力経済学術誌の“The American Economic Review”に発表している。分析対象は10ヵ国、56の小売業者である。対象となるのはオンライン販売と実店舗(オフライン)販売の双方を行っている小売業者であり、同じ商品で両者の価格が調査されている。日本では、ビックカメラ、ケーズデンキ、ローソン、ヤマダ電機の4社が対象となっている。

価格差は日本が最大

この調査結果によると日本は、10ヵ国中で最も、オンラインの小売価格と実店舗(オフライン)の小売価格の差(前者が後者よりも低い)が大きくなったのである。オンラインの小売価格が実店舗の小売価格よりも高い品目は全体の7%にとどまり、10ヵ国平均の11%を下回る一方、オンラインの小売価格が実店舗の小売価格よりも低い品目は全体の45%と10ヵ国最大であり、平均の18%を大幅に上回っている(図表1)。

さらに、オンライン小売価格の実店舗小売価格に対する比率を、平均でみると-13%と、その格差(プラス及びマイナス)は、10ヵ国中最大であった。10ヵ国平均は-4%である。


格差の背景は不明

この調査で、他国と比べて日本では、オンラインでの小売価格が実店舗での小売価格を大幅に下回っている理由をぜひ知りたいところであるが、この論文はその疑問には答えていない。そもそもこの論文の目的は、経済学者が研究に多用しているオンラインの小売価格のデータが、信頼できるかどうかを検証することにあったのである。全品目のうち75%では、オンラインと実店舗での価格は同じであり、また価格の変更についても、両者間で全く同じではないとしても、その頻度や変化幅についてはかなり近いことを発見した、と論文は結論付けている。

ネットショッピングの普及度が価格差に影響している可能性

ただし同論文を離れて考えると、オンライン販売と実店舗販売の市場が分断化(Fragmentation)されていることが、両者の価格差をもたらす重要な要因の一つになっていると推測される。仮に消費者にとって両者が無差別で分断化されていないのであれば、少しでも価格差があれば購入先がシフトすることになる。例えば消費者は実店舗での購入からより安いネット販売での購入に一気にシフトするだろう。こうした裁定行動を通じて、価格差は解消されるはずである。

分断化の背景には、ネット販売に不慣れ、あるいは決済などの面で不安を感じる中高年齢者の存在などもあるのかもしれない。しかしこうした、ネット販売にとっての障害が徐々に緩和され、時間とともに他国並みに日本でのネット販売の普及率が高まっていけば、それは実店舗での小売価格を一段と押し下げる形で、価格差を他国並みに縮小させることになるのではないか。

これは消費者物価統計で補足されていないオンライン販売価格の低価格が、消費者物価統計で補足されている実店舗での価格へと波及していくことを意味する。これによって、消費者物価はますます上昇しにくくなることも考えられるのである。


(注1)"Are Online and Offline Prices Similar? Evidence from Large Multi-Channel Retailers", Alberto Cavallo, American Economic Review 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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