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ETFの急成長とその課題

2017年07月27日

<要旨>
ETF(指数連動型上場投資信託)が急成長を続けており、現在、世界のETFの規模は4兆ドル程度に達したとされている。こうした急成長を受けて、国際的な証券取引を監督、規制する証券監督者国際機構(IOSCO)がETFを再度調査する動きとなっている。近年のETF急成長は、グローバルな資産運用におけるアクティブ運用からパッシブ運用への流れのなかで生じている側面がある。足もとでは、ファンドでアクティブ運用される投資信託のパフォーマンスに対する失望が、より手数料の低いETFへの資金シフトを促している面がある。ETFあるいはパッシブ運用の拡大については、それが市場の流動性、効率性など市場機能に与える悪影響が注目されている。他方、ETFの急成長が金融市場の安定を損なうとの警戒については、運用会社からは否定的な意見も出されている。またBISなど国際機関は、手数料の低さなどから特に欧州で拡大しているシンセティック型ETFにおける流動性リスクとカウンターパーティ・リスクに注目している。

ETFの急成長と監視強化の動き

ETF(指数連動型上場投資信託)が急成長を続けている。現在、世界のETFの規模は4兆ドル程度に達したとされているが、その急成長のきっかけとなったのは2008年のグローバル金融危機であり、過去10年間で新たに2.6兆ドル程度も増加したという。さらに過去数年間は増加ペースが加速しており、過去5年間のうち4年間は、過去最高のペースで拡大している(注1)。

こうした急成長を受けて、国際的な証券取引を監督、規制する証券監督者国際機構(IOSCO:International Organization of Securities Commissions)がETFを再度調査する動きとなっている。これは、ETFの定義、分類、保有者、価格形成などについて精査するようにという、アイルランド中央銀行の要請に応えたものであるという。IOSCOは2013年にETFのレビューを一度行っているが(注2)、それ以降の急成長を受けて、更なるレビューが期待されている。ETFについては、近年、フランスや米国でもルール作り、規制に向けた動きが見られている。

ETFの多様化

ETFも当初は、指数に連動した運用がなされる単純な商品であったが、その後はleveraged(レバレッジ型) 、inverse(インバース型)、 synthetic(シンセティック型)と、派生していった。レバレッジ型ETFは、株価指数など対象となる指数に一定の倍数を掛けた変動率となるように計算された指数に連動するように運用されるもの、インバース型ETFは、対象となる指数の反対方向に一定の倍数を掛けた変動率となるように計算された指数に連動するように運用されるものである。

他方、シンセティック型ETFでは、対象指数の構成銘柄を直接組み入れることはせずに、現金を金融機関に拠出して、対象資産の変動に相当する損益を金融機関から受け取るスワップ契約を交わすものである。実際に運用を行わない分、コストが抑えられ、低い手数料で提供される。流動性が低く、ビッド・アスクスプレッドが開きやすい、エマージング市場の株式、債券ではシンセティック型ETFのコスト削減効果がより大きくなるのである。

アクティブ運用からパッシブ運用への潮流変化がETF急成長の原動力

近年のETF急成長は、グローバルな資産運用におけるアクティブ運用からパッシブ運用への流れのなかで生じている側面がある。足もとでは、ファンドでアクティブ運用される投資信託のパフォーマンスに対する失望が、より手数料の低いETFへの資金シフトを促している。こうした傾向は米国で特に顕著であり、現在、ファンドでの株式運用のうちおよそ40%程度はパッシブ運用であるとの試算もある(株式市場全体に占める比率は15%程度)。また調査会社Bernsteinは、向こう1年のうちに、米国の株式におけるパッシブ運用の比率は、50%程度に達すると予想している(注3)。日本においても、ETFを含めて国内の公募投信市場でのパッシブファンドの比率は8割に上るという(注4)。

ETFを提供する大手機関であるState Street、BlackRockなどは、近年ETFの手数料を大幅に引下げる戦略をとってきた。その中で、収益を維持するために、S&PなどETFがその運用を連動させる指数を作成する機関に支払う手数料を節約するために、自らが指数を作成するようになったのである。

日本におけるETFの手数料を見ると、日本株投信の信託報酬はアクティブ型では年1.5%であるのに対して、パッシブ(インデックス)型では0.5%程度であり、0.1%~0.2%のものもあるという(注4)。

ユーロ圏でのETF

ECB(欧州中央銀行)の「金融安定化報告(Financial Stability Review May 2017)」によれば、ETFのうちユーロ圏で作られたものは、世界全体の約18%を占める。またオープンエンド型投資信託(注5)に占める比率は約5%である。ただし株式ではその比率は約10%(2016年)と、債券での約4%に比べて高くなっている。またユーロ圏では、コモディティETFなどは僅かであり、ETFのうち株式と債券で約95%の比率である。

ユーロ圏のETF市場の特徴でありまた問題点であるのは、その集中度の高さである。ETFの残高のうち約90%は10の会社によって、70%は3つの会社によって運用されている。ユーロ圏の株式ETFのうち約10%はエマージング市場での株式運用であり、欧州、米国、日本で約3分の2を占める。また債券ETFでは、投資適格社債の比率が約25%、ハイイールド債は約10%である。

ETFの欧米比較

米国市場と比較すれば、ユーロ圏でのETFの規模は依然小さく、4分の1程度である。また米国では投資信託に占めるETFの比率は15%程度であるが、ユーロ圏では既に述べたように5%程度である。

米国と比較した場合、ユーロ圏でのETFはシンセティック型の比率が高いというのが大きな特徴である。2016年末でシンセティック型の比率は、米国では3%であるのに対して、ユーロ圏では19%に達している。ドイツ銀行グループが運用する"db x-trackers"などが知られている。エマージング市場の債券や株式では、シンセティック型の比率はより大きい。

もう一つの特徴として、米国ではETFが個人によって所有される比率が高いのに対して、ユーロ圏ではその比率が低く、13%程度である。他方、機関投資家の保有比率が4分の3程度に達している。そのうち半分程度は、その他の運用会社(investment funds)によって保有されている。ちなみに日本では、日本銀行と機関投資家の保有が9割を超えている(注4)。

ETF拡大の市場機能に与える影響

ETFあるいはパッシブ運用の拡大については、それが市場の流動性、効率性など市場機能に与える悪影響を指摘する向きもある。欧州中央銀行(ECB)は、ETFの影響力が大きい市場では、ETFの投げ売りがきっかけとなって、金融市場のストレスが広範囲に拡大することのリスクを指摘している(注4)。また過去には、ETFの売買や価格変動が、その参照指数に対応する市場(株式市場、債券市場、コモディティ市場等)にさかのぼって影響を与えることがあり、それは、前者よりも後者の流動性が低い場合には起こりやすいとしている。

日本でも、ETFを含めパッシブ運用が拡大すると、株式市場では業績が悪い銘柄でも買われてしまう、あるいは日本銀行が大量にETFを買入れていることなどから、株式市場に出回る株式が減ることで、株価に歪みが出るとの指摘もある(注4)。実際の株式を購入し株式指数に連動させるETFが取引されることで、それぞれファンダメンタルズ上は関係が薄い銘柄間に、相互依存関係が生まれてしまう。それによって、何らかのショックが生じたときの影響が、広く拡散しやすくなる可能性も指摘されている(注6)。これは、株式市場の価格決定機能が低下することを意味し、その結果、投資家は個別企業の収益などに注意を払わなくなり、それが新規株式公開を低迷させるとの指摘もある(注7)。

ETF市場が大きく変動した代表的な例として挙げられるのは、2015年8月24日の米国市場で、上場する約300ものETFの市場価格が、連動先指数の価格から20~30%も乖離する事態が生じたことである。これは「ETFフラッシュ・クラッシュ」とも呼ばれている。混乱が大きくなった原因の一つとして、APと呼ばれる指定参加者(投資銀行など)が、ETFの市場価格と原資産の価格が乖離した際に、アービトラージを行うマーケットメーカーとしての役割を果たさなかったことが注目された(注8)。

他方、ETFの急成長が金融市場の安定を損なうとの警戒については、運用会社からは否定的な意見も出されている。例えば、市場全体の中で、あるいはアクティブ運用と比べて、あるいはその他のパッシブ運用と比べてもETFの規模はまだ小さく、金融市場(価格)を動かすような影響力はない、などである。

シンセティック型ETFのシステミック・リスク

個人投資家がETFを多く保有する米国市場では、彼らが商品性を十分に理解していないこと、市場が調整した際に大量に投げ売りが出ることなどが、ETFに関わる懸念として指摘されている。他方ユーロ圏では、シンセティック型ETFのカウンターパーティ・リスクや市場システムの安定性への影響などが注目される。

少し前のことになるが、BIS(国際決済)は2011年にシンセティック型ETFに焦点を当て、それが生じさせうる金融市場のシステミック・リスクについて検討した論文を公表した(注9)。

シンセティック型ETFでは、カウンターパーティから差し出される対象指数に必ずしも含まれていない担保資産を運用会社(ETFスポンサー)が運用し、そこから得られる運用益とETF対象指数の運用益とをスワップするという形態がとられる。投資家にとってのシンセティック型ETFの利点は、新興市場の株式や債券の指数が対象となるETFの場合、流動性の低さから高めとなりやすいそれらの売買手数料が必要とならないことが、手数料の低さに反映されること、ETFの価格と原資産の価格の乖離、つまりトラッキングエラーのリスクをスワップのカウンターパーティ・リスクに転嫁することができ、それも低コストに繋がる。またカウンターパーティは運用会社(ETFスポンサー)の親会社の投資銀行となるケースが多いようであるが、彼らはスワップで担保資産を差し出すことで、バーゼルⅢの流動性カバレッジ・レシオ(LCR)を低下させることができる、という規制上のメリットもある。

BISが指摘するシンセティック型ETFの問題点は、第1に流動性リスクである。運用会社(ETFスポンサー)に差し出される担保資産は概して流動性が低い資産であることから、投資家がETFの大量償還を求めた場合に、運用会社(ETFスポンサー)はそれを即座に流動化できないリスクがある。その影響が拡大すれば、システミック・リスクともなり得るのである。

第2の問題点は、カウンターパーティ・リスクである。運用会社(ETFスポンサー)の親会社となる投資銀行であることが多いカウンターパーティが経営上の問題を抱えれば、投資家はカウンターパーティ・リスクに晒されることになり、その影響が拡大すれば、やはりシステミック・リスクともなり得る。また、カウンターパーティがデフォルトを起こせば、運用会社(ETFスポンサー)は担保資産を処分するのが一般的であるが、その際には第1の流動性リスクを高める可能性もある(注10)。

ETFの急成長後の監視・規制

BISあるいはその他の国際機関から指摘されたETF、特にシンセティック型ETFの問題点に関しては、それが規制強化に直接つながることはなかったと考えられる。しかしその時点からも、ETFはさらなる急成長を遂げている。そこで冒頭でみたように、規制当局であるIOSCOは、再度ETFのレビューを実施することになったのである。この間の急成長を反映して、どのように認識、判断を行うのか注目したい。


(注1)"$4tn exchange traded fund industry draws more scrutiny”, Financial Times, May 29, 2017
(注2)"Principles for the Regulation of Exchange Traded Funds”, JUNE 2013
(注3)"Passive investing charts path into new territory”, Financial Times, May 25, 2017
(注4)日経ヴェリタス(2017年6月4日)
(注5)途中換金が可能な投資信託
(注6)「上場投資信託(ETF)の取引が市場へ与える影響の検討」、田代一聡、「証券レビュー」第57巻第4号
(注7)ヘンリー・カウフマン財団による報告書(2010年11月)
(注8)「米国ETFの生態系を巡る議論」野村資本市場研究所、野村資本市場クォータリー2017年春号
(注9)"Market structures and systemic risks of exchange-traded funds”, BIS Working Papers, April 2011
(注10)「ETFのシステミック・リスクに関する国際機関の報告書」、野村資本市場研究所、野村資本市場クォータリー2011年夏号

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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