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7月のFOMC-Relatively soon

2017年07月27日

はじめに

今回のFOMCはイエレン議長による定例記者会見もなく、市場も政策金利の現状維持を早くから予想していたが、バランスシートの調整に関しては、声明文に次回(9月)の開始を強く示唆するメッセージが込められていた。いつものように内容を検討したい。

金融経済情勢の判断

政策運営に関する議論に入る前に、その前提となる金融経済情勢の判断(第1パラグラフ)をみておきたい。市場が今回のFOMCに関して注目していた点の一つは、足許でインフレに停滞感がみられる点をどう評価するかであった。

この点について今回の声明文は、総合インフレ率とコアインフレ率がともに低下し、2%を下回る水準で推移していると記述している。前回(6月)は、総合インフレ率が最近低下するとともに、コアインフレ率が2%を幾分下回る水準で推移していると記述していただけに、総じてインフレ率が目標対比で低位にあることを率直に認める表現に変更されたことがわかる。

それでも、FOMCは、金融政策スタンスの緩やかな調整(利上げ)の下でも、インフレ率が中期的には2%目標近辺で安定するとの見通しを維持している(第2パラグラフ)。この点は、議会証言の際に、イエレン議長が目標対比でインフレ率が低位であることが継続的かどうか判断するのは時期尚早としていたことと整合的である。

実体経済に関しても、前回(6月)の声明文にあった、雇用の増加ペースが緩やかになった(moderated)とか、個人消費が最近回復したといった表現が削除され、強い(solid)とか拡大を続けているという単純な描写に置き換えられた(第1パラグラフ)。また、景気の先行きに関するリスクも、上下双方にバランスしているとの判断を維持した(第2パラグラフ)。これらも、マクロの需給の引き締まりをポジティブに評価している点で、上記のようなインフレ見通しの維持を支えている訳である。

まもなく発表される第2四半期の実質GDP成長率が、第1四半期の低迷(年率+1.4%)から大きく回復するだけでなく、FOMCが潜在成長率とみる+1.8%を明確に超える結果となれば、FOMCによるこうした評価もさらに力を得ることになる。

金融政策の判断

今回のFOMCは、市場の予想通りに政策金利の現状維持を決定した一方、声明文はバランスシート調整について、特に開始のタイミングに関する記述が変更された(第5パラグラフ)。

具体的には、第一に、FOMCとしてAgency債やAgency MBS、米国債の再投資を続けるとの文章に「当面は(for the time being)」という表現が加えられた。第二に、前回(6月)の声明文では、「現時点では(currently)」FOMCとしてバランスシートの正常化プログラムを年内に開始すると予想するとなっていたものが、「現時点では」という留保が削除された。そして第三には、その「年内に」という表現も、「比較的早期に(relatively soon)」に置き換えられた。

これらを並べてみると、留保条件の削除はFOMCとして正常化プログラムの開始に向けた自信が高まったことを示唆しており、その結果として早めに着手しうるとの判断に至ったことが推察される。さらに、前回(6月)の声明文には既に「年内に」開始することを示唆する表現があったのに、今回はさらに再投資政策の継続が「当面」に過ぎないとした以上、米国メディアが報道しているように、バランスシートの正常化が次回(9月)に開始されるとの理解は合理的と思われる。

政策反応関数

次回(9月)にバランスシートの正常化に着手するとの見方自体は、強力なコンセンサスではないとしても、市場では既に意識されてきた。実際、少なくともこれまでのところ、米国の長短金利や為替相場には大きな反応はみられない。一方、市場では、前回(6月)のFOMCやイエレン総裁が示唆する年内の再利上げについての見方は分かれている。実際、CMEの推計によれば、FF先物に織り込まれた年内の利上げ確率は現時点で約50%である。

政策金利の先行きに関する見方のばらつきの理由が、インフレ率の停滞にあることは言うまでもない。つまり、物価目標の達成はデュアルマンデートの一角を占めるだけでなく、FOMCがこの間の利上げに関して「予断を持たない(no preset course)」ことや、「data dependent」とすることを強調したことが、市場に刷り込まれているだけに、目標対比で低位なインフレが継続すれば、FOMCも利上げペースを柔軟に調整すると推測している訳である。

これに対し、バランスシートの正常化に着手する条件が何であるかについて、FOMCと市場とで明確な理解の共有がなされているかどうかは必ずしも明らかでない。実際、市場は次回(9月)からの開始を相応に意識しているが、米国メディアが引用する市場関係者のコメントをみても、結局のところ、「FOMCがやると言っているから、そう思う」といった類の話も少なくない印象を受ける。

その背景は、FOMCによるバランスシートの正常化戦略の設計にも関わっているようだ。FOMCは、もともとの金融政策の正常化戦略(2014年9月)では、バランスシートの正常化のタイミングは景気や物価の見通しに依存するとしていたが、前回(6月)に公表した参考文書では利上げが十分進んだ時点としている。

もちろん、景気や物価の見通しが好転しなければ利上げも進まない点では両者は実質的に同じとも言える。しかし、その参考文書を含め、FOMCないしイエレン議長は政策金利の調整を主たる政策手段と位置づけるとしていることも踏まえると、景気や物価に対する調整弁は政策金利に委ね、バランスシートの正常化は参考文書が示唆するように余程のことがない限り粛々と行う方針が推察される。その意味では、市場がインフレの停滞に対し、年内利上げに対する疑念として反応することにも合理性がある。

現時点ではこうした状況に特段の問題がある訳ではない。しかし、インフレの停滞が続き、12月利上げを見送る事態になっても、バランスシートの縮小は続くという奇妙な状況が出現しうる。

つまり、ポイントは、バランスシートの縮小がどの程度の引締め効果を持つかの理解が明示的に共有されていない点にあるようだ。FOMCもバランスシートの正常化を景気や物価に関連付けている以上、当然に引締め効果を念頭においている。その上で、バランスシートと政策金利の両方を同時に柔軟に運営することが、市場との対話の観点で望ましくないとの判断であれば、それ自体は合理的である。それでも、FOMCは、バランスシートの正常化の開始後の利上げについては、前者の引締め効果がどの程度あるかを示しつつ、利上げの合理性を説明することが望まれる。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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