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金融危機前の水準を超えた米国家計債務

2017年07月25日

<要旨>
2017年第1四半期の米国家計債務は、グローバル金融危機前のピークの水準を8年半振りに上回った。ただしこの間、家計債務に占める住宅ローンの比率は大きく低下し、また延滞比率も大幅に低下したことから、住宅分野での家計の過剰債務問題、金融機関の信用リスクはなお深刻ではない。他方、この間に家計債務の中で構成比率を高めたのは、学生ローンと自動車ローンである。前者の延滞比率は極めて高水準を維持しており、また後者は信用リスクの高いサブプライム向け貸出の増加とともに、延滞比率は2015年以降上昇傾向を辿っている。今後は両者の動きに注目しておきたい。金利上昇の影響などから、2017年に入ってからの自動車販売は減少基調を辿っているが、金融機関の自動車ローン、特にサブプライム向け貸出が抑制されれば、これが自動車販売の一段の調整を生じさせるとともに、米国経済全体にも悪影響を与える可能性も考えられる。またノンバンクの学生・自動車ローンで過度に信用リスクを抱えている可能性にも留意しておきたい。

米国家計債務は8年半ぶりに金融危機前の水準を回復

2017年第1四半期の米国家計債務残高は、12.73兆ドルと11四半期連続での増加となり、グローバル金融危機前のピークである2008年第3四半期の水準を8年半振りに上回った(図表1)(注1)。しかしこのことは、米国の家計がグローバル金融危機前のように、住宅関連分野で再び過剰な債務負担を負っていることの証拠とは言えない。名目GDPでみた家計債務残高は、2017年第1四半期に66.9%と、2008年第3四半期の85.4%と比べてなお相応に低いためである。

他方で重要なのは、米国家計債務残高が前回のピークの水準を回復するまでに8年半もの時間を要したということであろう。これは、①グローバル金融危機による家計のバランスシート調整圧力の大きさを示す、とともに、②グローバル金融危機後の米国経済活動の回復が非常に緩慢であったこと、の双方を意味していよう。

米国家計債務残高は、2008年第3四半期のピークから、2013年第2四半期のボトムまで14.1%下落したが、それ以前は、世界金融恐慌(The Great Recession)以降の回復から63年もの長い増加傾向を辿ってきており、この長きに渡る間に累積してきた歪みが、グローバル金融危機後の極めて大きな米国家計のバランスシート調整を引き起こしたものとも解釈できる(注2)。

低下する住宅ローンの比率

2017年第1四半期に米国家計債務残高はグローバル金融危機前(2008年第3四半期)のピークの水準を取り戻したものの、この間、債務の構成には大きな変化が生じたのである。住宅(モーゲージ)ローンの家計債務全体に占める比率は、2008年第3四半期の73.3%に対して、2017年第1四半期には67.8%まで低下した。それに対して、この間に構成比率を大きく高めたのは、学生ローンと自動車ローンであり、学生ローンは4.8%から10.6%、自動車ローンは6.4%から9.2%と、それぞれ上昇している。ちなみに住宅ローンについては、グローバル金融危機の引き金となったサブプライム向け貸出は減少傾向を続けており、クレジット・スコアが高く、信用リスクが小さい個人向けの貸出の比率が高まるという、質的な向上も続いているのである。

ホーム・エクイティ・ローン再拡大には注意

このように家計の住宅ローン債務については、抑制傾向が続いているものの、ホーム・エクイティ・ローン(注3)については、足もとで再拡大傾向を示している。グローバル金融危機以前と比べればその水準は低いものの、今後のリスクとしては注視しておきたい。

住宅モーゲージをより低い金利に借り換える際に、家計は、元本返済と住宅価格上昇を受けたホーム・エクイティの拡大に対応させて買入れ額を増加させ、それをキャッシュアウトして他の目的に利用する。フレディ・マック(米連邦住宅金融抵当公庫)によれば、2017年1-3月に住宅モーゲージの借り換えの際に、こうした形でキャッシュアウトした家計の比率は約半分に上ったという。これはグローバル金融危機前のピークである2006年半ばの約90%と比べれば、なおかなり低いものの、2008年以来の水準である。近い将来には大きな問題とはならないとしても、多少長い目で見た家計債務問題、銀行の信用リスク問題をより深刻にすることがないか注視が必要であろう。

自動車サブプライム・ローンの拡大

他方で、自動車ローンについてはサブプライム向け貸出が増加しており、過去数年の自動車販売の増加を支えた。貸出先のクレジット・スコアの最新の平均値は、住宅ローンが764であったのに対して、自動車ローンについては706と低めである。

返済延滞比率でも自動車ローンの上昇が目立つ

30日までの返済延滞比率は、全体で2017年第1四半期末に4.8%と、2016年末以降は概ね横ばい傾向を辿っている。また90日までのより深刻な延滞の比率を見ると、債務のタイプによってまちまちの動きとなっている(図表3)。最新値でその比率が高い順にみていくと、第1が、学生ローンの約11%(2017年第1四半期末)である。同比率はグローバル金融危機以前から上昇傾向を辿ってきたが、2012年以降は高水準横ばいの状態である。第2が、クレジットカード・ローンの7.5%(2017年第1四半期末)である。同比率は2010年以降に、比較的急速な低下傾向を辿ってきた。昨年からはやや下げ止まりの傾向が見られている。第3が、自動車ローンの3.8%である。2015年以降は、緩やかながらも上昇傾向を辿っている。第4は、ホーム・エクイティ・ローンである。そして、最も水準が低い第5が、住宅ローンであり、2010年のピークから一貫して低下傾向を辿っている。この点からも、家計が住宅ローンで深刻な過剰債務を抱えているリスク、銀行が同分野で深刻な過剰信用リスクを抱えている可能性は低いと言えるだろう。

他方で、過去数年間、問題視されてきた学生ローンと、足もとで延滞比率が高まっている自動車ローンについては、先行き、金融機関の信用コストを高める要因となる可能性があろう。6月28日にはFRB(米国連邦準備制度理事会)のフィッシャー副総裁は、低所得向けの自動車ローン、学生ローンの支払い遅延が増加していることを指摘し、金融システムの安定にリスクになる可能性があるとしている。

学生ローンの返済延滞比率は、2012年にクレジットカード・ローンを上回った。「借入れをしながら大学に通って高学歴を取得すれば、就職後の給与水準が高卒よりも高くなるため生涯総所得は高まる」、との考えから学生ローンを依存して大学進学を決める学生も少なくないが、そうした考えには最近揺らぎが見られているとの指摘もある(注4)。大学卒業を迎える4年生が抱える平均債務は、1993年の1万ドル未満から、2015年には3.5万ドルに膨らんだという(注5)。

足もとで自動車ローン抑制の動き

近年の自動車ローンの拡大と足もとでの延滞比率の上昇を受けて、大手米銀の間では、サブプライムを中心に自動車ローンを抑制する動きが見られ始めている(注6)。連邦預金保険公社(FDIC)の資料によると、1-3月期の商業銀行の自動車ローン残高は、前期比16億ドル減少し4,400億ドルとなった。これは6年ぶりの2四半期連続での減少であった。

OCC(米通貨監督庁)は、自動車ローン分野における貸出基準の過度な緩和、信用リスクの高まりを警戒し始めており、サブプライムを中心にする貸出業者に対する調査を始めた模様である。中古車価格は現在前年比8%程度下落しているが、下落傾向がこの先さらに強まれば、返済延滞比率あるいは返済不能(デフォルト)比率が一段と上昇し、銀行その他の貸出業者の自動車ローンの抑制傾向を一段と加速させるだろう。それは金利上昇の影響などから、既に2017年に入って減少基調を辿っている新車販売にさらなる打撃となり、米国経済全体にも悪影響を与える可能性も考えられるところだ。

大手商業銀行はこのように自動車ローンの抑制を始めている一方で、ノンバンクは貸出を増加させているという。さらに彼らは、返済延滞比率が高水準にある学生ローンの拡大も狙っているという。こうしたノンバンクの貸出業者が過度の信用リスクを既に負ってしまっている可能性も考えられる。


(注1)“Quarterly Report on HOUSEHOLD DEBT AND CREDIT (Q1 2017)”, Federal Reserve Bank of New York, May 2017
(注2)“Household Debt Reaches Milestone”, Asian Wall Street Journal, May 18, 2017
(注3)住宅の評価額から、その住宅を担保に借りている住宅ローンの残債を引いた価値(ホーム・エクィティ)を担保に借りるもの
(注4)“US household debt tops pre-crisis peak”, Financial Times, May 18, 2017
(注5)日経ヴェリタス(2017年6月11日)
(注6)“US consumer debt pile deters big banks from $1.2tn car-loan market”, Financial Times, May 30, 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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