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FRBのバランスシート圧縮と出口戦略

2017年07月24日

<要旨>
2017年6月のFOMCでは、FRBのバランスシート圧縮策についての具体策が公表された。同策は、2017年中にも開始される見通しである。さらに最終的な超過準備は、金融システムの安定に配慮して、過去数年の水準を下回るものの、グローバル金融危機を受けてLSAP(大規模資産買入れ策)を開始する前の水準にまでは戻らない見通しであることが示された。今回示されたバランスシート圧縮策については、この先、経済、金融情勢次第で修正される余地はあるが、そうした可能性を恐れて具体策の提示が遅れるよりも、その時点でのFRBの方針、考え方を丁寧に示し、修正状況についても丁寧に説明していく姿勢は、金融市場に評価されているものと考えられる。他方、今後、FRBがバランスシート縮小を始めた際に、2013年5月の「テーパー・タントラム」が再燃することを懸念する向きもあるが、実際には、「テーパー・タントラム」の再燃リスクは限られると思われ、FRBもそれに関して過度に慎重にはなっていないとみられる。それは、FF金利の水準が十分に正常化すれば買入れた資産の再投資政策を修正してバランスシートを縮小させるとのFRBの考えは、かなり以前から「出口戦略」で示された既定路線であり、既に金融市場に十分に織り込まれている点が、「テーパー・タントラム」の時とは大きく異なるためである。また、保有国債の平均償還年限の短期化という形で既にバランスシート政策の正常化、金融緩和効果の縮小は進められてきており、バランスシートの圧縮開始によって、金融緩和効果の縮小ペースが従来から高まるかは実は不確実である。この点からも、FRBはバランスシートの圧縮を着実に進めていくことが予想される。

FRBのバランスシート圧縮計画

2017年6月14日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、FRB(米連邦準備制度理事会)のバランスシート圧縮についての具体策が示された(注1)。2017年中に実施が始められる可能性が高い状況である。

財務省証券については、償還分のうち再投資されない償還限度額(保有残高減少分)を当初は毎月60億ドルとし、その後は3カ月ごとに60億ドルずつ拡大させて、1年後には300億ドルまで拡大させる。他方、MBS(モーゲージ担保証券)については、償還限度額を当初は毎月40億ドルとし、その後は3カ月ごとに40億ドルずつ拡大させて、1年後には200億ドルまで拡大させる。

償還額の見通しは明らかではないが、バランスシート圧縮から1年間程度は、償還限度額は償還額全体を下回り、償還分の部分的な再投資が維持されるとみられる。

超過準備は解消しない

FRBのバランスシートの圧縮を最終的にどの水準まで進めるかについては、明確な方針は示されなかった。しかし、「最終的な超過準備は、過去数年の水準を下回るものの、グローバル金融危機を受けてLSAP(大規模資産買入れ策)を開始する前の水準にまでは戻らない見通し」であることが示された。超過準備を維持する方針であることは、非伝統的な金融政策を完全に正常化させないことを意味しよう。また、一時的な措置として導入されたリバースレポ(短期資金供給手段)の制度が、定常化する可能性も意味しよう。

FRBがバランスシートの圧縮についてこのような方針を持つに至ったのは、2016年のジャクソンホール・コンファレンスでも議論されたように、リバースレポを活用して、超過準備の水準を維持することが、①銀行の高水準の流動性を維持し、また②金融機関の短期の安全資産への投資ニーズにFRB自身が応えることを通じて、金融システムの安定に資するという、プルーデンス政策の観点に根差した判断であると言える。FRBは、銀行がどの程度超過準備を需要しているのかを今後見極めたうえで、最終的な超過準備の水準を決めるとしている。

「出口戦略」の変遷:「出口戦略」第1弾

FRBはグローバル金融危機を受けた2008年の非伝統的金融緩和実施から、上記の2014年に始まる正常化の概ね中間時点である2011年に、政策の正常化手続きを議論し、それを公表していた。2011年6月に開かれたFOMCの議事要旨で明らかにされたその概要(Exit Strategy Principles)は、以下の通りであった。

①出口戦略の第1の手続きは、保有する証券の償還分について、一部あるいはすべてについて再投資を止める。
②それと同時、あるいはそのやや後に、FF金利のパスに関する「フォワードガイダンス」を修正し、適切な時期にFF金利を引上げることができるように、超過準備を一時的に削減する。
③経済状況が許せば、次の正常化のステップは、FF金利の目標値を引上げることになる。それ以降は、FF金利の目標値の水準あるいはレンジを修正することが、金融政策スタンスの主な調整手段となる。正常化の過程では、超過準備に対する付利金利と当座預金の水準の調整が、FF金利を目標値に誘導する手段となる。
④FF金利の目標が引上げられた後に、政府機関債の売却が行われる。売却の時期やペースについては、事前に公表される。売却のペースは比較的緩やかで一定ペースと見込まれるが、経済・金融環境の変化に従って双方向に調整される。
⑤政府機関債の売却は、金融市場への影響を限定的にする観点から、3年から5年程度の時間をかけてFRBの政府機関債保有が解消するペースになると見込まれる。その結果、FRBの証券保有全体は2年から3年で通常の水準に戻り、当座預金の削減とともに、通常の有効な金融政策の適用が可能になる。

「出口戦略」第2弾

「出口戦略」第1弾は、QE2が終了したタイミングで出されたものである。それまでの政策対応を受けて経済・物価環境が先行き改善していけば、これ以上追加的な措置を実施しなくても、政策の正常化を開始できる、との想定でこれが作成されたと考えられる。しかしながらその後も経済、物価環境の改善は想定通りには進まず、FRBはその後、オペレーション・ツイスト、QE3と追加策の実施を余儀なくされたのである。

さらにFRBに出口戦略の修正を迫るもう一つの契機となったのは、FRBが資産買入れ増加のペースの縮小(テーパリング)を示唆したことが、米国での長期金利の大幅上昇を招き、国際金融市場動揺させた、2013年5月の「テーパー・タントラム(taper tantrum)」の経験であった。

「テーパー・タントラム」は、肥大化させたバランスシートを調整することの難しさをFRBに強く痛感させるきっかけになった。さらにバランスシートの調整によって生じる長期金利の上昇で金融政策の正常化を進めるよりも、まずは、伝統的な金融政策の手段である短期金利の引上げを通じて金融政策の正常化を進める方が安全である、との認識をFRBが持つに至ったと思われる。

以上のような経緯を経て、2014年9月にFRBは、2011年の出口戦略を修正する、「出口戦略第2弾(Policy Normalization Principles and Plans)」を示したのである。その概要は以下の通りである。

①金融緩和の縮小が正当化される経済状況あるいは経済見通しになれば、FF金利の誘導目標レンジを引き上げる。
②正常化の過程では、超過準備への付利金利を調整することを通じて、FF金利の誘導目標レンジを動かす。
③FF金利の誘導目標レンジをコントロールするために、必要に応じて、翌日物リバースレポやその他補助的手段を用いる。翌日物リバースレポの利用は必要最小限の規模とし、必要性がなくなれば解消させる。
④FF金利の誘導目標レンジの引き上げを始めた後に、保有証券の再投資を停止あるいは部分的に停止することを始める。そのタイミングは、経済・金融環境や見通し次第である。
⑤現時点では、正常化の過程で政府機関債とMBSを売却することは想定していない。ただし長期的には限定的な規模での売却はあり得る。売却のタイミングとペースについては、事前に公表する。
⑥長期的には、金融市場への影響を最小限にするために、金融政策を効率的に、また有効に執行できるのに必要な最小規模の証券、原則は財務省証券を保有する。

「出口戦略」の提示と金融政策への信頼感

過去2回の大きな修正を経たうえで、今回FRBのバランスシート圧縮の具体策が提示された。これは「出口戦略」第2弾の④に漸くたどり着きつつあることを意味している。

他方、「出口戦略」第2弾の④は、「出口戦略」第1弾では①と最初のプロセスであったことを思い起こすと、この間の「出口戦略」の修正の大きさが認識できる。この点を踏まえると、今回示されたバランスシート圧縮策についても、この先、経済、金融情勢次第で修正される余地はあるだろう。しかし、そうした可能性を恐れて具体策の提示を遅らせるよりも、その時点でのFRBの方針、考え方を丁寧に示し、修正状況についても丁寧に説明していく姿勢は、金融市場に評価されているものと考えられる。それこそが、正常化に伴う不確実性を軽減し、またFRBに対する信頼性を高めること等を通じて、円滑な正常化を大いに助けていると思われる。この点は、日本銀行の「出口戦略」の提示の是非についても、大きな示唆となろう。

「テーパー・タントラム」の再燃リスクは限られる

金融市場では、FRBの金融政策の正常化策が、FF(フェデラルファンズ)金利の引き上げからバランスシートの圧縮へとステージがさらに進むことで、経済や金融市場に悪影響を与えることがないかどうかが心配されている。特に今後、FRBがバランスシート縮小を始めた際に、2013年5月に、FRBが資産買入れ増加ペースを縮小させる考えを示唆したことで、長期金利が大幅に上昇し、エマージング市場を混乱させた、いわゆる「テーパー・タントラム」の再燃を懸念する向きもある。

しかし実際には、「テーパー・タントラム」の再燃リスクは限られると筆者は考えている。それは、「FF金利の水準が十分に正常化すれば、買入れた資産の再投資政策を修正してバランスシートを縮小させる」とのFRBの考えは、以前から「出口戦略」で示された既定路線であり、既に金融市場に十分に織り込まれてきたという点、さらに先行きの方針についても既に詳細に示されているという点が、「テーパー・タントラム」の時とは大きく異なるためである。

FRBはバランスシートの圧縮開始に前向き

さらにFRB自身も、バランスシートの圧縮に年内に着手することに前向きであるように見える。その背景には、先行きのFRB高官人事の不確実性が高いこともあるだろう。またFRB自身も、概して「テーパー・タントラム」の再燃リスクは大きくないと考えているように思われる。その理由は、第1に、既に述べたように、FRBの綿密なコミュニケーションを通じて、それが金融市場に十分に織り込まれてきた点、に加えて、第2に、政府の国債管理政策によって、長期金利上昇のリスクが軽減されると考えられる点がある。2016年のMMF改革の結果、T-Billを含む安全資産での運用を求められるガバメントMMFの運用需要が倍増したことから、FRBが大量の長期財務省証券の保有を削減しても、米財務省はそれをT-Billに置き換えることが可能である。そのため、財務省が長期財務省証券の発行を抑制することが長期金利の上昇を抑える、というものである。第3は、NY連銀のスタッフによる分析によれば、先行きのバランスシートの圧縮による長期金利(タームプレミアム)押し上げ効果は、年間0.2%以下にとどまる、との試算が示されていることである。そして第4は、「バランスシート政策の正常化は既に進展している」一方、バランスシートの圧縮が必ずしもこの正常化のペースを加速させる訳ではない、という点である。

バランスシート政策の正常化は既に進展している

ここ(上記第4)でいうバランスシート政策の正常化とは、買入れた国債(財務省証券)の平均償還年限(デュレーション)の縮小のことである。国債買入れ策の政策効果の程度は、①買入れ規模と、②買入れた国債の平均償還年限(デュレーション)で測られる。前者の買入れ規模が大きいほど、実質長期金利がより低下して政策効果が高められる一方、後者の買入れた国債の平均償還年限(デュレーション)が長いほど、より長めの実質長期金利の低下が促され、政策効果が高められる、と考えられる。このうち後者の正常化は既に相応に進んでいたのである。

ドイツ銀行の試算(注2)によれば、FRBが保有する財務省証券の平均償還年限は、2013年末の約7.5年から、2017年1月末には6年強まで低下したという。保有する財務省証券の残高を維持するとの方針の下で償還分を再投資し、新たに財務省証券を買入れる際に、保有する財務省証券の平均償還年限を下回る償還年限の財務省証券を買入れる方針をとれば、平均償還年限は低下していくことになるのである。これはイールドカーブをスティープ化させることを通じて、金融緩和効果の縮小をもたらす正常化策の一環と解釈できる。

バランスシート縮小が金融緩和効果の縮小ペースを必ずしも高めない

先行きFRBが財務省証券の新規買入れを完全に停止し、償還見合いで保有する財務省証券の残高を減少させる場合には、その平均償還年限は年間1年弱のペースで短縮されていくことになる。他方で、FRBが今まで実施してきたように、償還分と同額の財務省償還を買入れる再投資を行う場合には、残高の平均よりも償還年限が短い財務省証券を買入れれば、より残存期間の短い財務省証券が残高に新たに加わることで、平均年限はそれ以上のペースで短期化する。

ところでこの先、バランスシート圧縮策が開始され、償還分の一部再投資を通じて残高が削減される場合でも、より残存期間の短い財務省証券が残高に加わることで、平均年限は短期化する。ただし、償還分と同額の再投資を行う場合と比べれば、その短期化のペースはより緩やかとなる可能性があるのである。

つまり、残高の平均よりも償還年限が短い財務省証券を買入れるという現在のFRBの方針が維持される場合でも、部分的な再投資が行われる場合には、財務省証券の平均償還年限の短期化のペースは鈍化し、金融緩和効果の縮小ペースも鈍化すると考えることができる。この点からも、FRBは「テーパー・タントラム」の再燃を過度に恐れることはなく、バランスシート縮小策を着実に進めていくことが予想される。

政策効果の不確実性を残すアドホックな出口戦略

このように、FRBはバランスシートを縮小させることで、金融緩和効果を縮小させるとしても、保有する財務省証券の平均償還年限の短期化ペースはむしろそれ以前よりも鈍化することで、両者を合計した金融緩和効果の縮小ペースが、果たして高まるのか、鈍化するのかは明らかではないのである。

FRBのマクロ計量経済モデルは、資産買入れ策が生じさせるタームプレミアム(注3)の変化に対する長期金利やその他金融市場の反応が組み入れられており、バランスシート変化の経済効果を織り込んでいる。しかし、財務省証券の平均償還年限の変化の影響は反映されない。従って、①財務省証券の残高削減と②財務省証券の平均償還年限の縮小、という2つの政策を組み合わせた場合の政策効果は不確実である。これに③FF金利の引き上げ策、が平行して進められる場合の不確実性についてはなおさらである。

既に見た「テーパー・タントラム」発生を機に、FRBはそれ以前に示していたバランスシート縮小から始める「出口戦略」を修正し、政策効果や金融市場の反応が読みにくいバランスシート縮小よりもFF金利の引き上げを優先させる方針に転じた。しかし、高水準のバランスシートの縮小とFF金利引き上げの緩和縮小効果を組み合わせた場合に、果たしてどのような政策効果の変化が生じるかについて、深い分析を進めた形跡はない。財務省証券の平均償還年限の変化の影響についても同様である。「テーパー・タントラム」発生を機に、FRBの出口戦略は、実際にはかなりアドホック(場当たり的)なものに転じてしまった感がある。

FRBが進める「出口戦略」は、将来、正常化に着手する他の中央銀行には大いに参考になるものの、こうしたアドホック(場当たり的)な対応については、むしろ反面教師とすべきであるかもしれない。


(注1)“Decisions Regarding Monetary Policy Implementation”, June 14, 2017
(注2)“Maturing of Fed’s Portfolio Acts as Muted Tightening”, Wall Street Journal, 3 February 2017
(注3)名目長期金利の構成要因のうち、実質短期金利見通しと中長期予想物価上昇率以外で決まる部分。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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