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6月FOMCの議事要旨-A couple of months

2017年07月07日

はじめに

バランスシートの「正常化」に関しては、既にFOMC自身が方針を公表したこともあり、今回の議事要旨はこの点に関して期待されていたほど新たな情報を与えるものではなかった。それでも、利上げも含む「正常化」全般を展望する上では、FOMCメンバーの間で景気や物価に関する意見にややばらつきがみられることを示唆している点で注目すべき内容を含んでいる。

金融経済情勢の判断

米国の金融経済情勢に関するスタッフの議論(4ページ左段~5ページ左段)は、景気や物価の減速を示す指標について、総じて一時的(transitory)との評価を下している。

個人消費に関しては、自動車販売に代表されるように指標が区々になったことを認めつつ、雇用と所得の堅調な拡大、家計資産の増勢の継続、高水準のセンチメントといった磐石な基盤によって、全体として拡大を維持するとの見方を維持している。物価に関しても、足許で様々な指標が鈍化していることを認めつつも、中長期のインフレ期待がサーベイ・ベースを中心に安定していることを強調し、大きな問題でないとの見方を示唆している。

これに対し、FOMCメンバーによる議論(7ページ右段~9ページ左段)は、必ずしも一枚岩でないトーンを示唆している。

例えば、個人消費の先行きに関しては、上記のようなスタッフ見通しに概ね合意しつつも、地区連銀のコンタクト先の一部が自動車販売の一段の減速に懸念を示したことが明らかにされている。同時に、いくつかの地区で自動車メーカーが当面の減産見込みを表明したことを含め、総じて生産活動は高水準ながら減速がみられるとの指摘があることが記されている。企業のセンチメントも依然として高水準ではあるが、トランプ政権による財政刺激への期待の剥落を主因に、楽観的な見方がやや後退したことが指摘されている。

物価に関しては、既に6月FOMC直後のイエレン議長の会見で明らかにされたように、足許でのインフレ率の減速が携帯電話サービスや処方箋薬の価格の急落による面が大きく、従って一時的に止まるとの見方で概ね合意したことが示されている。もっとも、FOMCメンバーの数名(several)がこうした見方に疑問を示すとともに、インフレ目標の達成時期がさらに遅延するとの懸念を示したことも明らかになっている。

彼らの論拠は、経済資源の稼動率(utilization)がインフレに与える上昇圧力が、過去数十年に比べて低下しているのではないかという点にあり、つまり、フィリップスカーブの傾きがフラット化したとの認識に基づいているようだ。この点自体は否定しがたい事実であるが、他のFOMCメンバーからは、失業率が長期水準を顕著に下回る(ようになるまで経済資源が稼動する)ようになれば、インフレ率と経済資源の稼働率とのタイトな関係が復活するとの反論がなされたことも記されている。

もっとも、この論点に関しては、FOMC自身が「長期」の失業率見通しについて下方修正を繰り返してきた-6月FOMCでも4.7%→4.6%へわずかながら下げた-ことが象徴するように、FOMCメンバーにとってかなり厄介な点になっている訳である。

なお、金融政策の「正常化」との関係では、利上げを粛々と継続しているにも関わらず、長期金利が軟化し、株価も上昇し続けるなど、金融環境がむしろ緩和方向の動きを続けていることをどう解釈するかも、市場からみれば興味深い点である。

この点に関するスタッフの議論(5ページ左~5ページ右)は、足許のインフレ指標が弱かったことが長期金利の軟化に繋がった点を指摘するとともに、政策金利とバランスシートの双方に関する「正常化」についてのFOMCのコミュニケーションが、これまで市場に円滑に消化されているといった見方を示している。

これに対し、FOMCメンバーはより広い論点を提示している。例えば、株価は高水準の企業収益に支えられているとしながらも、一部(a few)のメンバーがvaluationの問題を挙げたことを示している。また、長期金利の低下に関しては、長期的な経済成長期待や、FRBの資産保有によるstock effectの影響も指摘されている。このほか、投資家のリスクテイク姿勢の強まりや市場のボラティリティ低下が資産価格の上昇に繋がっているとの見方も示されている。

金融政策の正常化

6月のFOMCは、上記のような議論を行った上で追加利上げを決めた訳であり、その意味ではFOMC内での若干の意見の対立も、金融政策の正常化戦略に直ちに影響を及ぼすものでなかった。それでも、今回の議事要旨はより長い目でみれば意味を持ち得る論点も示唆している(9ページ右~10ページ右)。

例えば、バランスシートの「正常化」を具体的にいつから始めるかに関しては、数名(several)のメンバーが、既に市場は準備しているので2ヶ月以内(couple of months)でよいと主張した。一方、他の数名(several others)は景気や物価の見通しを十分評価するため、年内でも後ズレさせるべきと強調したことが明らかになっている。また、数名(several)のメンバーがバランスシート調整を進める下では、利上げペースがそうでない場合に比べて緩やかになるとの見方を示したのに対し、他の数名(several others)のメンバーは、バランスシート調整は利上げ判断に対して大きな影響を与えるものではないと反論した。

さらに、数名(several)のメンバーは、継続的かつ大幅な失業率のundershootは金融システムの不安定化(過熱)や、インフレの急加速とそれに対する急激な利上げを招来するリスクを指摘した。これに対し、他の(others)メンバーは、インフレ率の急上昇に対しても、FOMCは伝統的な政策手段(利上げ)で対応しうることを指摘するとともに、ある(one)メンバーは金融危機以前とは規制の状況が異なるだけに、金融システムはより安定的(resilient)であると反論した。

もちろん、おそらくこうした意見の対立は、先に見た景気や物価の見方とも併せて同じメンバーによるものと推察され、FOMC内が「百家争鳴」になっている訳ではないのであろう。従って、次の焦点となる9月までには、バランスシート政策も含めて相応の合意が成立することは十分にありうる。

それでも、上記のように対立が見られたポイントの多くは、米国の金融経済とその下での金融政策の「正常化」に関して、かなり本質的な面を含んでいる面もある。どちらの立場が正しかったかは、来年の今頃には明らかになっているのであろう。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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