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トランプ政権の金融制度改革に関する財務省報告

2017年06月15日

米国のトランプ大統領が進めるドッド=フランク法(2010年ウォール街改革・消費者保護法、以下「DF法」)の見直しを初めとする金融制度改革が本格的に動き出そうとしている。先日の金融選択法案の議会下院通過(注1)に続き、6月12日には、2月の大統領令(注2)で指示されていた財務長官による制度改革に関する報告書の第一弾が取りまとめられた。

今回の報告書は、銀行や信用組合など預金取扱金融機関に係る規制に関する改革の内容を整理したものであり、今後、①清算・決済システムを含む資本市場の制度、②アセット・マネジメント及び保険業、リテール向け及び機関投資家向けの投資商品や投資手段、③ノン・バンク金融機関、金融テクノロジー、金融イノベーションのそれぞれについても、別途、報告書が取りまとめられる見通しである。

今回の報告書が提言した制度改革の概要は、次の通りである。

①自己資本規制及び流動性規制の改革

・DF法に基づく半年ごとのストレステスト(資産査定)実施が義務付けられる金融機関の範囲を現行の連結総資産100億ドル超から500億ドル超に引き上げるなど、金融機関の健全性基準規制をより柔軟で金融グループの実態に即したものに改める。
・連邦準備制度理事会(FRB)による金融機関の包括的資本分析及びレビュー(CCAR)の実施サイクルを2年に改めるなど、監督手法の簡素化を図る。
・資本市場の機能を強化する観点からレバレッジ比率規制の計算方法を改める。
・バーゼルⅢなどの国際合意よりも厳しい内容となっている米国内の規制基準を見直す。

②中小金融機関(community financial institutions)に対する規制の改革

・中小金融機関に関する自己資本比率規制等の規制基準を金融機関の負担軽減の観点から見直して簡素化する。
・地域開発金融機関(CDFI)及び少数民族向け預金金融機関(MDI)が調達できる劣後ローンや自己資本の範囲を拡大する。
・預金保険による保護対象となっている信用組合に対する自己資本規制を緩和する。
・中小金融機関の新規設立、参入を促進する。
・中小金融機関が求められる報告の内容を簡素化し、検査の頻度を引き下げる。

③金融機関のガバナンス規制や費用効果分析等の改善

・金融機関の取締役会に求められる経営監督機能の内容を見直し、規制面のチェック機能を過度に求めないこととする。
・FRB、FDIC、証券取引委員会(SEC)、商品先物取引委員会(CFTC)等の規制機関による規則制定に関して、経済的に重要な意味を持つ規制規則の提案に際しては必ず費用対効果分析を公表してパブリック・コメントを募集するよう求める。
・地域再投資法(Community Reinvestment Act: CRA)に基づく少数民族や低所得者向け融資等をめぐる規制の改善を図る。
・規制上の課題発見に関するプロセスの改善を図る。

④リビング・ウィル(生前遺言)制度の改革

・金融システム上重要な金融機関(SIFIs、連結総資産500億ドル以上の銀行持株会社及びFRBの監督下に置かれるノンバンク金融会社)に対して作成が求められるリビング・ウィルについて、対象となる金融機関の範囲の限定、提出頻度の引き下げ(毎年から2年に1回へ)、作成ガイダンスの明確化など金融機関の負担軽減の観点からの改善を求める。

⑤外国銀行に対する規制の改革

・米国で活動する外国銀行に対する規制基準について、リビング・ウィルの作成義務付けなどの厳しい規制を課す基準を銀行グループが全世界で保有する総資産に依拠するものから米国内におけるリスク・プロファイルに基づくものに改める。
・米国基準に基づくCCARの実施義務付け対象となる外国銀行の範囲を縮小する。
・外国銀行の総損失吸収能力(TLAC)の算定方法を在外親会社が米国子会社に資本や流動性を供給する能力を考慮したものに改める。

⑥ボルカー・ルールの改善

・銀行・銀行持株会社による顧客向けサービスと関係のない自己勘定取引やヘッジ・ファンド及びプライベート・エクイティ・ファンドへの投資を禁止するとともに、最大手金融機関の規模を制限する、いわゆるボルカー・ルール(The Volcker Rule、DF法619条)について、連結総資産100億ドル以下の小規模金融機関を適用対象から除外し、100億ドル超の金融機関についても自己勘定取引の規模が小さいものを適用除外とするなど、規制の緩和を図る。
・ルールを所管する複数の規制監督当局間の協調を図り、規制を一貫したものとする。
・自己勘定取引規制の対象と適用除外対象を定義の簡素化などを通じて明確化する。
・マーケットメイク活動に関する適用除外をより柔軟にする、ビジネス・リスクのヘッジのための取引を容易化するなどの改善を図る。
・自己資本が十分充実した金融機関についてはボルカー・ルールの適用除外とする。

⑦金融消費者保護局(CFPB)の改革

・DF法に基づいて新設された規制機関であるCFPBについて、大統領による局長の罷免権導入や予算の議会承認制度導入など、大統領や議会に対してしっかりと責任を負うという観点から機構改革を行う。
・エンフォースメント(法規執行)活動を過度に重視するCFPBの姿勢を改め、関係当局がCFPBの法解釈について事前に熟知しているような態勢を整備する。
・CFPBによるノー・アクション・レター発給の基準を緩和する。
・CFPBによるエンフォースメント活動を行政手続から裁判手続に改める。
・CFPBによる規制見直しの仕組みを強化する。
・CFPBが整備している消費者からの苦情に関するデータベースの管理を強化する。
・他の規制監督当局と重複するCFPBの監督権限を剥奪する。

⑧住宅モーゲージ(抵当権)貸出の規制改革

・住宅モーゲージ貸出やその証券化をめぐる諸規制について、ファニーメイやフレディマックといった政府支援機関(GSE)のシェアを低下させ、民間モーゲージ貸出の拡大と消費者に提供される選択肢の多様化を実現するという観点から様々な見直しを行う。

⑨レバレッジド・ローンをめぐる規制改革

・M&Aや事業再生に活用されるレバレッジド・ローンの市場を拡大させるという観点から2013年のレバレッジド・ローン・ガイダンスの見直しなどの改革を行う。

⑩中小企業向け貸出の規制改革

・中小企業向け貸出や農業向け貸出の主力となっている中小金融機関に対する各種の規制を緩和する。
・不動産担保融資に関するガイダンスの見直しなど規制緩和を行う。
・中小企業向け貸出に関するレバレッジ比率規制を見直す。
・CFPBに対して中小企業向け貸出に関するデータの収集やガイダンス策定を命じたDF法1071条の適用を廃止する。

下院を通過した金融選択法案の内容は、ボルカー・ルールの全廃やCFPBの事実上の解体を盛り込むなど、財務省報告よりも更に一歩踏み込んだものとなっている。しかし、今回の報告書も法案で示された自己資本を十分に備えた銀行に対して自己資本比率規制の適用を免除する制度を高く評価するなど、その問題意識や対応策には共通項が多い。ムニューチン長官は、今回の報告書は行政府として直ちに着手できる改革事項に力点を置いたとして、議会と共同歩調で制度改革を進めていく意向を表明しており、今後の動向が注目される。


(注1)当コラム「ドッド=フランク法改正案の下院通過」参照
(注2)当コラム「動き出すトランプ大統領の金融制度改革」参照

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

注目ワード : ドッド=フランク法

注目ワード : ボルカールール

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