1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. FRBのイエレンの記者会見-Policy Normaliza…

FRBのイエレンの記者会見-Policy Normalization

2017年06月15日

はじめに

今回のFOMCに関しては、利上げの決定自体よりも、足許の景気指標や物価が軟化する中で、今後の利上げに向けた考え方に何らかの変化が生ずるかどうかに注目が集まっていた。加えて、かねて年内の開始が示唆されていた再投資政策の見直しについても、どこまで具体案が示されるかが焦点であった訳である。これらの点を中心に、FOMCの声明文や参考資料を参照しつつ、いつものように記者会見の内容を検討したい。

金融経済情勢の判断

実は、今回の声明文は足許での景気や物価の軟調さを率直に認めている。つまり、本年入り後の経済活動の拡大が緩やかであると総括した上で、デュアルマンデートの双方の柱について、雇用の拡大が堅調だが減速したことや、インフレ率が最近低下したことに言及している(第1パラグラフ)。特に、インフレ率に関しては、短期的には2%を幾分下回る形で推移するとの見通しも示している(第2パラグラフ)。このため、記者会見でも景気や物価の見通しを改めて質す趣旨の質問が目立った。

しかし、イエレン議長は、インフレ率の減速が春の特殊要因-具体的には携帯電話の通信料引下げと処方箋薬の価格低下を挙げた-によって生じた面が大きいと指摘するとともに、既にタイト化している労働市場の改善が更に進むことで、賃金を通じた圧力も加わるとして、2%目標に向けた動きは継続するとの見方を示した。実際、声明文でも、中期的にはインフレ率が2%付近で安定するとの見方が維持されている(第2パラグラフ)。

こうした議論を反映する形で、今回公表された景気や物価の見通し(SEP)も、基調的には前回(3月)から変化していない。実質GDP成長率の2017~19年の見通しは、2.2%→2.1%→1.9%とされ、2017年がむしろ0.1%ポイント上方修正されただけで、他は前回と変わっていない。一方、PCEコアインフレ率については、2017年が前回(3月)の1.9%から今回は1.7%に下方修正されたが、2018~19年はともに2%のまま維持された。

利上げと政策金利の予想パス

今回のFOMCは、広く予想されていた通り25bpの利上げを決定した訳であるが、その後の政策金利の予想パスは、上記のSEPの内容に整合的な形で前回(3月)の内容が概ね維持された。つまり、2017~2019年の各年末の政策金利は1.4%→2.1%→2.9%と、前回(3月)の1.4%→2.1%→3.0%とほとんど変わっていない。

この点に関しては今回のSEPが失業率見通しをまたも下方修正した点も興味深い。具体的には、2017年~19年の見通しは4.3%→4.2%→4.2%となり、4.5%が3年続くとする前回(3月)の見通しからさらに引き下げられた。こうした修正は、上記のように実質GDP成長率が潜在成長率(FOMCの用語では長期成長率であり、今回も1.8%に据え置かれた)を上回って推移し続けるのにインフレ率が加速しない事実と整合的な内容にする趣旨によるとみられる。

これに対して、記者会見では、FOMCによるNAIRUの推計に疑念を呈する質問も示され、イエレン議長もインフレ率の動向は引続き慎重に注視すると回答したが、実際、FOMCは当初は5.2%としていた「長期失業率」を今回は4.6%にまで下方修正してきた訳である。こうしたインフレ構造の問題は、現在はともかく、FRBがフォワードルッキングに利上げを進めていった段階では、中立的な政策金利を巡る議論の中で再び焦点となることも考えられる。

再投資政策の見直し

今回のFOMCに関してもう一つの注目点であった再投資政策の見直しに関しては、声明文の中で、経済が予想通り推移すれば本年内にバランスシートの正常化政策を開始するとの方針を示した。その上で、FOMCとして合意した内容を、金融緩和の正常化に関する基本方針(2014年9月)に対する修正の形で、参考資料として今回公表した。

具体的には、①国債とAgency MBSの保有削減は、政策金利の正常化が十分進捗(well underway)してから開始する、②国債やAgency MBSは、毎月の上限(cap)を超えた償還額分だけ再投資する、③具体的な上限は、国債は当初60億ドル、Agency MBSは当初40億ドルに設定し、3ヶ月ごとに国債は60億ドル、Agency MBSは40億ドルづつ増加させる、④こうした引き上げは12ヶ月間続けて、国債は300億ドル、Agency MBSは200億ドルに達したらそのまま維持する、という方針が示された。

その上で参考資料は、正常化後の当座預金残高について、現在よりはるかに小さいが、金融危機前の水準よりは大きいとの見方を示した(その意味ではFOMCがバランスシートの「正常化政策」と称するのは、必ずしも適切でない)。もっとも、その具体的水準は、金融機関による当座預金への需要と、FRBによる最も効率的で効果的な政策運営に依存する点を指摘するに止めた。

今回公表された内容は、5月のFOMCの議事要旨で示唆された線に具体的な数字が加わっただけに、現時点で市場にとって大きなサプライズになっていない。その点では、イエレン議長が今回の記者会見でも強調したように、再投資政策の見直しをgradualかつpredictableに行うという方針は成功しているように見える。

ただし、今回の公表文にも参考資料にも具体的にいつ着手するかは明記されていない。声明文は「本年内」とだけ記述し、参考資料は政策金利の正常化が十分進捗した後とだけ書いている。記者会見ではこの点に質問が示されたが、イエレン議長は具体的な回答を避けた。おそらく、FOMCは財政政策の帰趨による影響も含め、最後まで柔軟性を留保したいのであろう。しかし、年内に議長会見のあるFOMCは9月と12月しか残っておらず、FOMCメンバーが年内あと1回の利上げを予想している以上、実際の柔軟性の余地はそう多くないように見える。

参考資料でもう一つ興味深いのは、正常化後の政策手段の考え方である。イエレン議長が主張してきたように、短期の政策金利を主たる手段とすると明記されている一方、経済が顕著に悪化した場合は再投資政策を再び発動するとも記されている。更に、利下げだけでは経済の悪化に対応できない場合は、バランスシートの規模や構成の変化-つまり量的緩和-を含むあらゆる手段を活用する用意があるとも記している。FOMCは、2019年末までに政策金利を「長期」の水準である3%に引き上げる考えであるが、これ自体が過去の局面に比べて低いだけでなく、景気の展開如何ではそこまで行き着かないこともありうる。政策手段を巡る議論はこうした環境下での現実論を反映している面があろう。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています