1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 大崎貞和のPoint of グローバル金融市場
  5. ドッド=フランク法改正案の下院通過

ドッド=フランク法改正案の下院通過

2017年06月12日

2017年6月7日、米国の連邦議会下院は、いわゆる世界金融危機後に金融規制を強化するために制定された2010年ウォール街改革・消費者保護法(ドッド=フランク法、以下「DF法」)の諸規定を大幅に改正する2017年金融選択法案(Financial CHOICE Act of 2017, H.R. 10)を賛成233、反対186、棄権11で可決した。

この法案は、共和党のジェブ・ヘンサーリング下院金融サービス委員長が4月26日に提出したものである。同議員は以前からDF法の見直しに積極的であり、トランプ政権発足前の2016年9月にも、同名の金融選択法案の下院委員会通過を実現させた実績がある。

下院を通過した法案の主要な内容は、次の通りである。

1.整然清算権限(Orderly Liquidation Authority)を定めたDF法第2編及びそれに関連する諸規定の廃止

整然清算権限とは、破綻すれば金融システムの安定性に影響を及ぼすような金融機関の経営者がモラル・ハザードに陥らないよう金融機関の清算にあたっての公的資金注入を否定し、株主や債権者の負担による破綻処理と経営者の退陣を求める制度であり、財務長官の決定に基づいて連邦預金保険公社(FDIC)が破綻金融機関の管財人となって整然清算手続きを遂行するものとされている。この制度創設の狙いは、いわゆる「大きすぎて潰せない(too big to fail)」という問題を解消し、大規模な金融機関にも経営規律が有効に働くようにすることであった。

しかしトランプ政権は、DF法の整然清算手続きが、整然清算にあたって管理費用の支払いや財務長官に対して発行されるFDIC債の元利金の支払い及びFDICの権限行使に要する資金を賄うために整然清算基金(Orderly Liquidation Fund)を創設したことなどで、最終的に納税者の負担による金融機関の破綻処理を容認していると批判してきた。

こうした批判的な見方に同調する金融選択法案は、整然清算権限を廃止する一方で、金融規制当局による一定の関与を前提とした金融機関を対象とする破産手続を導入するとしている。新たな手続は、連邦倒産法典(Title 11, U.S. Code)の改正によって設けられ、連邦倒産法典に基づく他の手続と同様に、連邦倒産裁判所の監督の下で進められることになる。

また、金融選択法案は、金融安定監督評議会(FSOC)に与えられている金融システムの安定性に影響を及ぼすために連邦準備制度理事会(FRB)が監督すべきノンバンク金融会社を特定する権限やいわゆるシステム上重要な金融機関などを特定する権限を剥奪するとともに、FRBによる緊急融資権限に新たな制約を加えるとしている。

2.いわゆるボルカー・ルールの廃止

DF法では、銀行・銀行持株会社による顧客向けサービスと関係のない自己勘定取引やヘッジ・ファンド及びプライベート・エクイティ・ファンドへの投資を禁止するとともに、最大手金融機関の規模を制限する、いわゆるボルカー・ルール(The Volcker Rule)が導入されることになった。金融選択法案は、ボルカー・ルールを定めたDF法619条やその関連諸規定をすべて廃止するとしている。この改正が実現すれば、大手金融グループは、リスク・テイクをより積極的に行うことが可能となるだろう。

3.その他の金融規制の緩和

レバレッジ比率10%以上といった基準を満たして資本が十分に強固であると認められる「適格銀行(qualifying banking organization)」は、自己資本比率規制などの適用免除(regulatory off-ramp)を受けることができるようになる。中小金融機関に対してもストレス・テストの実施頻度の引き下げなどの規制緩和が行われる。また、デビット・カード取引に対して課す手数料を規制した、いわゆるダービン修正条項(Durbin Amendment, DF法1075条)を廃止する。

このほか金融選択法案は、様々な論議を呼んできた労働省によるフィデューシャリー規則(2016年4月発表)を廃止するとともに、SECがブローカー・ディーラーの行動規範に関する規則を制定するまでの間、労働省による新たなフィデューシャリー規則の制定を禁じるとしている。

4.金融規制当局の機構改革

金融選択法案は、DF法によって新設された独立性の高い規制監督機関である金融消費者保護局(CFPB)を消費者法執行庁(Consumer Law Enforcement Agency: CLEA)に衣替えするとしている。CLEAは、CFPBと同じく独立の規制監督機関だとされるが、大統領の任命する長官の解任が容易になるなど、行政府からの独立性は従来よりも低いものとして位置づけられている。

また、各州によって担われている保険業規制のモニタリングを実効あらしめるためにDF法によって新設された財務省連邦保険局は廃止され、新たに大統領によって指名される任期6年の独立保険監督官(The Independent Insurance Advocate)が任命されることとなる。

5.ジョブズ法2.0

金融選択法案は、DF法の見直しを主な狙いとするものだが、同法の視野の外にある金融規制についてもいくつかの重要な改正を行おうとしている。とりわけ注目されるのは、「ジョブズ法2.0」と通称される証券募集にかかる開示規制の見直しなど、ベンチャー企業による資金調達を円滑化するための改正である。これらの改正が「ジョブズ法2.0」と呼ばれるのは、2012年4月に制定されたジョブズ法(JOBS Act: Jumpstart Our Business Startups Act)で実現した規制緩和を更に一歩進める内容となっているためである。

具体的には次のような内容が盛り込まれている。

①株式報酬プラン等に関連して行われる2,000万ドル以下の募集・売出しに関する情報開示義務の軽減。
②1933年証券法4条(a)項(7)に基づく適格投資家(accredited investors)への私募証券転売に係る登録規制免除の拡大。
③発行者と関係の深い者35名未満への少額の証券勧誘に関する登録免除。
④クラウドファンディングをめぐるブローカー・ディーラー登録免除の拡大。
⑤少額公募の登録免除上限の5,000万ドルから7,500万ドルへの引き上げ。
⑥私募の登録免除に関する証券取引委員会(SEC)規則であるレギュレーションDが禁じる一般向けの勧誘や広告に関する規制の明確化をSECに対して求める。
⑦国法証券取引所の新たな類型として、アーリー・ステージの成長企業の発行する証券を上場する「ベンチャー取引所」を設け、レギュレーションNMSによる規制の適用除外とするなど、自由度の高い市場運営を認める。

以上のようなDF法改正案が下院を通過したことは、トランプ政権の目指す金融規制改革が前進しつつあることを示すものと見ることもできる。

もっとも今回の下院での投票結果は、与党共和党議員のほとんどが金融選択法案に賛成する一方、野党民主党議員のほとんどが反対にまわるという典型的な与野党対立型となった。それだけに、現状では、与野党の議席数が伯仲し、野党議員によるフィリバスター(議事妨害)の活用も予想される上院での円滑な審議と早期の改正法の成立は期待しにくい。既に民主党議員からは、今回通過した法案は「ウォール街に利益をもたらす一方で一般投資家をリスクにさらすものだ」といった批判が出ており、上院での審議を進めるためには、内容のかなりの修正が避けられない。

とりわけCFPBの解体やボルカー・ルールの撤廃については、上院民主党による歩み寄りは期待できないだろうとの見方がある。もっとも、そもそも金融機関の間でも、既にDF法や関連規則へのコンプライアンスに膨大なコストを投じているので、その改正にはあまり期待しないといった醒めた見方もある。規制緩和がもたらす実体経済への影響という観点からは、むしろ今回通過した法案に織り込まれた「ジョブズ法2.0」の部分が上院でどう取扱われるのかが注目されるだろう。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

この執筆者の他の記事

大崎貞和の他の記事一覧

注目ワード : ドッド=フランク法

注目ワード : ボルカールール

このページを見た人はこんなページも見ています