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5月のFOMCの議事要旨-Gradual and predictable

2017年05月25日

はじめに

5月のFOMCについては、①次回会合(6月)における利上げとの関係で、第1四半期における経済データの軟化をどう評価したか、および②再投資政策に関する議論がどの程度前進したか、の2点が主たるポイントである。これらに焦点をあてつつ、いつものように内容を検討したい。

景気と物価に関する判断と利上げの展望

第1四半期の実質GDP成長率の減速は、在庫投資のマイナス寄与による面も大きく、今回の議事要旨にも今後は続かないとのFRBスタッフによる評価が示されている。しかし、重要なことは家計の消費支出が減速した点であり、この点について、FRBスタッフによる分析に基づきFOMCメンバーによる議論が行われた。

すなわち、FOMCメンバーは、雇用の拡大の継続、所得と資産の増加、家計のバランスシートの改善、高水準のセンチメントといったファンダメンタルズを背景に、消費支出が今後に回復するとの見方を示した。同時に、足許での減速には、温暖な気候を映じた暖房関連支出の減少や、昨年第4四半期に極めて高水準であった自動車販売の反動といった一時的要因が大きいとの見方を示した(8ページ左段)。

加えて、FOMCメンバーは、エネルギー関連を中心に設備投資が堅調に拡大したほか、海外経済の安定化を映じて外需にも回復が見られるなど、主要な需要項目が全体として拡大基調を続けていることも併せて確認した。

物価に関しても、3月のPCEインフレ率が総合とコアの双方ともに上昇率は低下したが、FOMCメンバーの殆ど(most)は、携帯電話サービスの品質調整後の価格の大幅下落を含めて、一時的な要因による面が強いとの見方を示した。同時に、この間も改善を続けた労働市場に関しては、緩やかな景気の拡大が継続する下でも、今後数年間は失業率が長期的にnormalな水準を下回って推移するとの強気な見方が概ね支持された。

これらを踏まえて、一時的な要因の影響が減衰し、労働市場と経済全体の改善が今後一層進む下で、インフレ率については中期的に見て目標である2%近傍で安定するとの見方で、FOMCメンバーは概ね一致している(9ページ左段)。

ただし、実体経済に関する自信に比べると、金融面での評価には異なる面も感じられる。例えば、FRBスタッフによる分析は、FRBの貸出サーベイにおいて商工業貸出に対する需要減少との回答が散見されたことを指摘したほか、商業不動産向け貸出も需給双方の要因で減少したことを指摘している(5ページ右段)。また、住宅貸付も、昨年対比で金利水準が上昇したため借り換えのペースが顕著に減速し、自動車ローンや消費者ローンも需給双方の要因で減速したことが指摘されている(6ページ左段)。

もっとも、これらの点をFOMCメンバーがどう評価したかは議事要旨からは必ずしも明確ではないが、利上げ加速期待や経済対策への期待がともに後退したことなどを背景に長期金利がむしろ軟化する中で、緩和的な金融環境が維持された点が強調されるなど、少なくとも5月のFOMCの時点では大きな問題とは看做されなかったようだ。

これらを踏まえ、FOMCメンバーのほとんど(most)は、今後の経済指標が前回(3月)の見通しに沿った内容である限り、金融緩和を近いうちに(soon)一段と縮小すること-つまり、6月会合で次の利上げを行うこと-が適切であるとの判断を示した(9ページ右段)。

再投資政策に関する議論

3月会合の議事要旨では実質的に冒頭に記されていた再投資政策に関する議論が、なぜか今回は議事要旨の最後に記されているが、具体性の面で重要な前進がみられた。

つまり、FRBスタッフは、①FOMCが米国債とMBSの双方について、月間の減少額の上限(capまたはlimit)を公表する、②これを超える償還がある場合は、FRBはその分だけ再投資を行う、③月間の減少額の上限は、当初は低水準に設定するが、3ヶ月ごとに増加させ、最終的な金額(fully phased-in levels)まで引き上げる、④その後はバランスシートの規模が正常化(normalized)するまで、このペースでの減少を維持する、という案を提示した(12ページ左段)。

これに対しFOMCメンバーのほとんど全員(nearly all)は、このアプローチを支持する意見を示した。つまり、月間の減少額の上限が徐々に増加する具体的な枠組みを事前に公表することは、FOMCによる金融政策の正常化方針(2014年9月)に明記されたように、保有資産を「緩やかで予想可能な(gradual and predictable)」形で減少させるという意図に沿ったものと評価した。

また、月間の減少額にあらかじめ上限を設定することは市場機能への影響や長期金利の不安定化を防ぐほか、こうしたアプローチは市場に対して説明しやすい点も指摘された。加えて、いったんプロセスが開始されれば、経済見通しが大きく悪化しない限り、FOMCとして調整を加える必要がないとの点も指摘された。

これらを踏まえて、FOMCメンバーのほとんど全員(nearly all)は、経済と政策金利がともに予想通りに推移する限り、保有債券の減少を本年中に開始することが適切である可能性が高いとの判断を示した。

このように、再投資政策の見直しについては、1)開始は景気と政策金利に依存するが、その後は原則として機械的に進める、2)国債とMBSの双方について保有残高を減らす、3)保有残高の減少ペースも、徐々に増やしていく形で機械的に設定する、といった点が事実上固まったものと考えられる。

このアプローチに関しては、毎月の償還額にばらつきがある下で実際の減少額を徐々に増やすことで市場への影響を抑制しようとした点や、機械的な運営にすることで利上げとの関係やその説明が複雑化することを回避しようとした点が注目される。一方、FOMCの正常化方針に記されたように最終的にはSOMAに国債のみを残すことをどう実現するか-保有する国債は今後5年間で大半が償還を迎える一方、MBSの期待償還期間は相対的に長い-や、FRBスタッフによる提案で示唆された「バランスシート規模の正常化」を具体的にどう位置づけるかは決まっておらず、今後の検討に委ねられた。

もっとも、上記のように年内に保有債券の減少を開始するのであれば、しかも事前に市場に理解を求めるのであれば、残された時間はさほど多くはない。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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