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5月のFOMC-Slowing to be transitory

2017年05月04日

はじめに

イエレン議長は、すべてのFOMC会合が「Live」であることをかねて強調しているが、年間に2~3回といった緩やかな利上げを想定している以上、今回のように記者会見のないFOMCでの利上げは、そもそも予想されていなかった訳である。

その上で、今回の声明文は、FOMCにおける議論の焦点の少なくとも一つが、足許の景気指標にやや弱いものが散見される点をどう評価し、どう説明するかということであった点を示唆している。この点を中心に6月会合に向けた展望を含めて検討したい。

経済情勢の判断

今回の声明文のうち、経済情勢の判断を示す部分(第1パラグラフ)の内容を前回(3月)と対比すると、足許の経済指標の動きを反映する形で、相応に多くの箇所で修正が加えられていることが注目される。

まず、雇用の増加は「強い(solid)」との評価を維持したが、ペースが落ちた月もあったことを反映して「平均的には(on average)」との注釈が加わった。また、家計の消費支出も「緩やかな増加を継続(continued to rise moderately)から「ささやかな増加に過ぎなかった(rose only modestly)」に引き下げられた。これに対し、設備投資だけは、「幾分堅調になった(firmed somewhat)」から、単純に「堅調になった(firmed)」へ若干上方修正された。

これらの主要な需要項目の中では、市場が注目していた通り、家計の消費支出の評価が最も重要な論点であったことが推察される。言うまでもなく、家計消費はこの間の景気拡大の最大の牽引車であった一方、消費の中でウエイトの高い自動車販売に明確な減速がみられるなど、変化の兆しも窺われるからである。

この点に関して、今回の声明文は、上記のように足許で軟化していることを認めつつも、継続的な拡大の背景にあるファンダメンタルズには変化がないとの判断を加えている(the fundamentals underpinning the continued growth of consumption remained solid)。おそらく、こうした判断は、賃金の上昇が継続しつつ産業面で広がりを持ちつつあることや、雇用の改善も続いていること、純資産も高水準にあること、といった点を根拠にしているものであろう。

しかも、政策判断により直接に関係するデュアルマンデートの両項目についても、これまでの基調的判断を維持した。つまり、労働市場は「経済活動の拡大が減速したにも拘らず」タイト化を続けていることを指摘した。インフレに関しても、総合インフレ率の前年比が、「目標に近づきつつある(moving close to)」から「近い水準で推移している(running close to)」へ表現は変わったが、目標近辺にあるとの評価を維持した訳である。

政策判断

今回のFOMCでは金融政策の現状維持を決定した一方で、声明文は、今後の利上げについて前回(3月)時点のシナリオを維持していることを示唆している。

つまり、政策運営の考え方を述べている第2パラグラフの前半部分で、FOMCとして「第1四半期の減速が一時的である可能性が高いとの見方にある(The Committee views the slowing in growth during the first quarter as likely to be transitory)」と明確に述べることで、FOMCとして景気の基調に関する判断を変えていないことを再度強調している。

その上で、緩やかな利上げによってデュアルマンデートが達成されるとの、いつもの記述を維持している訳である。しかも、声明文のそ れ以降の表現(第3パラグラフと第4パラグラフも含む)は、前回(3月)と全く変わっていない。

コミュニケーション政策

このようなFOMCのコミュニケーションは、米国市場のこれまでの反応を見る限り、所期の効果を挙げているようだ。つまり、金利や株価、為替は、声明文の発表後にほとんど変化しておらず、米国メディアの報道も、FOMCがこれまでの利上げ戦略を維持するとみられるという市場関係者の見方を多数配信している。

その上で、FOMCが基調的判断に変化がないことを、なぜここまで丁寧に伝えようとしたのかという点も、逆に興味深く思えてくる。

この点に関しては、FOMCが今回の声明文(第4パラグラフ)でも確認しているdata dependentな政策判断という考え方が、依然として上手く共有されないリスクに備える意図が考えられる。声明文が明確に示すように、FOMCはデータによって示唆される経済見通しによって利上げの具体的なパスを決める訳であり、従って、上記のように足許の指標が軟化しても、基調的判断を維持するのであれば、利上げのシナリオも維持される。しかし、過去には、景気指標の軟化に対して、市場が利上げ予想を大きく変えた局面がしばしば出現した訳である。

利上げ予想が短期間で大きく上下動すれば、長期金利や株価もそれに伴って動くことになる。特に、いったん後退した利上げ予想が短期間で回復するような事態は、市場に相応のストレスをかけうる点で、イエレン議長がかねて指摘している「behind the curve」に伴うリスクと同じ問題を生じうる。

その一方で、本コラムでもかねて指摘してきたように、FOMCはどこまでこのように丁寧な市場の誘導を続けるべきかという問題は残っている。

確かに、政策の方向が事実上利上げのみである限りは、こうしたやり方も正当化されうる。しかし、経済指標の減速が一時的とは言い切れなくなる事態が生じれば、FOMCが結果として事前の誘導とは異なる判断を余儀なくされるリスクも出てくる。この点では、トランプ政権の経済政策の規模やタイミングに依然として大きな不透明性が残ることも厄介である。

利上げ戦略の放棄といった極端な事態に至るリスクは、少なくとも当面は小さいとしても、利上げペースを当初の想定と変えることが必要になる可能性は相応に残る。FOMCとしては、次の景気後退に備えた「のりしろ」の確保の意味でも、再投資政策の見直しを円滑に始めるためにも、何とか年内は現在の利上げシナリオを維持したいのかもしれないし、その意味では丁寧な誘導も合理的であるが、最終的には市場の予想に委ねるやり方へと転換することが求められる。

このようなコミュニケーション政策の見直しも、今年のFRBによる政策運営に関する注目点の一つであると考えられる。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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