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3月FOMCの議事要旨- Reinvestment Policy

2017年04月06日

はじめに

3月FOMCの議事要旨は、今後の利上げ戦略に関する議論を含むだけでなく、再投資政策に関する最初の本格的な議論を含む点で極めて重要な意味を持つ。加えて、今回から公表が開始されたfan chartの位置づけにも興味深い内容が含まれる。本コラムでは、これらの点に焦点を当てつつ、議事要旨の内容を検討したい。

情勢判断と利上げの考え方

FOMCメンバーによる金融経済情勢に関する議論(7ページ左段以降)には、3月FOMCの声明文やイエレン議長の記者会見に照らして顕著に新たな内容はみられない。なかでもデュアル・マンデートについては、雇用の面で概ね目標を達成したとの評価で一致している一方、物価の面では安定的にインフレ率が2%を超える状況までには、もう少し時間を要するとの考え方が示されている。

物価に関する慎重な評価が、緩やかなペースでの利上げの継続が望ましいとの結論に繋がる訳であるが、これ以外にも、政策金利の名目ゼロ制約に再び直面するリスクの回避や低位な(実質)中立金利との関係といったお馴染みの要因も再び取り上げられている(9ページ右段第2パラグラフ)。

利上げ戦略に関して唯一目新しい内容は、「予期せぬ事態の展開に対し、FFレートの適切なパスに関する評価やその説明を変更する用意がある」という文から始まる議論である(9ページ右段第3パラグラフ)。「事態」の例としては、財政政策の展開に加え、企業や家計のセンチメントやfinancial conditionの変化が挙げられている。当たり前のことを敢えて述べた背景には、財政政策の不透明性があることは当然であろうが、利上げのパスに関する市場との対話を変化させようとする意図も感じられる。3月利上げを巡る市場予想の推移を思えば、FOMCメンバーが、dot chartをコミットメントとして受け止める考え方をそろそろ完全に払拭したいと考えることに合理性があろう。

再投資政策を巡る議論

再投資政策の見直しについては3月FOMCから公式に議論を開始することが予告されていたし、このところニューヨーク連銀のダドリー総裁を含めてFOMCメンバーによる発言が相次いでいた訳であるが、それらを考慮しても、今回の議事要旨には注目すべき論点が多数含まれている(1ページ右段最終パラグラフ以降)。

まず、執行部が様々なオプションとそれらがマクロ経済に与える影響を示したことが注目される。もちろん、FOMCメンバーの多く(a number of)が、政策金利の変更が主たる政策手段であり、資産買入れの再開は名目ゼロ制約に達するまで政策金利を引き下げても克服し得ないショックへの対応の際に限定するとの原則に合意していることは、今回の議事要旨にも明確に示されている。

しかも、再投資の変更については、これまでは市場ないし金融システムの観点から議論されることが多かったが、FRBが米国債やMBSを抱えている限り、それらが金融政策としてstock effectを有する以上、実態経済への影響を勘案して利上げを判断することは当然であり、ダドリー総裁の発言内容とも整合的である。

その上で、再投資の変更の具体的タイミングについては、FOMCメンバーのほとんど(most)が、今後も緩やかな利上げが継続するとの前提の下で、本年後半となるとの判断を示したことが注目される。この点もダドリー総裁の発言と整合的であるが、市場の見方が来年に傾いていた印象もあるだけに、市場から見ればやや早いと受け止められることが考えられる。

執行部が示したオプションには、①再投資見直しの条件を経済情勢とするか、時間とするか、②再投資を減衰するか、一気に停止するか、③これらの扱いを米国債とMBSで同じするか、異なるものとするか、といった選択肢が含まれていたことも注目される。

このうち①は、上記の議論から予想される通り、FOMCメンバーのほとんどが、経済情勢に条件付けるべきとの考えを示したことが明らかになっている。ただし、その内容を定量的な指標とするか定性的な判断とするかは意見が大きく分かれた(severalとsome otherという表現が使用されている)ようだ。

一方、②は、再投資の見直しを2014年の「Policy Normalization Principles and Plans」に沿って進めることにコンセンサスがあり、資産規模の縮小は漸進的かつ予測可能な形で進めるとの考えにあるだけに、再投資の減衰に支持があることが示唆される。もっとも、議事要旨には、減衰の方が市場のボラティリティの上昇やFRBのバランスシート運営に対する誤解のリスクが少ないとの指摘がみられる一方、一気に停止した方が市場との対話が容易で、かつバランスシートの「正常化」を早期に実現可能とのメリットも指摘され、この点もまだ合意が成立してないようだ。

これに対して③は、FOMCメンバーが、概ね、米国債とMBSとともに再投資を見直すべきとの考えにあることが示され、一定の合意があることが示唆されている。最後に、市場との対話全般に関しては、再投資の実際の変更の十分以前に予告すべきことで概ね合意が成立したことや、FOMCメンバーの数名がFRBのバランスシートの規模や構成の長期的な姿も示すべきとの意見を述べたことが示されている。

FOMC型のFan chart

今回のFOMC議事要旨から、実質GDP成長率、失業率、PCEインフレ率、そしてFFレートについて、FOMCメンバーによる予想のmedianに加えて、これらに関わる予測誤差の分布としてのfan chartが公表されるようになった。ただし、「先達」であるBOEとは異なり、予測誤差の分布は各々の指標(PCEインフレ率はCPIインフレ率を代用、FFレートは民間分はTBレートを代用)に関する官民の過去20年間の予想誤差(平均二乗誤差)によって推計されており(70%の確率で実現しうる範囲を表示)、FOMCメンバー自身による予想の確率分布ではない。

その理由は明らかではないが、議事要旨によれば、FOMCメンバーによるリスク評価(過去20年と比べた不確実性、およびリスクの方向)は既に各指標について公表しているだけに、これらとfan chartを見比べれば、FOMCメンバーの先行きに対するリスク認識を把握することは可能である。同時に、この点を精緻化することのコスト・ベネフィットのバランスを考慮したことが考えられる。

いずれにせよ、財政政策の先行きなどに不透明性が高い下でfan chartが導入されたことは興味深いだけでなく、特に政策金利のパスに関する不確実性の大きさをアピールすることで、先に見たようにFOMCが市場との対話のあり方を変化させようとする試みの一部としても注目すべき動きであるように思われる。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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