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FRBのイエレン議長の記者会見-Symmetric Goal

2017年03月16日

はじめに

FRBは、今回のFOMCで25bpの利上げを決定した一方、本年中に3回という利上げ予想を維持したことで、米国の株価は上昇し、長期金利は若干した。もっとも、イエレン議長は、市場と経済にとってより重要な意味を持つ利上げ戦略について、いくつか興味深い示唆も行った。これらを中心に記者会見の内容を検討したい。

金融経済情勢の判断と経済見通し

今回の声明文に示された景気判断のうち、主な需要項目に関する評価(第1パラグラフ)は、設備投資の改善を指摘した点以外、前回のFOMC(1月)と変わっていない。イエレン議長も、米国経済が12月FOMCの際に予想したパス通りに推移しているとの評価を示した。実際、FOMCメンバーによる2019年にかけての経済見通し(SEP)も、実質GDP成長率と失業率ともに、前回(12月)とほとんど変わっていない(変更点は、2018年の実質GDP成長率が+2.0%→+2.1%と上方修正されたのみ)。

なお、この第1パラグラフでは、企業と家計のセンチメントが顕著に改善したとの前回(1月)の表現が削除された点に注意しておく必要もあろう。この点に関してイエレン議長は、トランプ政権の経済政策に対する期待もあってセンチメントは良好だが、それが実際の支出行動にはまだ繋がっていないとの見方を示した。

インフレ率も、SEPに関しては前回(12月)と全く変わっていない。しかし、声明文では、総合インフレ率が2%目標に向かって推移しているとの評価(第1パラグラフ)とともに、インフレ率が今後2%近辺で安定するとの見方(第2パラグラフ)が新たに加えられた。これらの表現は、イエレン議長が記者会見でも示唆したように、物価目標を概ね達成したので、今後はそれを維持することが重要というFOMCとしての判断を示している。

つまり、失業率はFOMCが考える長期水準(今回のSEPによれば4.7%)を下回り、労働市場の広範な指標が改善するなど、「最大雇用」は既に達成していただけに、上記のように「2%インフレ」も実質的に達成したのであれば、FOMCとしてデュアルマンデートの両方が満たされたと判断したことを意味する。今回のFOMCは、利上げの点ではプロセスの通過点に過ぎない一方、こうした意味では大きな節目であったとみることもできる。

利上げ戦略

FOMCが今回改訂したdot chartによれば、2019年にかけての各年末の政策金利の予想パスをmedianでみると、これも前回(12月)と殆ど変わらず、1.4%→2.1%→3.0%となっている(変更点は2019年末が2.9%→3.0%と上方修正されたのみ)。ただ、dotの分布をみると、時間が経過した効果もあろうが、2017年末のみならず、2018年末や2019年末についても分布の縮小(つまり、FOMCメンバー間での意見の収斂)も窺われる。

1回の利上げを25bpと仮定して、これを利上げ回数に引きなおすと、2017年中は残り2回程度、2018年中は3回程度、2019年中は4回程度と予想していることを意味する。本年中が今回を含めて年3回とされたことは、足許の市場で年4回の利上げの可能性も意識されていたこととの対比でdovishと映る面もあろうし、それが冒頭に述べた米国市場の反応に繋がっていることが考えられる。

もっとも、特に本年から来年については、トランプ政権の経済対策が実施され、その効果による景気や物価の上振れに対して、FOMCがどのように反応するかが重要なポイントとなる。実際、今回の会見でも、今回のSEPやdot chartにこうした効果が反映しているかどうか、あるいは経済対策が実現した場合、FOMCとしてどう対応するかについての質問があった。

これに対しイエレン議長は、FOMCメンバーの中には予想される経済対策の効果を自らの見通しに織り込んだものもみられることを認めつつも、大勢はそうしたことを行っていない点を強調した。加えて、経済対策は景気や物価にとって重要だが一つの要素に過 ぎず、今後も注意深く展開を見守りつつ、他の要素と同様にあくまでもその実績を踏まえて、景気・物価の見通しと政策判断に反映させていく姿勢を確認した。

こうしたスタンスはいくつかの意味合いを有する。第一にコミュニケーションとの関係である。FOMCのインターバルにも、トランプ政権による経済対策は徐々に具体化していくことが予想されるだけに、市場は景気や物価への効果、利上げペースへの影響について、FOMCに先んじて織り込んでゆくと見込まれる。その点では、FRBと市場との利上げに関する対話には難しい面が残ることが考えられる。

第二に実際の利上げペースである。先に見たように、現時点でFOMCメンバーの大勢は本年から来年にかけて各3回の利上げを見込んでいる。しかし、こうした見通しが全体としてはトランプ政権による経済政策の効果をまだ織り込んでいないのであれば、それが具体化するに連れて、FOMCは利上げペースを高める方向で再考を迫られることが考えられる。この点を考慮すると、今回のFOMCに対する市場の反応も、先に見た方向ばかりではなくなることも考えられる。

第三にFOMCのスタンスとの関係である。先に見たように、FOMCとしては、デュアルマンデートを概ね達成し、その維持が課題との考え方に転じた。また、インフレに関しても、声明文で「(上下に)対称的な目標(symmetric goal)」との表現を新たに加え(第4パラグラフ)、イエレン議長がかつて述べた「高圧経済」的な考え方からの距離を示唆した。この点も、トランプ政権の経済政策に伴う物価の上振れに対するFOMCの政策反応関数の面で、徐々に意味を持つことになるかもしれない。

今回の利上げを巡る市場との対話

今回の記者会見では、一部の記者からは、今回の利上げに向けたFRBによる市場との対話に関する批判も示された。つまり、①短期間にFOMCメンバーの多くがメッセージを出したことで、利上げが急激に織り込まれたこと、②足許の景気指標(第1四半期の実質GDP成長率や消費支出)は必ずしもモメンタムが高まっていないこと、といった点が取り上げられた。

イエレン議長は、①はならしてみれば米国経済の堅調さは疑いないと退けたほか、②もFOMCによる利上げに関するメッセージは時間を通じて整合的であったと主張するとともに、例えば1月FOMCの議事要旨での「fairy soon」の表現が上手く伝わらなかった可能性や、2015~16年の年1回の利上げペースに市場が慣れすぎた可能性を示唆した。しかし、このような説明が外部の観察者にとって簡単に納得できるものかどうかは定かではない。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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