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FOMC(1月)のMinutes(議事要旨)-Fan Chart

2017年02月23日

はじめに

FOMC(1月)のMinutes(議事要旨)によれば、FOMCメンバーは前回(12月)に改訂した景気や物価の見通し、および政策金利の予想パスを概ね維持した。それでも、当面の政策を展望する上でいくつか注目すべき論点が取り上げられたことも明らかになっている。いつものように内容を検討したい。

経済政策の展開に伴う不確実性

上記のように、米国の景気や物価の基調には大きな変化がないとしても、トランプ政権が大規模な減税や通商政策の大きな変更を掲げている以上、その帰趨が景気や物価の今後の展開に相当な影響を与えうることは言うまでもない。

今回の議事要旨はこの点に関し二つの評価を示している。第一に、現時点での影響に関しては、設備投資の一部に動意がみられるとしつつも、企業のセンチメントを中心とした反応が中心であり、具体的な政策の内容や実現可能性に不透明性が残る中で、企業は様子見の姿勢にあるとの指摘が見られる(14ページ左段第2パラグラフ)。

第二に、トランプ政権の経済政策に伴って利上げのパスを変更することに関しては、現時点では慎重な意見が大勢を占めている(15ページ右段第3パラグラフ)。このような判断の背景には、上に述べたように、そもそも民間セクターの反応が慎重であるだけに、景気や物価に対する影響が大規模減税などに先行して実現することは考え難いとの推論があろう。

加えて、今回の議事要旨には、拡張的な経済政策のいわば副作用としてのドル高が、景気や物価を下押しするリスクについて度々言及されていることも興味深い。以前のブレイナード理事の講演が示唆したように、FRBが使用するマクロモデルではドル高の影響が比較的大きく現れる点が関係しているのかもしれない一方、より本質的には、基調的なインフレがそこまで強くないとの理解を示唆している面もあろう。

利上げの展望

当面の利上げに関しては、今後の労働市場や物価が見通しに沿って推移した場合には、比較的近い(fairly soon)タイミングで再度の利上げを行うことが適切となりうるとの記述があり(16ページ左段第2パラグラフ)、この点が内外のメディアによる報道でヘッドラインとして取り上げられている。

もっとも、少なくともこれまでのところ、市場の反応はそこまで大きなものではない。その理由としては、後で見るように、保有資産の再投資の見直しについて、事前の思惑ほどには具体的な議論がなかったことも関係している可能性があろうが、上に見たように、FOMCメンバーが景気や物価に対する見通しを変えた訳ではない点も関係しているように見える。

つまり、FOMCメンバーが景気や物価の見通しを不変のままに、次の利上げが比較的近いことを示唆しているのであれば、それは、FOMCが市場が思っているほどにdovishではないとのメッセージを発していることになる。もしそうであれば、上記の記述も、市場の利上げ期待が過度に低下しないようにするために、いわばコミュニケーション目的でなされた面が強いと考えることもできる。

実際、上記の記述に始まるパラグラフでは、緩やかな利上げというFOMCのメッセージが、年1~2回程度しか利上げしないことへのコミットメントとして受け止められることへのリスクに関する議論が示されている。

保有資産の再投資に関する議論

今回の議事要旨に関して、事前には、保有資産の再投資の見直しに関する具体的な議論が行われるとの思惑があった。

理由を改めて整理すると、第一に、前々回(12月)のFOMC議事要旨にこの論点が久しぶりに現れたことに加え、年初から地区連銀の総裁を中心にこの点に関する言及が増えたことである。第二に、FOMCが仮に年3回の利上げを行った場合、年末の政策金利は1%台中盤に達し、ゼロ金利とFOMCが長期的な政策金利の目途と考える3%との中間付近に達することである。そして第三に、バーナンキ前議長がBlogで指摘したように、実際に再投資の見直しを行うのが2018年中だとしても、市場には十分事前に予告し、理解を共有することが重要との考え方がみられることである。

実際は、今回の議事要旨における保有資産の再投資に関する議論は限定的であった(16ページ左段第2パラグラフの最後の部分)。つまり、今後のFOMCにおいて、再投資政策を変更する条件やその実施およびコミュニケーションに関する議論を開始する必要性について、FOMCメンバーによる幅広い合意が成立したことだけが記載されている。

米国債市場ではこれを材料に買戻しが生じたとの報道もみられ、上記のような記載が具体性を欠く点を含め、予想に比べて議論が後ズレしたと受け止めたようだ。しかし、このテーマは、FRB自身の「正常化戦略」(2014年9月)でも大まかな方針しか示されておらず、例えば、政策金利がどこまで上昇すれば、再投資の見直しを実行すべきか、金利環境によって償還速度が異なるMBSの扱いをどうするか、米国債も今後数年に償還が集中することを平準化すべきか、といった点についは慎重な検討を要する。加えて、トランプ政権の財政運営は、国債管理政策の変化を通じて長期金利に無視し得ない影響を及ぼす可能性がある。

こうした複雑な要素の下で再投資の見直しを行うには十分な議論が必要であり、バーナンキ元議長が指摘するように、議論の途上から市場と成果を共有する意味合いも少なくない。その意味でも上記の合意の意義は決して小さくなく、再投資見直しに向けて一歩前進と受け止めるべきであろう。

Fan Chartの導入

個人的には、今回のFOMC議事要旨で最も興味深かったのは、FOMCが、次回のSEP(3月)からいわゆるFan Chartを加えることを 決定した点である。実は、コミュニケーション小委員会は昨年1月にも提案したが見送りになっていたもので、議事要旨によれば詳細は不明ながら改訂版が承認されたとのことである。

各メンバーが提出する見通しをもとに作成するためか、残念ながら、Fan Chartの公表は議事要旨の公表後(つまりFOMCから3週間遅延)とされているが、上記のようにトランプ政権の経済政策の効果も含めて、経済や物価に対する不確実性が高い環境であるだけに、なおさらにFan Chartは強い関心を集めることとなろう。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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