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FRBのイエレン議長の議会証言-One size fits all

2017年02月15日

はじめに

イエレン議長による議会証言(今回は上院の銀行・住宅・都市問題委員会)は、本来、金融政策運営が主題である。しかし、近年の質疑の多くはむしろ金融システムやその規制・監督に関するものであり、今回は(冒頭の1時間半をみた限り)そのウエイトが一段と上昇した印象を受けた。加えて、実現可能性の高まりを反映してか、FRB改革に関する質問も目立った。イエレン議長の冒頭説明はFRBのホームページに掲載済であるので、本コラムでは質疑の内容を中心に内容を検討したい。

金融政策に関する議論

まず、本題であるはずの金融政策に関しては、クラポ委員長(共和党)を始め数名のメンバーが、国債やMBSの再投資の運営を取り上げたことが注目される。具体的には、再投資の見直しについて、政策金利の正常化との関係や、MBSを減らしていくことのモーゲージ金利への影響などが取り上げられた。

これに対しイエレン議長は、金融政策の正常化方針(2014年9月に公表)に即して、再投資の見直しは(これに伴う金融経済への影響に対応しうるよう)政策金利が一定の水準に達し、「のりしろ」を確保した時点で行う考えを確認した。また、同方針では、FRBのバランスシートには最終的には(長期資産としては)国債のみが残る姿を想定しているが、MBSの圧縮は償還によって緩やかに進めることもコーカー委員(共和党)に対して確認した。

その上でイエレン議長が、当面はFRBが巨額の資産を抱えたままになるとしても、バランスシート運営を金融政策手段として活用することに消極的な考えを示した点は興味深かった。その理由としてイエレン議長は、短期の政策金利の調節による方が、調節能力や経済に対する影響について自信が持てるからであると説明した。

足許の政策に関しては、コーカー委員やトゥーミー委員(共和党)から、12月FOMCの時点でトランプ氏が減税やインフラ投資を中心とする積極的な経済政策を表明し、金融市場も反応していたにも拘わらず、FOMC全体としてはSEPを殆ど変更しなかったのはなぜかという批判的な指摘もみられた。これに対してイエレン議長は、具体的な政策内容に関する不透明性が高く、見通しに具体的に織り込むことが困難であった点を説明した。

FRB改革に関する議論

FRB改革に関しては、リード委員(民主党)が金融政策のルール化を取り上げ、「テイラー・ルール」を導入した場合の影響を質した。これに対しイエレン議長は、1月19日に行った講演内容に言及しつつ、現時点で「テイラー・ルール」を単純に適用した場合、政策金利を3.5~4.0%にまで引き上げていなければならないことになり、米国経済にとって明らかに不適切であると説明した。

その上でイエレン議長は、このような問題が生ずる理由の一つとして、「テイラー・ルール」が前提とする中立金利の水準が、現在の米国経済にとっては高すぎることを指摘した。つまり、「テイラー・ルール」は実質で2%を前提としているのに対し、イエレン議長は現在の米国では0%程度であるとの見方を示した。

なお、FRB改革に関しては、クラポ委員長も含む数人の委員が、FRB理事あるいは地区連銀総裁のdiversificationの必要性を指摘した点も興味深かった。具体的な趣旨は、専門性の面と人種の面が混じっている印象も受けたが、共和党が支配する議会で成立の可能性が高まったFRB改革法案のポイントとして注意しておく必要があるかもしれない。

金融システムに関する議論

今回の議会証言で一段とこのテーマに関する議論が増えたことに対しては、①トランプ大統領がいわゆる「ドッド・フランク法」の見直しを大統領令によって指示したこと、②FRBで金融規制の問題を実質的に統括してきたタルーロ理事が4月での辞任を表明したこと、の2点が影響したことは言うまでもない。

実際、クラポ委員長の冒頭説明は、最初から①の点を取り上げ、金融危機後の規制が企業や家計に必要な貸出を阻害したとの問題意識を表明するとともに、community bankやcredit unionが大手金融機関と同じ「one size fits all」の不適切な規制を受けたとの批判を示した。

これに対しブラウン副委員長(民主党)は、トランプ政権に大手金融機関関係者が含まれることを批判し、国民は支持政党に拘わらず、こうした金融機関に対する規制を支持していると指摘した。しかし、ブラウン副委員長も、金融機関の業容によってリスクが異なることや、金融規制の強化によって貸出が円滑化したかどうかをイエレン議長に質している。つまり、中小金融機関に対する規制緩和には別なスタンスを示唆した訳であり、「ドッド・フランク法」の見直しにおける優先順位が反映されているようにも思われる。

一方、FRBに直接的な関係を有する②については、クラポ委員長をはじめ数名の委員が、タルーロ理事が実際に果たしてきた役割-CCARに代表される健全性規制の設計や運営、それらに関するBCBS等での国際的な調整などーの重要性をイエレン議長に確認した。その上で、「ドッド・フランク法」で設置されながら、これまで欠員であったFRBの金融監督担当副総裁を新たに任命した場合、具体的な役割はこれまでタルーロ理事が担ってきた役割と同じイメージであることもイエレン議長に確認した。

こうしたやり取りはイエレン議長にとって当たり前の内容であったが、今後に大統領が具体的に指名した候補者を上院が承認する手続きを考えた場合、このポストが持つ重要性について委員会メンバーに再認識させるという意味では、委員会にとっては政治的に重要なプロセスであったものと思われる。

トランプ大統領の経済政策に関する議論

このほか、委員会メンバーからは、トランプ大統領の経済政策に対する考え方を正す質問もみられた。もちろん、イエレン議長は正面から回答することは避けたが、いくつか興味深い指摘もあった。例えば、コーカー委員が拡張的な財政政策を取り上げたのに対し、イエレン議長は、高齢化による社会保障負担の増加などによって、そもそも米国の財政状況には長期的な懸念があることを示唆した。また、シェルビー委員(共和党)が経常収支のサステナビリティを取り上げたのに対しても、イエレン議長は対外債務が蓄積していくことの意味合いに対して注意を促した。

その上で、イエレン議長が最も言いたかったのは、冒頭説明の中で触れたように、長期的に経済成長を高めるには生産性上昇を促す政策が必要だが、それが見当たらないということであろう。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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注目ワード : ドッド=フランク法

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