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2月のFOMC-Uncertainties

2017年02月02日

はじめに

市場の予想通り、今回のFOMCは金融政策の現状維持を決定した。また、先行きの政策運営に関しても、何らの新たな示唆を行わなかった。それでも、声明文からは、米国経済を取り巻く不透明性に関するFOMCとしての評価が示唆される。いつものように内容を検討したい。

金融経済情勢の評価

声明文の第1パラグラフに示された足許の景気判断は、前回(12月)と実質的にはほとんど変化がない。

唯一、今回の声明文に新たに加えられたのは、「消費者と企業のセンチメント指標が最近改善した」という一文である。実際、昨年11月の大統領選挙後に、NFIBによる中小企業のセンチメント指数が急騰して注目を集めたが、その後、大企業を対象とするISMのPMI指数やミシガン大学による消費者センチメント指数も堅調である。

また、声明文のこのパラグラフを細かく見ると、経済活動全般や家計消費を評価する上で"has continued"という単純な表現が使用されていることにも気づく。この点は、前回(12月)では"has been expanding"ないし"has been rising"が使用されていた点と異なる。つまり、前回(12月)の暫定的な意味合いの残る評価から、今回はより断定的な評価に変わったとみることもでき、微妙ではあるが上方修正の意味合いをもつと理解することができる。

この点は、第2パラグラフに示された先行きの見通しにも反映されており、具体的には「インフレ率が中期的に2%へと上昇する(will rise)」というシンプルな表現が使用されている。これに対し、前回(12月)の声明文では、「エネルギーや輸入品の価格の過去の下落による一時的影響が減衰し、労働市場がより改善する」という条件を付した上で、「インフレ率が中期的に2%へ上昇すると見込まれる(expected to rise)」という、いろいろと慎重な言い回しになっていた訳である。

このように、今回の声明文に示された金融経済情勢の評価は、前回(12月)に残っていた様々な留保が外されており、FOMCメンバーが経済と物価の推移により自信を持ったことを示唆している。

その上で重要なことは、こうした上方修正の背景となった実体経済の変化は-NFIBの指数のような例外を除き-総じて大統領選とは直接の関係がないとみられる点である。例えば、PMIや消費者センチメント指数も、昨年後半から改善の動きを続けていた訳であり、昨年の米国経済が上半期に比べて下半期が堅調であった事実を単純に反映すると理解することが可能である。

その上で、今回の声明文が新政権の経済政策による影響の展望に触れていない点は、現時点で具体的な政策に大きな不透明性がある以上当然と言える一方、前回(12月)のFOMC議事要旨が示唆するように、既に前回(12月)の時点で相応のFOMCメンバーがその影響を展望しつつ議論していたことを思うと興味深い。

もしかすると、前回(12月)に比べて新政権の経済政策に関する不透明性がより高まったとの認識がFOMC内にあるのかもしれないが、いずれにせよ、足許で堅調さを増す景気動向を、単純に将来に向かって「外挿」する訳には当然にゆかないという点で、現時点から米国経済の先行きを見通すことには通常以上の難しさがあり、FOMCとして、この点に関する判断を極めて慎重に行う必要があることも窺われる。

政策金利の展望

FRBによる当面の政策運営を考える上で一つのポイントとなる、利上げに対する考え方も、今回の声明文から新たな示唆を得ることはできない。

そこで、この点に関しては、筆者が年初にニューヨークを訪問した際の議論の要点を示しておくと、第一に前回(12月)のdot chartが示唆するように2017年に3回利上げを行うとすれば、6月、9月、12月の各FOMCで決定される可能性が高いとの見方が支配的であった。なぜ、3月会合では利上げが見送られるのかについては、3月会合の時点では新政権による経済政策の具体的な内容が明らかになる-しかも、それらを見通しに織り込む-ことは難しいとの予想による面が強かった。

第二に、少なくとも1月初の時点で明らかになっている新政権の経済政策は、仮に完全に実施されたとしても、米国経済の構造問題-労働生産性の伸び率や労働参加率の長期的な低下を映じた潜在成長率の鈍化-に対処することは難しいとの見方も支配的であった。このことは、少なくとも現時点で中立金利の推計を大きく変える必要がないことを意味する。従って、FRBの金融政策も、インフレ率の急加速といった事態が生じない限りは、緩やかな利上げの継続という方針を堅持すれば良いことになる。

保有資産の再投資

FRBによる当面の政策運営を考える上でもう一つのポイントとして浮上しつつあるのが、かつてQEを通じて買い入れた国債やMBSの再投資の見直しの可能性である。

米国市場でこの点への注目が高まりつつあるのは、①前回(12月)のFOMC議事要旨に、政策金利のパスが変われば再投資の考え方も変わるとの議論がみられたこと、②仮にFOMCが本年中に3回の利上げを実施すれば、本年末の政策金利は1%台の半ばに達するだけに、予てFOMCが示した「正常化戦略」に記された条件を満たすと解釈しうること、③バーナンキ前議長が新年入り後のブログで強調しているように、再投資の見直しを実施するのであれば、相当事前に市場との対話を開始すべきと考えられること、といった理由が挙げられる。

ただ、上記の「正常化戦略」も大きな方針のみを示しているだけであり、再投資を見直す場合の具体的内容(政策金利がどこまで上がれば再投資の見直しに踏み切るのか、金利水準によって償還スピードの異なるMBSをどうコントロールするか、FRBのバランスシートの最終形をどう想定するかなど)はこれから詰めていく必要がある。

それ以上に重要なことは、再投資に伴って想定される中長期金利の上昇圧力を米国経済が受け止められるか否かである。今年は、緩やかながら(短期の)政策金利は上昇していくほか、新政権の経済政策如何でドル高が一段と進行しうることも考慮に入れる必要があろう。後日公表される今回のFOMCの議事要旨には、こうした点に関する新たな議論が予想外に現れる可能性も念頭に置いておくべきなのであろう。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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