1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. 12月FOMCのMinutes-Upside risks

12月FOMCのMinutes-Upside risks

2017年01月10日

はじめに

12月FOMCの議事要旨について、金融市場はややdovishと受け止めたようだ。確かに、約半数のメンバーが新政権による拡張的財政政策を既に考慮に入れたとする記述(7ページ左段第2パラグラフ)は、FOMC直後のイエレン議長による記者会見と異なる印象を与えるだけでなく、SEPやそれに基づく利上げペースの上方修正の余地を限定的と推測させる面があろう。

それでも、今回の議事要旨にはFOMCメンバーによる景気や物価に関するアップサイドリスクへの意識が表れているだけでなく、利上げに対する慎重さの源泉が財政政策の不透明さ以外のところにあることが示唆されている。これらの点を中心に12月FOMCにおける議論の意味合いを検討したい。

GDP成長率の見通し

12月FOMCの際に改定されたSEPは、前回(9月)時点とほとんど変化していない。このうちGDP成長率の見通しについて、今回の議事要旨は、FOMCメンバーが、新政権の財政政策を中心とする経済政策のタイミングや内容、それらが総需要と総供給に与える影響に関して大きな不透明性があるとの認識にあったことを示している(7ページ左段第3パラグラフ)。

その上で、ほとんどすべてのFOMCメンバーが、今後の財政政策によってGDP成長率の見通しに関するアップサイドリスクが上昇したことを認めている(同パラグラフ)。この点はSEPの第4表(12ページ)からも確認できる。つまり、前回(9月)に比べ、GDP成長率の不確実性を見込むメンバーが増え、それがアップサイドとの回答が増えている。

それでも、FOMCメンバーが見通しを変更しなかった理由に関して、議事要旨は、ドル高のさらなる進行、海外経済の一部の脆弱性、政策金利による金融緩和余地の少なさといった要因によるダウンサイドリスクも大きいという要因を指摘しているほか、生産性上昇率が引続き低位に推移するとの見方を示している。なお、執行部による見通し(6ページ左段第3パラグラフ)には、長期金利の上昇見通しもダウンサイドリスクとして指摘されている。

インフレ率の見通し

PCEコアインフレ率の見通しに至っては、12月FOMCの際のSEPは前回(9月)と全く同じであった。上記のようなGDP成長率を巡る議論を踏まえると当然であるだけでなく、さらに重要な要素としてNAIRUを巡る見方の対立が示唆されている。

つまり、年率2%程度のGDP成長であっても、FOMCメンバーが想定する潜在成長率(12月FOMCのSEPによれば1.8%)の下では、実際の失業率がさらに低下する可能性については、FOMCメンバーの間で相応の合意が窺われる(8ページ左段第3パラグラフ以降)。

しかし、今回の議事要旨は、そのことが残されたslacknessの解消(prime-ageの労働参加率の相応の回復など)を招くとの見方と、労働市場の本格的なタイト化を招くとの見方が依然として並存していることを示唆している。実際、数名(afew)のメンバーが指摘するように、NAIRUの変化をリアルタイムに正しく推計することはそもそも困難である。

政策判断とその意味合い

このように、12月のFOMCは、新政権による財政政策の効果を中心とするアップサイドリスクを意識しつつも、その具体的内容に関する不透明性だけでなく、米国経済の構造的な不透明性に対する慎重さというイエレン議長体制の一貫したスタンスによって、SEPをほぼ不変に維持したものと理解できる。実際、政策金利を巡る議論(9ページ右段第1パラグラフ)には、新政権の経済政策の内容やその効果を認識するのは時期尚早であることに加え、SEPや最適な政策金利のパスにとっては、それらも多くの要素の一つに過ぎないとの議論が示されている。

これらの議論をもとに、今後の政策金利を展望する上で重要と思われる点をいくつか指摘しておきたい。

第一に、新政権による財政政策の効果の表れ方である。12月FOMCの時点だけでなく、本稿の執筆時点でも具体的な政策の内容は明らかではない。しかし、筆者が本年初にニューヨークで面談した際には、多くの民間エコノミストが税制改革(法人税および個人所得税の減税)が時間的に優先されると指摘した。

だとすると、実体経済に対する効果は、改革の具体的内容に関する不透明性だけでなく、法人や個人が税負担の軽減にどう反応するかという「限界支出性向」の不透明性にも左右されるだけに、タイミングと規模の双方の面で、事前に適切に推計することは一層難しくなる。

第二に、金融政策に関するコミュニケーションである。今回の議事要旨が示唆するように、新政権の指向を考えれば、財政政策は拡張的なものとなり、従って、GDP成長率やインフレ率に対しても、少なくとも方向としてはアップサイドの効果を持ちうる。

しかし、実体経済に対する影響に関するタイミングと規模が極めて不透明であるだけでなく、FRBとしてはドル高や長期金利の上昇といった「副作用」による影響にも一定の懸念を有していることが窺われる。特にドル高に関しては、輸入物価を通じてインフレの推移に直接的な影響を有するだけでなく、新政権による保護主義的な政策運営によって左右されることが考えられるだけに、大変重要だが難しい要素となることが考えられる。

こうした状況の下で、FOMCがフォワードルッキングな政策運営を行うことが一段と難しいことは言うまでもない。実際、今回の議事要旨には、先に見た労働市場を巡る意見の対立を反映して、政策金利の「timely adjustments」が必要との議論が見られる(8ページ右段第2パラグラフ)だけでなく、コミュニケーション政策の困難さが示唆されている(9ページ右段第2パラグラフ)。

第三に、新政権による経済政策の中長期的な意味合いである。この点も結論付けることは時期尚早であるが、少なくとも12月FOMCの時点でメンバーは冷静な見方を維持していることがわかる。つまり、上に見たように、米国経済の低位な生産性成長率や労働参加率の長期的低下といった構造問題を顕著に改善するには至らないとの見方が示唆されている。

この点は筆者が面談した多くの民間エコノミストのコンセンサスでもあった。おそらく、適切な規制緩和や新時代に必要なインフラ投資が優先された方が潜在成長率を引き上げ、結果として政策金利のパスにも大きな影響を与えるのであろうが、現時点ではそうはならない可能性が高いとみられているようだ。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています