1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. BOEの12月MPCの議事要旨-Remarkably ste…

BOEの12月MPCの議事要旨-Remarkably steady

2016年12月19日

はじめに

相対的な注目度は低かったが、BOEは12月14日のMPCにおいて金融政策の現状維持を決定した。しかし、この間にポンド相場が反発したほか、足許の個人消費関連の指標が極めて堅調である一方、インフレ期待に上昇の兆しがみられるなど、BOEにとっては今後の政策運営を一段と難しくする要素も生じている。BOEの特徴であるMPCの翌日公表の議事要旨を参照しながら、内容を検討したい。

金融市場と国際経済

議事要旨の最初の部分(1~2ページ)には、金融市場と国際経済の評価や英国経済への影響に関する議論が整理されている。

金融市場に関しては、世界的な長期金利の上昇が取り上げられ、震源地の米国での動きはFRBの金融政策に関する予想の変化以外の要素-例えば、低成長が続く可能性の低下したとの見方-による可能性が議論されている。

その上で、ポンドの実効レートが前回のMPC(11月)に比べて6%も反発した点が取り上げられ、長い目で見ればBrexit後のEUとの関係に関する思惑に左右されるとしつつも、この間にOISレートが35bp上昇したことも言及されるなど、BOEの金融政策に関する予想の変化が影響したとの見方を示唆している。

一方、海外経済に関しては、米国の長期金利上昇が新興国経済に与える影響に多くの議論が割かれている。具体的には、2013年のテーパータントラムに匹敵する(グロスの)資本流出が生じているほか、為替レートの大幅な減価、クレジットスプレッドの拡大や株価の下落といった事象が議論されている。

もっとも、この2013年当時に比べた場合、(ネットの)資本フローは流入超であるほか、経常赤字の減少、インフレの安定といったファンダメンタルズの良好さも指摘され、米国経済の拡大による外需のメリットも考えると、新興国はこうしたストレスを克服しうるとの見方が示されている。

ただし、中国に関しては慎重な見方が示され、民間債務の一段の拡大、大都市における住宅価格の上昇の継続、インフレ圧力の上昇の兆候、資本流出と外貨準備減少の再開といった課題に直面する政府当局が、これらのバランスをとった政策を運営することの困難さが指摘されている。

国内経済

国内経済のうち、主たる需要項目に関する議論(3ページ)では、11月のInflation Reportで示した2017年入り後の景気減速と整合的な兆しが見られるかどうかが焦点となっている。

なかでも個人消費は、足許(10月)の小売売上高が14年振りの高水準となったほか、新車登録も堅調に推移し、住宅市場も住宅価格の上昇とモーゲージ貸出の増加によってpositive surpriseの状況にあることが確認された。この間、消費者センチメントが大きく低下したことについては、消費者物価インフレ率の加速による実質購買力の低下懸念を反映した可能性が指摘されている。

これに対し、企業活動は前回のMPC(11月)でも既に確認されていたように、EU離脱後に関する不透明性を反映して、センチメントや設備投資意欲が軟調になっているほか、足許(10月)の鉱工業生産も大きく低下したことが指摘されている。これらを総合して、MPCとしては、2017年入り後の景気減速を中心的なシナリオとして維持することを確認している。

続いて物価を巡る議論(4~5ページ)においては、まず、労働需給と賃金との関係が取り上げられている。つまり、民間セクターの定例給与の上昇率が2014年秋以降、年率で2~3%のレンジで安定していることが、この間の失業率の顕著な改善(8.5%→5%弱)に照らして注目すべき特徴であると指摘されている。

賃金上昇率については、この間の生産性上昇率の低さに加え、低位な消費者物価インフレ率を反映したものとの整理がなされ、従って、ポンドの減価を背景とするインフレ率の改善によって、今後は緩やかに加速するとの見方を中心的シナリオに維持するとされている一方で、先行きの不透明要素も挙げられている。

つまり、輸入コストの今後の上昇や低位な生産性上昇率を吸収するため、企業経営者が賃金引上げを引続き抑制する可能性が指摘される一方、失業率が金融危機以前の水準まで低下した中では、(名目)賃金のインフレ期待に対する感応度が高まる可能性も挙げられている。結局、MPCとしては、現時点ではこの点に関する結論を示さず、関連する指標の動向を注視することに止めている。

その上で、インフレ期待の動向-特に、今後のインフレ率が2%目標をovershootする可能性に対する反応-が取り上げられ、(1)市場ベースの指標のうち、BEIは顕著に上昇したが、インフレ率に基づくcompensationのスワップレートは安定、(2)サーベイベースの指標のうち、長期のインフレ期待は区々であるが、中短期のインフレ期待は上昇した、といった結果が示されている。

政策判断とその意味合い

MPCの議事要旨は最後(5~7ページ)に政策判断に関する議論を示している。つまり、海外経済については、不透明性は高いものの、前回のMPC(11月)当時に比べて改善した可能性が示される一方、国内経済については顕著に安定的(remarkably steady)との認識が確認された。

その上で、2017年入り後に英国経済が徐々に減速することを中心的シナリオとして維持したほか、消費者物価インフレ率は、最近のポンドの反発によってやや抑制されるものの、原油価格の反発もあり、今後6ヶ月以内に2%を超えるとの見方が維持された。

このような金融経済情勢に関する判断の下で、金融政策の現状維持が決定されたが、今後の政策運営に関しては、英国のEUとの関係に関する展開によって、総供給と総需要、物価がどのような影響を受けるかに依存し続けることが確認された。

BOEの政策判断に重要な要素としては、予想外に堅調な国内経済(特に消費)の減速時期だけでなく、米国の経済政策の波及効果や、ユーロ圏の金融システム問題や新興国の不安定性など、海外発の不透明性も加わった。しかも今回の議事要旨の最後(7ページ)に記されたように、FPCは国内住宅価格の金融システム面での影響を引続き意識している。MPCが指摘する中国当局ほどではないにせよ、相反する方向の多様な目標のバランスをとらねばならない点ではBOEも同種の難しさを抱えている。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています