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FRBのイエレン議長の記者会見-ポリシーミックス

2016年12月15日

はじめに

今回のFOMCは、1年振りとなる25bpの利上げを市場の予想通り決定した。しかし、トランプ新政権の経済政策の具体的内容が現時点で不透明であるにも拘わらず、経済見通し(SEP)と利上げ予想(Dot Chart)が小幅ながら上方修正されたことに加え、これらを含むイエレン議長の説明にもやや意外感のある内容が含まれていた。経済見通しや利上げ予想を参照しつつ、記者会見のポイントを検討したい。

経済見通し

足許の景気判断を示す声明文の記述は、雇用の拡大が強いことと、インフレとインフレ期待(市場ベース)が改善していることの表現を若干前進させた以外は、前回(11月)とほとんど変わっていない。

一方、今回の経済見通しは来年にかけて若干ながら上方修正されている。具体的には、実質GDP成長率が前回(9月)時点の1.8%→ 2.0%から1.9%→ 2.1%、失業率が4.8%→ 4.6%から4.7%→4.5%と改訂されている。この間、PCEコアインフレ率の見通しは、前回(9月)と変わらず1.7%→1.8%とされてる。

見通しの上昇幅は微々たるものに見えるかもしれないが、これらの水準をFOMCメンバーが考える「長期水準」-つまり均衡値-と比較すると違った姿が浮かび上がる。イエレン議長が記者会見の冒頭で述べたように、FOMCメンバーによる長期の実質GDP成長率の予想値は1.8%、長期の失業率の予想値は4.8%なので、米国経済が2017年にかけて上記の見通しに沿って推移した場合、ある種の過熱状態-イエレン議長がかつて講演で述べた「高圧経済」-が生ずることを意味する。

利上げ予想

FOMCメンバーによる今後の各年末における政策金利の予想(median)は、2017年末が前回(9月)の1.1%から今回は1.4%に上方修正されている。2018年末と2019年末についても引き上げられているが、各々1.9%から2.1%、2.6%から2.9%とパラレルなので、2017年末の引き上げ分がそのまま上乗せされたものと理解できる。

これを毎年の利上げペースに引き直すと、2017年中の利上げ幅の予想が、前回(9月)は50bpであったのが、今回は80bpに増加している。つまり、1回当りの利上げを25bpと仮定すれば、年間2回から年間3回へと増えた訳である。もっとも、上記のデータから明らかなように、その後の利上げ幅は、2018年が80bpから70bp、2019年が70bpから80bpと、各々25bp×3回という意味で概ね変わらない。また、長期の政策金利も3.0%から2.9%とほとんど変化していない。

ポイントは、このように2017年の利上げ回数の予想が若干ながら増えたことである。イエレン議長は、FOMCメンバー全体としては、トランプ新政権の経済政策(特に財政政策)の内容が現時点で明らかでないだけに、不透明な要素としては認識するものの、利上げ予想に反映させないとの考え方であったことを説明した。

このような考え方自体は市場の大勢が予想した通りであったが、それでも利上げ予想が若干ながら引き上げられたことは、意外感を持って受け止められたかもしれない。こうした判断は、上記のように来年にかけて「高圧経済」的な状況が続くことに対して、FOMCメンバーの大勢として利上げペースの若干の加速をもって対応すべきとの考え方を有していることを示唆する。米国市場が相応の反応を見せている理由の一つは、この辺りにあるようにも見える。

新政権の経済政策との関係

今回の記者会見では、当然ながら、トランプ新政権による経済政策の見通しと、それに基づく金融政策の運営に質問が集中した。イエレン議長は、新政権の経済政策の具体的な内容が明らかでない現時点でコメントを控えるとの基本的立場を繰り返した。もっとも、米国経済にとっては低成長の長期化が懸念すべき問題であるだけに、労働生産性の改善や労働者の再教育による労働参加率の改善などが経済政策の重要な課題であるとの考え方を再三強調した。

加えて、イエレン議長自身が過去に財政支出の必要性を強調したことや、先に見た「高圧経済」の必要性を主張した点について、現在の考えを質す質問に対しても、米国経済を巡る環境は変わったので必ずしも同じ意見を維持している訳ではないことを説明した。特に「高圧経済」については、既に失業率が長期水準を下回り、かつインフレ率も目標に向かって上昇している現状の下で長期にわたって維持することは望ましくないとの考え方を示した。

つまり、イエレン議長は、少なくとも単純な財政支出の拡大よりも、規制緩和などを含む構造改革によって潜在成長率を引き上げることを望んでいることが確認できる。もちろん、イエレン議長も言及したように、財政支出であっても民間投資を促進する内容であれば、潜在成長率の引き上げに貢献しうるので、財政支出の拡大に一概にネガティブというわけではなかろう。一方、新政権にとっては、インフラ投資の拡大を通じて、非熟練労働力に対する雇用や所得の拡大を図ることが政治的に重要であることも否定できない。それでもこのような議論は、今後の経済政策の内容に関して、新政権の指向とFOMCの考え方が相応に乖離する可能性を示唆する面がある。

インプリケーション

これらの議論の意味合いとしては、第一に、FOMCが利上げのペースを今回の見通し以上に引き上げようとする可能性があることを指摘しうる。今回の予想は新政権による経済政策の効果を織り込んでおらず、実際に財政支出が拡大すれば「高圧経済」化が進み、FOMCはその長期化を望まないとの意向にあるためである。

ただし、新政権が財政支出の拡大を企画し、議会を通しても、インフラ投資が主体なのであれば、効果が実際に具現化するのは2018年以降である可能性も高い。FRBはフォワードルッキングな政策運営を行うとしても、2017年の利上げ回数自体が3回からさらに増えるかどうかには不透明性も残る。

第二に、FOMCないしイエレン議長は基本的にdovishとのイメージを変えようとしているのかもしれない。声明文や記者会見の説明では、緩やかな利上げを継続することが最適との判断を維持したが、理事の空席ポストやイエレン議長の任期満了といった人事面も含めてFRBに対する政治的な圧力が強まりやすい環境にある。FOMCが米国経済の過熱リスクを徐々に意識しているのであれば、市場との対話を円滑にする上でもイメージチェンジの意味は決して小さくないことになる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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