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11月FOMCの議事要旨-Preserve Credibility

2016年11月24日

はじめに

11月FOMCの議事要旨は、言うまでもなく、次回(12月)FOMCにおける利上げを探る点で重要な意味を持っており、本コラムでみるように、実際にその蓋然性を一段と示唆する内容となっている。また、それ以外にも長い目で見た政策運営について興味深い論点を提示している。いつものように内容を検討したい。

金融経済情勢に関する議論

金融経済情勢に関する議論(8ページ左段から)をみると、まず、FOMCメンバーが経済見通しを9月FOMC時点と概ね変えていないだけでなく、大多数(substantial majority)は当面のリスクが上下双方にバランスしているとみていることが注目される。

実際、FRBのスタッフはむしろ下方リスクが大きいとみているほか、FOMCメンバーの少数派(a few)が下方リスクが大きい理由として挙げている要素-中立金利の低下、海外経済の下振れリスク、一部国での金融面の脆弱性-にはもっともな面も少なくない。

もっとも、FOMCも一方的に強気化している訳ではなく、例えば第3四半期のGDP成長率が年前半に比べて顕著に改善したことについても、在庫投資の回復や一部農産品の輸出の増加による面が大きく、個人消費や住宅投資が減速したことなどを認めている。いずれにせよ、FOMCとしては、9月FOMCでのSEPが示すように、米国経済はならしてみれば潜在成長率付近での成長を続けるとの見方を維持している訳である。

その上で、デュアルマンデートのうち労働市場に関しては、9月FOMC以降も改善が継続したことを確認しつつ、昨年後半以降の労働参加率の上昇について議論している(9ページ右段から)。

このうち、先行きの不透明性については、①prime ageの労働参加率が危機前に比べて相当低いことや、労働参加率の長期トレンドが退職の高齢化を考慮するとより高いとみられることなどから、労働参加率は上昇するとの見方と、②足許での労働参加率の上昇は完全雇用を反映したに過ぎず、今後に潜在成長率以上のペースで経済が拡大しても、労働市場への新規参入が増えるとは限らないとして、労働参加率の上昇に懐疑的な見方が示された。つまり、FOMCにおける労働市場でのslackに関する見方は、依然として一致していなかったことになる。

物価に関しても、足許で幾分加速していることの背景については、一時的な要因の影響に注目する少数(a few)のメンバーと、インフレ目標への前進と理解する二名(a couple of )のメンバーに意見の相違がみられる。

これを踏まえて、FOMCメンバーは政策への意味合を議論しており、インフレ目標の達成が予想より早かった場合に、利上げのパスに関する市場の見通しが変化することで長期金利が急上昇したり、ドル相場がさらに上昇することでディスインフレを生じ、結果として利上げの必要性が先送りされる可能性を指摘している。この後、市場ベースでのインフレ期待が上昇したことに関するFOMC内での意見の相違も示しているが、こうした議論は、利上げの必要性に関する意見の重心がシフトしていると理解できる。

利上げに関する議論

11月FOMCでの政策判断については(10ページ右段から)、利上げに向けた条件が強まったとの見方でFOMCが概ね一致したことを示している。それは、労働市場が更に改善し、インフレ率やインフレ期待が目標に向かって前進したと判断したからである。そして、 今後のデータがこうした動きをさらに示す限りは、比較的早期小さくないと言える。("relatively soon")に利上げが適切となるという、声明文に期された判断をほとんど(most)のメンバーが表明したことを示している。

さらに、数名(some)のメンバーが近い将来の利上げを示唆するコミュニケーションの適切さを評価し、次回(12月)FOMCにおける利上げを含め、その信認の維持が必要であると主張したほか、少数(a few)のメンバーは、票決から明らかなように11月FOMCでの利上げが適切であると主張した。加えて、多く(many)のメンバーは、労働市場の過熱が進んだ場合の金融経済の安定に対するリスクや、低金利環境が継続した場合のreach for yieldを通じた経済資源の配分の非効率化といった問題を指摘した。

もちろん、他の数名(some others)は、失業率を長期的に正常な水準以下に当面とどめることがインフレ目標の早期達成に資することや政策金利が実質的な下限に近いことによる潜在的な問題、さらには海外情勢が米国経済にもたらすリスクなどを指摘している。しかし、利上げの遅延に伴うリスクを強調するこれらの議論は、FOMCの意見が利上げに一段と傾いたものと理解できる。

金融政策の長期的な枠組み

今回の議事要旨の冒頭(2ページ右段から)には、11月FOMCで(7月FOMCに続いて)金融政策の長期的な枠組みに関する議論が行われたことが記されている。今回のポイントは、①預金準備率の必要性と、②バランスシートの大きさや構成を通じた政策の可能性の二点であった。言うまでもなく、これらは、FRBが長期にわたって大量の資産を抱え込み、結果として資金供給が高水準のまま推移することを前提とした課題である。

FOMCメンバーは、預金準備率の廃止については、資金供給のアクティブな調節を不要にするのみならず、コミュニケーションの容易さや、どのような局面でも効率的な金利調節を行う柔軟性の点でもメリットがあることを指摘した。これに対し、バランスシートを政策手段として活用することについては、多く(many)のメンバーが、政策金利が実効的に下限にある下で量的な拡張が意味を持つことを指摘したが、ほとんど(most)のメンバーがそれ以外の局面ないしはそれ以外の目的で活用することに支持を表明しなかった。

こうした長期的視点での議論は、今回の議事要旨の政策判断に関するパート(10ページ右段)にも現れ、多く(many)のメンバーが、今後の枠組みを考える上で、基調的な生産性伸び率の減速や結果としての低位な中立金利との関係を重視すべきと主張している。中でも、FRBがバランスシートを今後に縮小し、QEの効果が減衰するに連れて、(総需要に対する下支えが失われる結果、)実質短期自然利子率が一層低下する可能性を考慮することの重要性を強調している。

このように、FOMCは、12月利上げに一段と前向きの姿勢を示唆する一方、中長期的には低位な自然利子率の下での新たな枠組みに苦心している姿を示している。新政権の経済政策によって問題設定自体が影響を受ける面もあろうが、デュアルマンデートの維持を前提に枠組みを考えなければならないという意味では、FRBの中長期的な悩みも決して小さくないと言える。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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