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イエレン議長の議会証言-Independence

2016年11月18日

はじめに

今回のJoint Economic Committeeでの議会証言については、12月利上げに向けたヒントがどの程度示されるかがまずは注目点であり、実際に米欧のメディアは"relatively soon"という冒頭説明のキーワードに注目した報道を行っている。

一方で、出席した議員が提起した問題の多くは、新政権による政策変更の影響を含めて、もう少し長期ないし構造的な性格を有するものであった。いつものように内容を検討したい。

12月FOMCに向けた政策運営

この点に関しては、イエレン議長による冒頭説明が詳しい説明を提示しているが、大きな方向性は9月および11月のFOMCにおける判断を踏襲している。つまり、デュアルマンデートに照らして利上げの条件は強まっているが、目標の達成に向けた継続的歩みに関する一層の証拠を待つという考え方である。その上で、今後のデータがこうした条件に沿ったものである場合、"relatively soon"に利上げが適切なものになるという上記の表現を使って、利上げが近いことを示唆している。

この間、11月FOMCでは記者会見がなく、声明文のみでは十分に表現し得なかった点として、本日の冒頭説明は、①雇用が増加を続けているのに、失業率が安定していることからみて、労働市場には改善の余地があること、②従って、一層の証拠を待っていることは、経済の先行きに自信がないことを意味するのではないこと、③利上げを長期にわたって遅延させれば、将来の急速な利上げや過度なリスクテイクを招くこと、などを指摘している。

それでも、例えばFF先物に織り込まれた12月FOMCでの利上げ確率は、イエレン議長の議会証言前後で大きく変わっていないだけに、市場は12月FOMCでの利上げを考える上ではイエレン議長のメッセージよりも、新政権の財政拡張に対する期待や足許の堅調な経済指標に現時点では重きを置いていることが伺われる。

なお、質疑応答では共和党のコーツ氏が12月利上げの妥当性を取り上げ、大統領選の影響をどう考えるかという直裁な質問を行った。イエレン議長は上記のようなロジックを繰り返すことで直接の回答を避けたが、当然ながら、新政権の経済政策が明らかになれば、FRBとしてインフレや雇用、経済成長に対する影響を考慮していくとした。

さらにコーツ氏は、イエレン議長が(金融政策が十分な効果を発揮する上では)適切な財政支出が必要と主張していたことに言及した。これに対しイエレン議長は、財政政策の運営は議会が決めることであるとした上で、①今やほぼ完全雇用状態にある、②CBOの推計でも、財政赤字は長期的にはチャレンジングである、③経済に何らかのショックがあれば財政支出が必要だが、②の通り、長い目で見た余力は大きくない、④経済成長の鈍化の背景としては生産性の伸び率低下のような構造問題の影響が大きい、といった点を議会に助言したいと述べた。

金融監督の方向性

今回の質疑応答では、金融監督を巡るテーマが多く取り上げられた。なかでも、ドッド・フランク法の今後の扱いは、トランプ氏が選挙 戦を通じて否定的な考え方を発信していたこともあり、共和党と民主党の双方の議員から提起された。例えば、共和党のマロニー氏は、この法律が金融システムの強さや安定性、安全性に一定の貢献をしたとの考え方を示し、イエレン議長も同意した。一方、共和党のティベリ氏は、この法律がCommunity Banksを含む銀行の経営を圧迫していることは、地方の政治家も含めてコンセンサスになっているとした上で、法改正の可能性を質した。これに対しイエレン長は、CBOのレビューでも、この法律によって導入された措置は金融システム安定に全体として寄与していると反論した上で、小規模金融機関への規制の適用に関しては、内容をシンプルにする等を通じて負担軽減を考えていくことを説明した。

また、共和党のリー氏は、金融規制が毎年のように変化している点を取り上げ、議会のチェックが十分でなく透明性が低いとするなど批判的な議論を展開した。イエレン議長は、「選挙で選出されていない人々」が規制を決めていくのは不適切とするリー氏の発言には不愉快そうな表情を示した一方、少なくともFRBに関しては金融危機後に導入した様々な措置が金融システムの安定強化に寄与していることに自信を示した。

経済成長の引き上げ

金融監督の方向性と同様に、複数の議員が質疑応答でこの問題を提起した。例えば、民主党のケーシー氏は、雇用や企業収益の増加に関わらず、これまで賃金上昇が緩やかであった理由を質したほか、同じく民主党のハインリッヒ氏は、生産性の伸びが低迷したことが賃金上昇を抑制し、かつ労働分配率を低位に止めた可能性を示唆した。

もともと労働経済学が専門であるイエレン議長は、これらの点には比較的丁寧に説明し、イノベーションやグローバリゼーションによってスキルのミスマッチが拡大していることが生産性と賃金の伸びを抑制した可能性を示唆した。また、労働分配率の長期停滞は米国のみならず先進国に共通することを説明した上で、その理由は必ずしも明らかになっていないと述べ、いずれにしても労働市場の構造改革-特に労働者の再教育-を通じて解決される面が大きいとの見方を示した。

金融政策の独立性

そして、今回の質疑応答では、トランプ氏が否定的な考えを示唆したこともある金融政策の独立性も取り上げられた。具体的には、イエレン議長に(議長としての)任期満了(2018年2月)まで職務を全うするかどうか質した共和党のマロニー氏の発言を除くと、民主党のクロブシャー氏の質問が目立った。つまり、同氏は独立性が政策効果に対してポジティブな意味を持つことをイエレン議長の回答を借りて整理した上で、デュアルマンデートのうちで雇用を目標から外すことの妥当性を質問した。

これに対しイエレン議長は、主要な中央銀行が物価目標を共通して持つことを指摘するとともに、雇用に限らず経済成長に関する目標も広く共通するとの見方を示した。併せて、二つの目標の達成が矛盾を起こす蓋然性は少ないことも強調した。ただ、イエレン議長のこうした合理的な説明にも関わらず、今や共和党が議会の両院で多数を占めることも考えれば、予算や監査を含むガバナンスの強化や、政策運営における裁量の削減(ルール化)、そして理事会メンバーの構成に至るまで、独立性に関しては今後数年で大きく変化する可能性が存在する。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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