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11月のFOMC-Continued to strengthen

2016年11月03日

はじめに

11月のFOMCは、市場の予想通りに金融政策の現状維持を決定した。その上で、声明文は、インフレの評価を若干引き上げるとともに、利上げに向けた条件は強まりつつあるとし、デュアルマンデートの達成に向けて「幾分か(some)」より多くの証拠を待つとの表現を加えた。

この結果、FF先物で見た12月FOMCでの利上げ確率が70%台に入るなど、市場では次回利上げの織り込みが一段と進捗した。もっとも、昨年12月の利上げに向けたコミュニケーションに比べると、今回のFOMCのスタンスには慎重さも残る。こうした点も含めて、内容を検討したい。

金融情勢判断

声明文の第1パラグラフに示された金融経済情勢の判断は、相応に引き上げられている。具体的には、雇用の伸びを表現するのに、前回(9月)にはあった「平均して(on average)」の語が削除されたほか、インフレ率が本年前半に幾分伸びを高めたとの表現が加えられた。また、市場ベースのインフレ期待が(依然として低いが)上昇したことも言及された。

デュアルマンデートとの関係では、労働市場の状況は「さらに幾分か強まった(strengthened somewhat further)」との表現が維持された上で、物価は「短期的には低位に止まる(remain low in the near term)」の表現が削除された。後者は、FRBが重視するPCEコアでみても、実際に1%台後半に乗ってきていることを率直に反映したものであろう。

ただし、変更点がすべて上方修正というわけでもない。個人消費は、前回(9月)は「力強く成長(growing strongly)」とされていたが、「緩やかに増加(rising moderately)」に下方修正された。実際、第3四半期のGDPでは個人消費の伸びはやや減速した。雇用や所得、純資産(住宅価格)といった要素は依然として磐石であり、その点で大きく変調するリスクは小さいとみられるし、小売売上げは堅調だが、消費者センチメントや耐久財の一部には軟調さもみられることを反映した表現かもしれない。

また、第3四半期のGDPで小幅ながら増加に転じた設備投資についても、「依然として軟調(remained soft)」との評価で据え置かれた。鉱業セクターには回復の動きも伺われ、寄与度でみても相応の貢献が期待される。しかし、企業収益は(引き続き高水準だが)モメンタムが低下し、マクロの設備稼働率も緩やかに低下している。FOMCも、こうした設備投資の重要な要因の動きを踏まえて、慎重さが必要と判断しているのかもしれない。

いずれにせよ、米国も内需が景気の牽引車であるだけに、消費と投資のこうした評価は、FOMCによる金融経済判断が少なくとも一方的に強気化しているわけでないことを示唆する。

政策判断

金融経済情勢に関するこうした評価を踏まえて、11月のFOMCは金融政策の現状維持を決定した訳であるが、冒頭に述べたように、今回の声明文は、利上げに向けた条件は「強まり続けている(continued to strengthen)」とし、デュアルマンデートの達成に向けて「幾分かより多くの証拠(some further evidence)」を待つとの表現を加えた(第3パラグラフ)。

これらを素直に読めば、次回の利上げに向けた道筋にこれまでは後戻りはなく、あと少しの材料が揃えば利上げを決断できることを意味する。実際、米欧メディアの報道の多くや市場関係者のコメントも、この「幾分か(some)」という言葉に焦点を当て、12月FOMC前の2回の雇用統計とインフレ指標がよほど大きく変調しない限りは12月利上げが実現するとの見方を示している。

それでも、FOMCが全体として12月利上げを指向するのであれば、今回の声明文でもう少し明確な表現にしなかったのはなぜかという点も興味深い疑問である。実際、過去には、イエレン議長が"couple of meetings"という表現を使ったこともあったし、昨年12月の初回の利上げ直前の10月FOMCでは、「次回会合での利上げを判断する上では」という表現が声明文に入っていた。

この点に関し、米欧の市場関係者からは、イベントリスクに備えて柔軟性を最後まで確保したいとの意向を反映したものではないかとの指摘が目立つ。ご覧のように、大勢が決しつつあるとの報道が多かった米国の大統領選挙は、再び不透明性が高まっている。FRBの関係者は、金融政策が政治情勢に左右されている印象を惹起することを嫌うだけに、こうした面の考慮を極力否定する。しかし、特に今回は経済政策の転換に大きな不確実性が存在するだけに、大統領選挙の結果による意味合いを見極めることは実務的に当然であると思われる。

一方、本コラムの前半でもみたように、FOMCとして金融経済情勢の判断がそこまで磐石でないために柔軟性を残したいという解釈も考えられる。ただ、声明文(第3パラグラフ)が示唆するように、12月利上げに向けた条件が整いつつあるとの理解は、FOMCとして概ねコンセンサスになっていることも念頭に置く必要があろう。つまり、金融経済情勢に対して相応に慎重な見方が残っているのであれば、それは12月利上げ自体に影響するよりも、その後の利上げペースにとってより重要な要素になると考えられる。

市場では、第三の仮説として、市場が12月利上げを十分に織り込んでいるので、あえて声明文を通じた「織り込み作業」を行う必要がないと判断したという理解もみられるようだ。実際、先に見たようにFF先物による利上げ確率は70%台に入った。確かに、決め打ちにした上で、政治情勢にせよ金融経済にせよ目算が狂って、結果的に12月利上げが見送りとなった場合には、FRBないしイエレン議長の信認が影響を受けることは否定できない。

いずれの理由であれ、FOMCが12月会合に向けて依然として相応の柔軟性を残しておきたいと考えていること事態は、今回の声明文から示唆される。しかもその理由はdata dependentの語に象徴されるファンダメンタルなものばかりではないようだ。

9月会合の時点と12月会合の時点で、金融経済の実勢に大きな変化が見込まれないのに市場が12月利上げを強く予想する背景として、「FOMCはいずれにせよ本年中に1回は利上げをしたいのだろう」という理解があるとすれば、そこには検討の余地が残るように思える。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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