1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. 4月FOMCのMinutes-Appropriate to …

4月FOMCのMinutes-Appropriate to increase

2016年05月19日

はじめに

4月のFOMCについては、これまで声明文だけが手がかりだっただけに、議論の内容を推測することが難しかった。しかし、それを勘案したとしても、本日公表された議事要旨は、次回(6月)のFOMCでの利上げという、市場にとってやや意外な可能性を示すものとなっている。それでは、いつものように内容を検討したい。

金融経済情勢の判断

議事要旨の7~9ページに示された金融経済情勢の判断を総括すれば、第1四半期に減速がみられたが、第2四半期以降に期待される回復を考慮すれば、基調に変化はないということである。

このうち米国経済については、雇用と実質所得の双方の面で労働市場の改善が継続していることに加え、家計の純資産やセンチメントの水準の高さといった要素を指摘している。つまり、FOMCの多数派は、これらに支持された個人消費が引続き成長の牽引車となるとの展望を維持している。この間、GDPの季節調整問題が引続き意識されていることも興味深い。

海外経済についても、既に第1四半期から回復の兆しが見られた点が指摘され、FRBによるより緩やかなペースでの利上げ期待と相まって国際金融市場の安定化に繋がったとの理解を示している。もっとも、FOMCメンバーの多くは、海外金融経済がBrexitや中国の為替政策の展開を含む要因によって再び不安定化し、米国内の支出行動に悪影響を及ぼすリスクを意識している。

その上でインフレについては、雇用のタイト化が賃金に反映しない点や市場ベースのインフレ期待が低いといった問題への指摘もみられるが、他の多く(many others)のFOMCメンバーは、最近の動きが2%インフレの中期的な達成へのconfidenceを強めると評価している。理由として、①コアインフレの改善の中身がより広範かつ後退しにくい、②他の基調的インフレ指標も改善している、③賃金上昇も改善している、といった点が挙げられている。

雇用から賃金へのlinkageに関しては、労働生産性の動向を巡る議論も行われた。つまり、3月に改訂されたSEPの中で長期のGDP成長率見通しが高めに維持されていることは、FOMCメンバーが労働生産性の向上を仮定していることになる。ここでは、妥当性についてコンセンサスが得られた訳ではないが、労働生産性の見方により政策反応が異なりうることを確認している。

最後に、国内のfinancial conditionについては、株価やリスク選好度、市場のボラティリティ等の面で顕著に改善していると評価した。もちろん、ここには先に見たようにFRBによるより緩やかなペースでの利上げ期待やドル安も貢献しているとの見方が示されている。その上で、これらは、家計や企業の支出を下支えするとのポジティブな評価を受ける一方、少数意見ではあるが、金融システムにとって不安定要素となりうるとの議論もみられる。具体的には、商業不動産価格の上昇や一部のmutual fundsの資産の流動性の低下が挙げられている。

金融政策の判断

このような情勢判断に基づき、議事要旨の10ページに示されたFOMCメンバーによる金融政策に関する議論は相応にbullishな内容になっている。もちろん、PCEインフレ率が2%目標を下回る以上、利上げを慎重に進めるべきとのコンセンサスは維持されているほか、以前の国内外の景気減速がセンチメントに与える悪影響、インフレ期待の弱さ、海外発のダウンサイドリスクの残存といった懸念を示す向きは見られる。

それでも、本パートの冒頭(10ページ左段上)に示されたコンセンサスというべき見方は、本コラムで先に見た金融経済情勢の判断を反映してconstructiveなものとなっている。つまり、第1四半期の弱さにも拘らず、中期の経済見通しは3月FOMC時点と変わらないとの判断を概ね共有(generally agreed)した上で、ほとんど(most)のメンバーが、労働市場の改善の継続、ドル増価の停止、エネルギー価格の明確な底打ちを背景に、インフレ率が中期的に2%へ向かうとみている。

その上で-既に米国メディアに広く引用されているが-ほとんど(most)のFOMCメンバーは、今後の経済指標が第2四半期の経済回復、労働市場の継続的強化、インフレ率の2%目標への前進と整合的であれば、6月FOMCで利上げを行うことが適切と判断することを示している。この点は、タイミングが明示されたことも含めて、市場にとってやや意外なメッセージとなった面があろう。

こうした対応には、しかし、ハードルが残る点も当然に意識されている。まず、数名(several)のメンバーは、今後の経済指標がこうした判断の妥当性を明確には支持しえない可能性を挙げている。そして、おそらくより重要な問題は、数名(some)のメンバーが懸念したように、市場が6月利上げの可能性を十分に意識していなかった可能性である。実際、市場レートが6月利上げの可能性を不当に低く評価しているとの指摘もみられる。

これらの課題を克服するには、今回の議事要旨も指摘するように、FOMCが市場に向けて適切なコミュニケーションを行うことが求められる。なかでも、金融経済情勢に対する政策反応関数についての理解の共有がポイントとなる(11ページ右段上)。この点が上手く行かないと、経済指標の好転が「利上げ懸念」を通じて市場をむしろ不安定化させるといった問題を生ずる。

しかし、それが容易でないことは、今回の議事要旨に対する今後の反応を通じて確認されるであろう。しかも、FRBによるより緩やかなペースでの利上げに対する期待が、国内のfinancial conditionのみならず、国際金融市場の安定化をも通じて米国経済を下支えしたとFOMC自身も評価したことは、利上げに向けたFOMCと市場との対話が一段と難しいことを示唆している。

金融政策と金融システム安定の関係

4月FOMCでは、金融政策と金融システム安定の関係に関するセッションも設けられ(議事要旨2ページ)、事務局が金融政策による金融システムへの影響や、マクロプルーデンス政策との協調について分析を示した。FOMCメンバーの議論では、金融システムにはマクロプルーデンス政策がprimaryな手段としつつも、①具体的な手段が少なく、発動経験も乏しい、②分権的な監督当局の協調が難しいといった問題が指摘された。その上で、一般には金融政策を金融システム安定に使用することはコストが大きいが、金融システムがデュアルマンデートの達成を脅かす可能性が高い場合は、金融政策の使用も排除すべきでないとの合意を得ている。

この議論は、6月利上げの如何に直ちに大きな影響を与えるものでないとしても、今後の利上げのペースや継続性を展望する上では無視し得ない意味を持ちうるように思われる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧