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金融政策決定会合における主な意見-2016年1月会合

2016年02月09日

はじめに

日銀による「主な意見」の公表が、初回から2回連続で政策変更をカバーすることになるとは誰も予想していなかったであろうが、いずれにせよ、議論の概要を速やかに共有する役割を遺憾なく発揮しているように見える。

今回の「主な意見」は、マイナス金利の導入を巡る議論をカバーしており、その重要性は言うまでもない。本コラムでは、その内容とそこ から得られるインプリケーションを検討したい。

金融経済情勢の判断

最初のパートである「金融経済情勢に関する意見」からは、家計や企業のセンチメントが悪化するリスクへの懸念が共有されていたことがわかる。その源泉としては、言うまでもなく、世界経済の下振れリスクが意識されており、年初来の原油価格の急落や、新興国・資源国の経済の不透明性の拡大を映じた国際金融市場の不安定化が不安の源泉であると説明されている。

加えて、こうしたリスクに言及している意見は、経済主体のセンチメントの悪化がリスク回避的な行動-賃金引上げの慎重化を含む-に繋がり、結局は、基調的なインフレの改善に悪影響を及ぼすことに懸念を示している。

もっとも、国内景気に関しては自信も見られる。つまり、短期的には生産活動に減速の可能性があるとしつつも、中長期的にみても緩やかな景気拡大-潜在成長率を上回るペースである-との意見がみられ、今回改訂された経済見通しとも整合的である。

最後に物価に関しては、これらの議論を踏まえメインシナリオとしてインフレ基調の改善を見込む意見がみられる一方で、インフレの先行きに対するリスクを指摘するとともに、2%目標の達成時期を後ズレさせるべきとの指摘が並存している。

政策判断

1月の金融政策決定会合(MPM)でマイナス金利の導入が決定された以上、「金融政策運営に関する意見」のパートにおける焦点は、1)再追加緩和の必要性を巡る議論、2)マイナス金利の導入を選択する議論、の2点に絞り込まれる。

このうち1)に関して、再追加緩和に賛成の立場は、基調的インフレの改善が遅延するリスクに「先手」を打つべきとの考え方を示している。この点は、景気や物価の緩やかな改善というメインシナリオを維持しつつ、ダウンサイドリスクを意識するという上記の議論と整合的である。これに対し、反対の立場は直ちに政策対応を採る必要性に疑問を示している。つまり、ダウンサイドリスクを認めつつも、景気や物価の基調的な改善に変化がない点を強調している。

しかしながら、議論の核心は言うまでもなく2)である。再追加緩和に賛成の立場は、「量的・質的金融緩和」にマイナス金利を加えることによる柔軟性の拡大というメリットを強調している。加えて、「階層構造」の採用によって、金融機関に対するコストの賦課という副作用を最小化しうることに自信を示している。

この点に関して興味深いのは、欧州諸国でのマイナス金利政策の経験を通じて、効果や実務的な問題について適切に運営するだけの知見が蓄積されたとするコメントである。今日、先進諸国において「非伝統的金融政策」の主要な要素と看做され、かつ実際の活用されているものの殆どを-良いことかどうかは別として-日銀が最初に導入したことに異論はないであろう。その意味では、マイナス金利は日本の「非伝統的金融政策」において数少ない「輸入品」である。

一方、反対の立場からは、マイナス金利の導入が資産買入れの限界という誤解を招くリスクへの指摘がみられる。しかも、こうした懸念は、昨年12月の「補完措置」の導入によって一層強まっているとされている。

再追加緩和に反対の立場は、さらに、マイナス金利の導入がマネタリーベースの増加を目指す「量的緩和」と整合的でないとの批判を示している。なぜなら、金融機関による国債買いオペへの参加のインセンティブを損なうからである。加えて、中短期債の利回りがマイナスになると、日銀のみが買い手として残されることになり、財政ファイナンスへの懸念を助長するとのリスクにも言及している。

いずれにせよ反対の立場は、マイナス金利の導入に伴う経済活動への良い影響と金融システムに対するコストのバランスに疑問を呈しており、マイナス金利は金融経済危機のような極端な事態に限定して導入されるべきとの考え方を示している。

このほか、反対の立場は、マイナス金利の将来的な意味合いに関して二つの問題を提起している。第一に、市場がマイナス金利の拡大に関する催促相場に陥り、結果として、家計や金融機関が一層の混乱に陥るリスクである。第二に、中央銀行間でマイナス金利の競争が展開するリスクである。その背後には、為替レートへの影響が意識されていることはいうまでもないであろう。

今回の「主な意見」の意味合い

今回の「主な意見」を読むことで、1月のMPMでの意見の対立が、再追加緩和の適否自体よりも、政策手段の選択にあったとみられることがより明確に推測できるようになった。

一方、マイナス金利の効果とコストのバランスについては、賛成の立場と反対の立場との間で意見が異なるのも当然である。ただ、この点を除くと、マイナス金利の導入自体が、賛成の立場からみると「量的・質的金融緩和」の柔軟性拡大と映り、反対の立場からみると、まったく逆に「量的・質的金融政策」の限界の露呈と映ることは大変興味深い。

再追加緩和に反対の立場に関してもう一つ注目すべき点は、市場や他国の中央銀行との対話に関する課題を示唆している点である。長さの制約で盛り込めなかったのかもしれないが、なぜか、賛成の立場からはこの点への明示的な言及が見られない。マイナス金利が付加されるかどうかに拘わらず、「量的・質的金融緩和」が国内ないし国際金融市場を通じて効果を発揮してきたことを考えると、この点は無視し得ない論点を含んでいる。

ただし、今回の「主な意見」を読んでも、今後に経済や物価に対して新たなダウンサイドリスクが高まった場合に、日銀が複数の手段-「量」と「質」と「金利」-をどのように優先付け、あるいはどのように使い分けるかに関してのヒントは残念ながら得られない。その理由の一つは、再追加緩和に賛成の立場からも反対の立場からも、日銀が資産買入れの限界まで現在どの程度の距離にいるのかについて、具体的な見方を示していないからである。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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