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動き出す金融グループ規制の見直し

2016年01月05日

2015年12月22日、金融審議会の「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」報告書が公表された。

近年、金融とIT(情報技術)を融合させるFinTechに対する注目が高まっている 。欧米の金融機関の中には台頭するFinTechベンチャー企業への出資や提携関係の構築を積極的に進めようとする動きがみられるが、日本では、銀行や銀行持株会社に対する業務規制との兼ね合いから、FinTech企業への出資が機動的に行えないといった指摘がある。また、メガバンクグループでは銀行以外の業態の子会社や海外子会社のグループ全体に占める収益の割合が増加傾向にある一方、地域金融機関の間では持株会社を活用した県域の枠を越えた銀行間の経営統合が進むなど、金融グループの経営戦略面における新たな展開がみられる。

こうした中で、ワーキング・グループでは、金融グループにおける経営管理のあり方や金融グループとしてのより柔軟かつ効率的な業務運営を可能にするような規制の見直しについて検討し、法改正の可能性を視野に入れた提言を盛り込んだ報告書を取りまとめたのである。

報告書の第1章「金融グループにおける経営管理のあり方」は、メガバンクグループや地域銀行グループにおける持株会社を頂点とした金融グループの経営管理の現状を概観した上で、経営管理のあるべき姿として、「単一のモデルのようなものを念頭に置くよりも、むしろ、営業基盤・規模・リスク特性・経営戦略等に応じて区々であることを前提とした上で、如何にして実効性を有する経営管理体制の構築を図っていくかとの視点が重要と考えられる」と指摘する。そして、どのような経営管理体制が望ましいかについては、「各グループと監督当局との間で日常的に対話が行われている」とし、「銀行法令等の規制は、銀行業を営む金融グループが共通に遵守すべきルールを定めるものであり、各金融グループの実状を踏まえた経営管理体制の選択に対して基本的に中立的であるべきと考えられる」とする。

つまり、銀行持株会社を頂点とする金融グループと一口に言っても多様な組織形態があるという現状を踏まえつつ、そうした多様性を否定することは好ましくないとの判断に基づき、法令によって、会社法上の機関設計や役職員の兼務といった組織形態など経営管理の「形態」について特定のルールを一律に押し付けることは、避けるべきだとの考え方が示されているのである。

その上で報告書は、持株会社や持株会社がない場合のグループの頂点の銀行が果たすべき金融管理機能の内容についての明確な規定を法令で設けることや金融グループ全体の実効的な経営管理を行う上で必要な情報の集約・共有を柔軟に認めていくことなどを提言している。

報告書の第2章「金融グループの共通・重複業務の集約」では、地域銀行を中心に、金融グループ内の各エンティティに共通・重複する業務を、持株会社やその子会社に集約することでグループのシナジー効果の発揮とコスト削減を実現したいとの声があることを踏まえ、そうした狙いを実現するために求められる制度面の見直しについて提言している。

具体的には、まず、現行法上は「子会社の経営管理を行うこと並びにこれに附帯する業務」に限定されている銀行持株会社の業務範囲規制(銀行法52条の21)を見直し、「持株会社が統括的・一元的に実施することが、グループ全体の一体的・効率的な経営管理に資すると考えられる業務」について、持株会社が業務執行を担うことを許容していくべきとの提言がなされている。

ここで注意を要するのは、報告書が、持株会社による業務執行を許容する条件として、「例えば、持株会社の取締役会等に、「社外の視点」を取り入れるなどの工夫も行いながら、グループ全体に対する実効的な監督機能の発揮が確保されるのであれば」と述べていることである。前述のように報告書は、金融グループの経営管理体制について、特定の形態を一律にとるよう求めることは差し控えているが、この部分の記述には、独立性の高い社外取締役が複数選任されているといった事実が、持株会社によるグループ経営管理の実効性を測る一つのメルクマールとなることを強く示唆していると考えて良いであろう。

金融グループ内の各エンティティに共通・重複する業務を集約する方法としては、持株会社に集約すること以外に、グループ内の特定の子会社に集約することも考えられる。報告書は、こうした場合を念頭に置き、グループ内の複数の銀行から特定の子会社に集約される業務を委託する場合、委託先の管理義務を各委託元銀行ではなく、持株会社が一元的に担うことを許容するよう提言している。

また、報告書は、金融グループ内で資金余剰状態にあるエンティティから資金不足のエンティティに対して社内レートを活用した資金融通を行うことについて、明確なルールの下でシナジー効果を発揮するよう行われるのであれば、柔軟に認めるよう提言している。これは、銀行が兄弟会社や子会社等との間で行う取引の条件を優遇したり、不当に不利益を与える条件にしたりすることを禁じる、いわゆるアームズ・レングス・ルール(銀行法13条の2)の例外を許容するよう求めるものである。

報告書の第3章「金融グループにおけるIT・決済関連業務の取扱い」では、FinTech企業への出資や銀行グループ内外の決済関連事務等の受託に係る規制を緩和することが提言されている。

すなわち、銀行や金融グループによるFinTech企業や主に米国の金融グループが既に展開しているとされるECモール(電子商取引市場)運営会社への出資が、現行法上許容される金融関連業務(銀行業務等に付随又は関連する業務)や従属業務(銀行又は銀行グループに属する証券会社、保険会社、信託会社の業務に従属する業務)のいずれにも該当しない可能性があることを念頭に置きつつ、銀行持株会社や銀行が、認可を受けて、「銀行が提供するサービスの向上に資する業務又はその可能性のある業務」を行うための子会社等への出資を行うことを許容するよう提言しているのである。

そして、そうした認可にあたっては、銀行や金融グループによる他業禁止の趣旨等を踏まえながら、例えば、①グループの財務の健全性に問題がないこと、②銀行業務のリスクとの親近性があることその他銀行本体へのリスク波及の程度が高くないと見込まれること、③優越的地位の濫用や利益相反による弊害のおそれがないこと、④当該出資が、グループが提供する金融サービスの拡大又はその機会の拡大に寄与するものであると見込まれること、等を勘案するよう求めている。

また、報告書は、個別の認可を受ける場合の具体的な出資の割合については、「子会社と兄弟会社とでリスク遮断の有効性が異なること等を踏まえると、銀行持株会社による保有と銀行による保有とで、出資先企業の業務内容・リスク等に応じて出資割合の上限に差が生じることも考えられよう」と述べる。

これは、現行法令上、銀行による事業会社の株式保有が総株主の議決権の5%以下に制限されているのに対し(銀行法16条の3第1項)、銀行持株会社については、その子会社との合算で15%以下とされる(銀行法52条の24第1項)という差違があることなどを念頭に置いたものであろう。しかし、銀行持株会社形態をとる金融グループによるFinTech企業等への出資割合が、持株会社傘下にはない銀行による直接出資の場合に比べて、いわば機械的に、大きな割合になることを許容するといった趣旨ではないと思われる。報告書は、出資割合の上限に差が生じるとしても、それは「出資先企業の業務内容・リスク等に応じて」のことであると明確に述べているからである。

このほか報告書は、銀行の子会社・兄弟会社であって、決済関連のシステム業務などの従属業務を営む会社について、親銀行グループからの収入が総収入の50%以上であること等を求める収入依存度規制が設けられていることについても、その見直しを求めている。この提言内容が実現すれば、金融グループによる戦略的なIT投資が、より円滑に行われるようになるものと期待される。

以上のようなワーキング・グループ報告書の提言内容に基づいた法令改正は、年明けに召集された通常国会で審議されることとなろう。順調に行けば、2017年度にも新たな金融グループ規制が施行されることが想定される。今後の制度整備の動きやその先をにらんだ各金融機関の対応が注目される。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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