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FRBのイエレン議長の記者会見-Particular focus

2015年09月18日

はじめに

結局のところ利上げを見送り、その主要な理由が海外情勢とされたという意味では、今回のFOMCの判断は市場予想の通りであったと言える。ただ、イエレン議長の記者会見からは、「海外情勢」の意味合いだけでなく、インフレ見通しに関しても予想通りと片付けられない意味合いも示唆される。

情勢判断と経済見通し

声明文に示された情勢判断は、現在の国内経済に対する強気の見方を維持している。実際、原油価格の低迷による鉱業セクターへの影響にも拘わらず、設備投資に関する判断を7月FOMCに比べて上方修正した(soft→moderately increase)。一方、最近の海外の金融経済情勢が国内経済活動を幾分か抑制する可能性を明示的に指摘するとともに、インフレに対しても短期的に一段の下落圧力となりうる点を指摘した。

経済見通しも、6月時点に比べて若干下方に修正された。まず、実質GDP成長率は、2017年にかけて+2.1%→+2.3%→+2.2%とされた。前回(6月時点)の+1.9%→+2.5%→+2.3%と比べ、2015年は第2四半期の高成長を映じて上方修正されたが、2016年以降がわずかに引き下げられ、イエレン議長が潜在成長率を若干上回る程度で推移と表現する姿になった。CorePCEインフレ率も、+1.4%→+1.7%→+1.9%とされ、前回の+1.3%→+1.8%→+2.0%に比べ、2016年以降についてわずかだが下方修正された。

記者会見でイエレン議長は、FOMCでの海外の金融経済情勢に関する議論が中国を含む新興国に焦点を当てたものであった点を説明した。加えて、国際金融市場の不安定化においても、新興国に対する不安が主たる要因との理解を示した。その上で、イエレン議長は、中国の中長期的な成長が減速することは十分理解されているとし、市場の不安も短期的に止まることを示唆した。

こうした見方は景気に関する声明文と記者会見に一貫している。つまり、イエレン議長が説明したように-不透明性は残るが-少なくとも現時点では、FOMCとして、新興国の金融経済情勢が米国の景気に与える影響は一時的に止まると判断したものとみられる。

同様に、イエレン議長はインフレ率が中期的に2%へ収斂するとの見方を維持していることを再三強調した。ただ、インフレに関しては抑制要因を一時的(transitory)との理解で片付けてきたこれまでの説明とは若干異なるニュアンスも感じられた。つまり、イエレン議長も、主たる下方圧力としてきた原油価格とドル相場の双方が以前の予想に比べて調整が遅い点を指摘し、先行きにも不透明性が残ることを認めた。

この点は、先に見た海外金融経済情勢に伴うリスクも合わせると、インフレ率の先行きにとって無視し得ない影響を持ちうる。実際、記者会見では物価見通しの妥当性に関する質問が比較的多く示された。これに対しイエレン議長は、海外発の要因だけを考えれば物価見通しが慎重になる点を認めつつ、国内の労働市場のタイト化が進行することによる物価上昇圧力にも注目すべき点を指摘し、今回の見通しが双方の影響を考慮した結果であることを説明した。

実際、失業率の見通しは今回さらに上方修正され、5.0%→4.8%→4.8%となった。この点は、FOMCメンバーによる長期の失業率見通しも4.9%へ上方修正されたことと合わせて興味深い。つまり、この間に米国内でなされたNAIRU論争にFOMCとして一定の回答を示しつつ、今後の数年は失業率が(新たに下がった)NAIRU近辺まで低下してで推移することによって、賃金発の物価上昇が生じていくというFOMCとしての見方を示している。

利上げ開始

イエレン議長は、記者会見で、今回のFOMCで利上げに関する具体的な議論があったことを認めた。また、内需に関する強気の判断は、今回の利上げに対する理由となりうる点も指摘した。その上でYellen議長は、記者会見の冒頭説明において、利上げを見送った理由として、1)海外情勢の不透明性と2)物価の先行き見通しの弱さの2点を指摘した。

既に見たようにイエレン議長は、現時点の判断として1)が短期的に止まるとの判断を示したが、この点にはイエレン議長自身が認めたように不透明性も残る。しかも、FOMCが原油価格の低迷やドル高(新興国通貨の下落)が予想より長引くリスクを認めていることや、イエレン議長が新興国問題を説明する際に金融市場だけでなく経済にも言及している点と必ずしも整合的でない面も生じた。

この点は、記者会見中に上昇した株価が反落したことにも反映されているかもしれない。つまり、当初は利上げ見送りが好感されたが、その理由が嫌気された可能性である。金利が直線的に低下したことも、ここでの議論と整合的である。景気と物価の見通しが下方修正されただけでなく、インフレ見通しには下方に不透明性が増したからである。

こうした中でもFOMCの多数(13/17)が本年中の利上げ開始を予想していることは、少なくとも本日の記者会見を見る限り、その説明に難しさが生じているようにも感じられた。イエレン議長自身が認めたように、新興国の問題が市場の不安心理に止まらず、実体経済の面からも影響を生じるリスクは残る。そうなれば、原油価格やドル相場が安定する時期にも影響する。さらに、FOMCとして、米国が完全雇用を維持するとの見通しの下でも、インフレ見通しを抑制的に維持したことは、記者会見で指摘されたように、国内労働市場を基点としたインフレのメカニズムへの疑問に力を貸すことになる。

それでも年内利上げに合理性を持たせようとすれば、FOMCには別な理由が必要かもしれない。しかし、記者会見で触れられたように、合理性の一つの候補であった金融市場のexcessは夏以降の不安定化によって、皮肉にも緩和されている訳である。

利上げのパス

"dot chart"が示唆するFOMCが想定する利上げのパスも、前回に比べて0.2~0.3%ポイント引下げられた(medianは0.4%→1.4%→2.6%)。もっとも、全期間パラレルにシフトした結果、2016年以降の利上げのペースは年当たり1~1.2%ポイントと6月時点と概ね変化していない。

むしろ、長期の成長率見通しを2%に据え置いた一方で、長期の政策金利3.8%から3.5%へ引き下げたこと(長期のインフレ見通しを下げた?)や、新たに提示された2018年の政策金利が3.4%と2018年中にも利上げが続くとの見通しとなったこと(2017年に成長率がピークを打つとの見通しと整合的?)といった点も気になるが、今回の記者会見では明示的な議論はなかった。その解明は今後の講演などのコミュニケーションに委ねられている。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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