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7月FOMCの議事要旨-長い目でみて注目すべき点

2015年08月24日

はじめに

今般公表された7月FOMCの議事要旨に関しては、利上げ開始の時期を探る点からの議論がほとんどであった。もっとも、この議事要旨は、利上げ開始後の政策運営に関する様々な議論が既に本格化したことも同時に明らかにしている。そこで本コラムは、こうした長期の議論に焦点を当てて検討しておきたい。

SEP(Summary of Economic Projection)の見直し

今回のFOMCでは、事実上常設の「コミュニケーション小委員会」によるSEPの見直し案が提示され、議論が行われた(議事要旨3ページ右段)。

具体的には、①FOMCメンバーによる予想値(実質GDP成長率、失業率、インフレ率および政策金利)に、medianも付加して公表すること、②利上げ開始後は、その時期に関する予想の公表を止めることの2点が提示され、双方とも全会一致で合意したとされる。②は機械的な措置であるが、①に関しては、medianが有用な追加情報となる一方で、必ずしもFOMCの集団的予想ではないことを確認する指摘もみられる。

実際、予想値のmedianは、政策金利に関しては記者会見の時点、その他の経済指標も議事要旨の公表時点になれば、外部の観察者も計算することはできる。もちろん、FRBがすべてを記者会見の時点で公表してくれれば便利ではある。その上で深読みすれば、前回の本コラムで議論したように、イエレン議長がFOMCメンバーの多数派に「乗る」形の議事運営を目指す一環と考えることもできる。その場合はmedianが重要だからである。ただ、この点は、正常化の実際の運営を通じて確認していく必要があろう。

なお、議事要旨によれば、「小委員会」はSEPにFOMCメンバーによる予想の不確実性を示すグラフを加える可能性も提起した。これはFOMCメンバーがどの方向のリスクを重視しているか開示されないという、かねて指摘されてきた問題への対応を意図したものであろう。結果として継続検討になったため、初回の利上げに間に合うかどうか不確実だが、BOEのfan chartや日銀の新表記などの先達がある中で、FRBのinnovationが注目される。

保有債券の再投資

7月のFOMCでは、この難しいが重要な問題についても明示的に議論したことが明らかになった(議事要旨3ページ左段)。

つまり、FOMCとしては昨年9月に公表した"Policy Normalization Principles and Plans"の中で、米国債やAgency MBSの再投資に関しては、①初回の利上げ開始後のどこかで中止またはphasing outすること、②その時期は金融経済情勢によること、の2点を明らかにしている。今回、その具体案を執行部が提案し、FOMCメンバーによる検討が行われた。

このうち②については、ほとんどのFOMCメンバーが経済情勢とそのoutlookに関する定性的評価に基づくべきとの判断を示した。この点は、政策金利の場合と異なり、再投資の効果を定量的に示すことが技術的に難しい以上、自然な判断と理解できる。

加えて、利上げ初期には再投資を変更せず継続することにも多くの支持が得られた。これは、議事要旨が示すように、FOMCとして、政策金利の主たる政策手段としての位置づけを確立したいという意向の表れとみることができる。加えて、正常化の初期段階から、利上げと再投資の停止または減少というダブルの引締め効果を避けるべきという配慮が働いていることも推測できる。

一方、①については、予見可能な形も含めて緩やかなwinding downを支持する意見がほとんどであったものの、数名のメンバーは適切な時期に完全に止めるべきと主張した。更に、米国債とAgency MBSの関係に関しても、パラレルに減らしていく方がシンプルで理解されやすいといった意見から、各市場の状況に即して異なる扱いとすべきとの意見まで分かれたとされる。

いずれにせよ、議事要旨が強調するように、今回のFOMCではこれらの点に関して何らの決定もなされておらず、執行部による更なる分析とそれに基づく検討が展望されている。それでも、再投資の今後の扱いが市場で注目され始め、かつFOMCでの議論が具体性を増してきたことには様々な理由を想起できる。

まず、FRB自身が強調するように、正常化による金融経済への影響は初回の利上げ時期ではなく、その後の正常化戦略に大きく依存する。だとすれば、正常化戦略の柱である再投資の運営が重要であることは言うまでもない。また、米国内では、昨年10月のincidentに関するjoint reportの公表もあって、米国債の市場流動性に関する議論が高まったことも、再投資の運営による長期金利へのインパクトへの関心を高めることとなったのであろう。

長期的な政策運営の枠組み

議事要旨の最後には、イエレン議長が、長期的な政策運営の枠組みについて、執行部が検討を開始すると説明したことが記述されている(議事要旨12ページ左段)。

もちろん、議事要旨も、正常化の運営が本件に関する情報を発信するだけに、本件について結論を急ぐ必要はないとしている。それでも、幅広い分野に関する検討-ゼロ金利制約への回帰を含む多様なシナリオの下での政策運営のバリエーション、規制を含む構造的展開に伴う金融機関や金融市場の変化による金融政策運営への影響、FRBの長期的な資産負債構成が経済目標や金融安定に及ぼす関係、が例示されている-が必要であるため、現時点で議論をスタートさせることが適当としている。

本件で注目されるのは、政策運営の幅広い選択肢を扱うことが示唆されている点である。議事要旨は、前回(2008年)の検討時点では政策金利への回帰の適否に焦点があったと述べる一方、今回は上に見た多様な要素を考慮した幅広い検討への指向を示唆している。この点は、保有債券の再投資の運営に関連する可能性も含めて注視すべきであろう。

また、先の"Principles and Plans"の中で最終的にはSOMAによる保有債券を米国債のみとするとの考え方を示している点への言及がなされた点も興味深い。つまり、この点自体も再検討の対象となることも考えられる。

議事要旨によれば、検討は2016年末に完了するとされている。また、FOMCメンバーは、FRBの執行部だけでなく、海外の中央銀行や外部の専門家(金融市場、金融機関や金融政策)に対しても広く意見を求めるべきことに合意している。本件は、FRBだけでなく「非伝統的金融政策」を採用した中央銀行に共通する面が多いことを考えても、金融危機後の金融経済の現実を踏まえたグローバルな議論が期待される。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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