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BOEによるMPC改革について

2015年08月12日

はじめに

前回のコラムで予告してから若干の時間が経ったが、今回はBOEによるMPCの改革を、その基礎となった"Warsh Report"の内容も踏まえつつ検討したい。以下に見るようにその背景や趣旨にはBOE固有の問題が反映している面がある一方、先進国の中央銀行にとって広くインプリケーションを有する論点が含まれる。

問題意識

"Warsh Report"とそれを受けたBOEのMPC改革に関する公表文の双方で強調されていることは、BOEとして、金融政策の透明性に関して先進国の中でも先駆者であったとの自負と、それを維持していくとのコミットメントである。実際、Inflation Reportの刊行やfan chartの利用といった、今では世界で幅広く活用されているpracticeを最初に導入したことに言及している。

しかし、今回の改革がこうしたフォワードルッキングな観点だけでなかったことも明らかである。BOEの金融政策の透明性において最も広く指摘されてきたのは、政策判断について迅速な説明がなされない点であった。つまり、MPCの直後には、政策変更がなければ声明文は公表されず、総裁記者会見もないので、どのような議論がなされたか理解するには、2週間後に公表される議事要旨(Minutes)まで待たなければならなかった。

加えて、MPCでの票決に関する情報も議事要旨(Minutes)によって初めて公表された。この点は、市場を含む外部の観察者にとって不便というだけでなく、"Warsh Report"が指摘するようにMPCメンバーにとっても講演等での意見表明の上で支障となっていたようである。実際、月1回というMPCの開催頻度を前提とすると、そのうち2週間も意見表明ができないことの制約は決して小さくない。

BOEにとって残念であったのは、政治的な要素も背景の一つに加わったことであろう。本コラムでは深入りしないが、"Warsh Report"の冒頭に言及されているように、英下院のTreasury CommitteeでBOEがMPCの議事に対する非公開の録音が存在する事実を認めたことが、結果として議事録(Transcript)の作成と公表に結びついた面は否めない。

"Warsh Report"のポイント

今回の"Super Thursday"に繋がった実際の改革をみる前に、FRBのGovernorであったケビン・ウォーシュ氏によるレポートのうち、今回の改革に関する部分をレビューしておきたい(これ以外の部分も、金融政策のための委員会の組織論や日本を含む先進国の中央銀行との比較など興味深い内容が含まれている)。

"Warsh Report"は、まず、金融政策の透明性に関して"Big4"と呼ぶ目的を提示している。それらは、①健全な政策決定、②効率的なコミュニケーション、③説明責任、④歴史とされる。このうち、②や③が透明性と深く関わることは理解しやすいであろう。一方、①については、透明性のあり方が、政策判断に資する情報のinputや政策決定の場における意見の動きに影響を与えることが指摘されている。また、④については、MPCの議論を記録に残すことが学究的な意義を有するだけでなく、BOE自身にとって「過去から学ぶ」ための材料となる点が指摘されている。

その上で、"Warsh Report"は、金融政策の透明性を、①政策目標、②経済に関するinputとoutput、③政策決定の過程、④政策判断とその合理性、⑤政策の実行、の5つの側面に整理し、今回の改革について②~④を対象として切り出した。なお、対象外となった①は例えばインフレ目標の公表を指し、また⑤は例えば国債買入れの実績の公表などを指している。これらの整理に基づき、"Warsh Report"は5つの具体的な提案を行った。

第一に、政策変更の有無に関わらず、MPC直後に政策決定の内容とその合理性を公表することである。ここには票決についても記載するよう提言している。これらの背景は先に見た通りである。

同時に、"Warsh Report"はMPCの頻度を月1回から年8回に減らしてはどうかと助言している。その理由としては、政策判断のためには経済のトレンドに関する判断が不可欠である一方、それを月1回行うことは難しい点や、危機でない限り、短期間に経済が大きく変化することは考えにくいこと、あるいは、近年の政策変更の平均的頻度が低いこと、などが指摘されている。

第二に、Minutesについて、金融経済情勢や政策オプションに関する討議を行う第一日目の内容に焦点を当てつつ、内容の充実を図ることである。念のために付言すると、今回の改革以前(つまり先月まで)のMPCは、第一日目が討議(deliberation)、第二日目が政策決定(decision-making)と位置づけられていた。"Warsh Report"の提案は、Minutesについて、MPCでの「討議」の内容を市場を含む外部との間で共有する手段として位置づけるべきというものであった。

第三に、第二日目の内容(政策決定)を対象として、新たにTranscriptを作成し、5~10年後に公表することである。このように、"Warsh Report"による提案はMinutesとTranscriptsの内容を差別化する興味深い内容になっていた。これは、上に見たようなMPCの構成を反映した面があろうし、Transcriptを新たに導入するという事情が影響した面もあろうが、いずれにせよ、日米のように両者が基本的に同じ内容を対象としていることと異なる。

第四に、BOEの執行部によるMPCメンバーへの説明資料もTranscriptに含めることである。これは日本と同じ扱いであり、特に説明を要しないであろう。また、第五には、Transcriptの作成やアーカイブ管理といった新規業務に対応するため、MPCの事務局の機能を強化することである。

実際の改革案のポイント

今月のMPCから実施に移された実際の改革は、"Warsh Report"の提案を概ね踏襲している一方で異なる面も含まれる。

"Warsh Report"の第一の提言のうち、政策決定の内容や合理性に関する公表の迅速化は、MPC直後の"Summary"公表として実現した。ただし、"Warsh Report"に明示的に含まれていなかった点として、MinutesやInflation Reportまでが同時公表となった。

この間、MPCの回数削減についても、"Warsh Report"の提言にそって、2016年からは年8回の会合で金融政策を議論し、そのうち4回は(今回のように)Inflation Reportの公表と同日に行うとした。ただし、MPCを少なくとも月1回行うことが実は「イングランド銀行法1998」に定められているため、法改正までの間は年12回開催が必要となる。そこでBOEは、残りの4回について、FPCとの共同開催という興味深い対応を提示した。

一方、"Warsh Report"の第二および第三の提案に関しては、BOEは異なる対応を示した。既に今月のMPCで見たように、Minutesは(従来通り)「討議」だけでなく「政策決定」もカバーするものとされた上で、Summaryと同時公表されるようになった。これに対しTranscriptは、MPC全体をカバーする内容として本年3月から作成が開始されており、8年経過後に対外公表の扱いとなった。なお、執行部によるMPCメンバー向けの説明資料については、第四の提案にそってTranscriptと一括の扱いとなった。

その上で、"Warsh Report"には具体的に含まれていなかった内容として、MPCの日程構成の変更がある。

つまり、先月までのMPCでは、前週の金曜日に執行部によるMPCメンバーへの説明が行われていた(pre-MPC meeting)。そして、先に見たように、当該週の水曜日に討議(deliberation)を行い、木曜日に政策決定(decision-making)を行った。そして、2週間後の水曜日にMinutesを公表していた。なお、Inflation Reportの公表が当たった場合には、MPCの1週間後の水曜日(つまり、Minutes公表の1週間前)に総裁記者会見を行っていた訳である。

これに対し、今月からは、まず前週の水曜日にpre-MPC meetingを行って執行部による説明を受けた上で、木曜日に討議(deliberation)を行う。続いて、当該週の月曜日に政策に関する討議(policy discussion)を行い、水曜日に政策決定(decision)を行う。最後に、木曜日に結果をSummaryとMinutesとして公表するほか、Inflation Reportの公表が当たった場合は総裁記者会見を行うことになる。

改革の評価

今回の改革は実施に移されたばかりであり、しかも細部に関しては今後も修正の可能性があるだけに、暫定的な評価とはなるが、改革の主要部分について検討しておきたい。

まず、MPC直後に政策判断やその理由を明らかにするようになった点はポジティブに評価されるべきであろうし、実際に市場も前向きに受け止めているようである。

もっとも、同時に公表されるSummaryとMinutesには若干の重複感も感じられる。このうち、Summaryは他の中央銀行で声明文と呼ばれるものに該当し、メディアによる報道も含め、政策判断を手軽に理解する手段としての意味は存在する。これに対しMinutesは、BOEの場合にもともと長くないこともあって、存在意義を問われる面も出てきた。

もしも、Minutesの簡素化が同時公表の必要によって生ずるようであれば、議論は本末転倒の色彩も帯びてくる。また、そもそも"Warsh Report"が「効率的コミュニケーション」という概念を持ち出し、情報量が多いことだけが必ずしも透明性強化に繋がる訳でないとの議論を展開したことと整合的でない面もある。

その意味では、票決をSummaryに加えたことを前提に、Minutesについては多少の時間を使っても、内容の充実を図ることも選択肢であったように思える。実際、"Warsh Report"が行っている先進諸国の中央銀行との比較でも、従来の2週間という公表までのラグはむしろ短い部類に含まれていた。

この間、MPCの日程を「長期化」したことについても、BOE側からはMinutesの同時公表を円滑化することと関連付けた説明がなされている。そうであれば、同時公表にこだわる限り必然的な帰結となるが、市場からは情報漏洩に関するリスクという副作用への懸念もみられる。確かに、一週間以上もMPCを断続的に開催し続けることは-特に政策変更の可能性に注目が集まった場合には-そうしたリスクが意識される局面も考えられる。

ただ、実際にはBOEのみならず他の中央銀行であっても、金融経済動向や金融政策に関する議論をこうした「場」以外では一切行わないことは現実的に考えにくいし、逆説的ではあるが、その意味では情報漏洩のリスクはMPCの期間をどう設定しても存在し続けるようにも思える。

さらに、MPCの「長期化」という対応にはBOE固有の事情を勘案すべきかもしれない。すなわち、日米とは異なり、BOEのMPCメンバーは金融政策を決定することだけをマンデートとしており、従って必ずしも「常勤」ではない。それだけに、他国であればわざわざMPCの一部と銘打つ必要のない内容の会議も、そうせざるを得ないという判断もありうる。

おそらく、金融政策の透明性との関係でより本質的な問題は、議論や会議をどこまでMPCのような政策決定の枠組みに取り込むのかという点であろう。金融政策に関わる内容を含むものはすべて枠組みに取り込み、従って透明性を付与するというのが一つの考え方ではあろう。ただ、そうした議論や会議には、中長期の内容であったり、可能性は低いが生ずると大きな影響のあるような事象に関する内容が含まれることは十分に考えられる。それらをすべて短期的に明らかにすべきかどうかについては、先にみた"Warsh Report"も必ずしも肯定的な主張をしている訳ではない。

FPCとの関係

"Warsh Report"と実際の改革の双方において、実は、FPCとの関係という視点が意識されている。この点はcyclicalな意味で政策運営に影響を与える訳でなく、従って必ずしも焦点が当たっていないが、中長期的には注目に値する点である。

まず、BOEが、MPCの透明性強化を踏まえて、FPCの透明性についても3~5年をかけて検討を進めるとしたことに注目したい。実際、"Warsh Report"は、①マクロ・プルーデンスの政策手段に関する議論は発展途上であること、②大手先を中心に個別金融機関に関するデータを使用しうること、③金融システムのtail riskに関する議論も行うこと、といった事情を勘案すると、直ちにFPCに対してMPCと同様な情報開示を求めることは適切でないといった慎重な立場を維持した。

その一方で、"Warsh Report"も、コミュニケーションを通じて政策意図を金融システムと共有することを含め、FPCにとっても透明性の意義が存在しうるとの認識を示している。BOE内では、予てMPCとFPCのメンバーに対する執行部の合同説明などを行ってきたほか、カーニー総裁のイニシアティブによる "One Bank"によって執行部内の人事交流やコミュニケーションが強化されてきたなど、漸進的な取組みが進められてきた面もある。それだけに、多少の時間をかけても、FPCの透明性のあり方をしっかり検討することが重要との考え方が現れているのであろう。

もっとも、MPCとFPCとの共同開催が来年にも実現することを考えると、BOEもさほど悠長に構えることができる訳ではないかもしれない。一昨年のような住宅市場の過熱と抑制のための政策金利の活用に関する議論を思い起こせば、BOEにおける取り組みが、先進国の中央銀行に対し、マクロ・プルーデンス政策の透明性に関する興味深い先例を提供することも考えられる。

BOEが、マクロ・プルーデンスに関する透明性のあり方や金融政策における透明性との連携の仕方について、こうした試行錯誤を続けながら知見や情報を蓄積していくことができれば、それはまさにBOEが誇らしげに説明した「透明性」に関する先駆者としての立場を維持していくことに繋がることになる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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