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ECBのドラギ総裁の記者会見 - All about ELA

2015年07月17日

はじめに

予想通り、ドラギ総裁の今回の政策理事会後の記者会見はギリシャに関する話題で埋め尽くされた(実際、「私の質問はギリシャに関するものでないが」という前置きがジョークと化した)。その内容も、大半がELAの運用に関するものという異様さがあった。

質疑の中でドラギ総裁がギリシャ向けのELAの上限額引上げを公表したことは、既に大きく報道されている。しかし、今回の議論には、ELAあるいは中央銀行によるLLR一般に関する興味深い論点も含まれていただけに、本コラムではこれらも含めて検討したい。

ギリシャ向けELA

声明文には含まれていなかったが、ドラギ総裁は2番目の質問に答える形で、ギリシャ向けのELAの上限を1週間にわたって現在より9億ユーロ引上げることを説明した。

その理由については、いくつかのやり取りを総合すれば、ECBとして、①ギリシャとユーロ圏諸国(ESM)との第三次支援に関する交渉への道筋が明確になった、②ギリシャは交渉開始の条件とされた構造改革策の立法化を進めている、③欧州連合(EFSM)によるつなぎ融資に関する検討が進み、実現の可能性が高まった、といった点を踏まえたものとしている。

このような説明に対し記者からは異なる視点から指摘がなされた。一方で、ギリシャ経済が銀行閉鎖や資本規制によって深刻な打撃を受けているのに、これまでなぜELAの上限を凍結していたのかという視点である。これに対しドラギ総裁は、先に挙げた前向きな動きが新たなものであることを指摘し、ELAが無条件の資金供給ではない点を強調し、ギリシャへの追加支援に対するリスクが大きすぎたとの理解を示唆した。

その一方で、これらの条件が成立しただけでELAの運営に関する判断を変えることの妥当性を問う指摘もみられた。これに対してドラギ総裁は、これらの動きが従来見られないものである点を再び指摘するとともに、このつなぎ融資によって、ECBが保有するギリシャ国債のうち7月20日に償還が到来する分については円滑に支払いを受けるとの自信を示した。

これら二つの視点の背後には、共通の問題意識があるように思われる。つまり、ECBがユーロ圏諸国や欧州委員会と一体化して立ち回ること(政治化していること)の妥当性に対する疑問である。もちろん、ドラギ総裁もこの点を理解しており、だからこそECBはrule-basedな機関であり、ELAの運営はリスボン条約とECBのStatueとELA協定の三つに沿って行われることを繰り返し強調したのであろう。

ECBはもともとユーロ圏の金融システム安定の維持に責務を有しているし、昨年秋以降のSSMによって域内国の銀行監督にも直接的な責任を有する以上、理由は何であれ、域内国の銀行システムが危機に陥った場合は直接的な介入を行うべきという考え方にも一理ある。もちろん、ドラギ総裁の言うようにELAのようなLLRを無条件に行使すべきではないとしても、同じくドラギ総裁が認めたようにギリシャにはsolventな銀行も存在する以上、selectiveな対応も技術的には可能である。

その一方で、欧州の枠組みの下ではこうした議論が現実性を欠く面も否定できない。そもそもECB自身はトロイカの一角として債権者の立場にある。また、ドラギ総裁がELAのdisclosureを巡る質疑の中で認めたように、今回のようなELAは制度が想定していた純粋なLLRではなく、国際機関が行う金融支援の性格を色濃く有するからである。ECBにとっては、今回のギリシャ対応に止まらず、ELAの仕組みを再考する必要があるかもしれない。

ギリシャの銀行問題

ギリシャ問題に戻ると、欧州連合(EFSM)によるつなぎ融資が迅速に実施され、結果としてECBの保有する国債の償還だけでなく、IMFに対する延滞も解消すれば、事態は少なからず好転する。つまり、ユーロ圏諸国から突きつけられた構造改革策を粛々と法制化しつつ、第三次支援に関する調整を進め、できるだけ早く(つなぎ融資の期限に照らすと今月末までに)合意して、プログラムの最初に獲得した資金でつなぎ融資を返済することが展望される。

しかし、ギリシャも2018年までと言われる第三次支援に沿って経済構造改革を進めさえすればすむという訳でもない。先に見た銀行システムの問題には展開だけでなく処方箋にも不透明な面が残る。喫緊の課題は銀行閉鎖と資本規制の運営である。ドラギ総裁も、経済活動を回復する上で双方とも早期に停止すべきとする一方で、特に資本規制を現時点で外すことは銀行システムをいっそう不安定化するリスクがあるだけに慎重であるべきと述べた。

9億ユーロかつ1週間のELA増加でこうした問題に対応しうるかという記者の質問に対しては、ドラギ総裁はこの条件を提示したのがギリシャ側(BOG)であることを示唆し、必要十分という認識を示した。しかし、銀行システム安定の根本的対応になると期待される資本増強は、820~860億ユーロとされる第三次支援の中で250億ユーロが割り当てられるなど重視されているが、出所はドイツが交渉の土壇場でもちだした「民営化基金」とされることもあり、迅速な供与には不透明性も残る。

先に見たように、ギリシャの銀行システムに対して責務を負うのはギリシャの監督当局に加えてECBそのものである。ECBはSSMを通じて各銀行の状況を直接に把握しうる立場に立った点で有利さもあるが、ギリシャ支援全体の中で結構難しい部分を引き取っていることは否定できない。

量的緩和の変質

今回の記者会見の最後では、(現在は対象外である)ギリシャ国債を「量的緩和」として買入れることは可能かという興味深いが時期尚早と見える質問も提示された。しかし、この点に関するドラギ総裁とコンスタンシオ副総裁の回答は、意外にもconstructiveであった。

つまり、ギリシャ国債は格付と「大口与信」の制約、経済プログラムの停止という理由で除外されているが、7月20日を含めて償還が進めば「大口与信」の制約は消えるし、第三次支援によって経済プログラムが再稼動し、目標達成が可能と判断されれば、格付要件のwaiverも可能と説明した。だとすれば、ドラギ総裁も示唆したように、第三次支援がスタート後相応の時点で、ECBがギリシャ国債を「量的緩和」として買い入れるという、つい先ごろまで想像しにくかった事態が実現することも考えられる。

ギリシャの経済規模を考えると、このことが金融政策の視点で大きな意味を持つとは考えにくい。それでも前傾化した考えが示された背景を考えると、ギリシャ国債をギリシャの銀行から外すことが銀行システムの安定にとって大きな意味を有することに思い当たる。そうであれば、ECBの量的緩和は早くも変質するし、rule-baseかどうかという記者の問題提起にも相応の合理性が感じられる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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