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Euro Summitの合意について

2015年07月14日

はじめに

ギリシャ支援に関するEuroSummitの議論は、難航との見方もあったが、現地の7月13日朝にようやく合意に達した。既に公表されている公式文書(SN4070/15)に沿って内容を概観するとともに、当面の展望を検討したい。

協議開始の前提条件

欧州側債権者を代表する欧州委員会とECBは、ギリシャに対して、各々時限付で次の項目の立法化(議会での法案成立)を求めている。

1.7月15日まで

  • 付加価値税の簡素化と課税ベースの拡大
  • 包括的な年金改革の一環としての長期的な維持可能性改善に向けた先行的措置の実施
  • ELSTATの政治的独立の確保
  • TSCGの所要の条項の完全実施(特に自動歳出削減など)

2.7月22日まで

  • 民事訴訟コードの採用
  • 欧州委員会の支援の下でのBRRDの適用

補足すると、TSCG(TreatyonStability,CoordinationandGovernance)はSGPの強化版(2012年改訂)を指し、財政赤字と財政債務に関するルールを適用するよう求めるものである。また、ELSTATは政府統計局であり、債権者による経済統計への根強い疑念を示唆する。民事訴訟制度は商取引の円滑な遂行にとって不可欠である。また、BRRD(BankRecoveryandResolutionDirective)は、BankingUnionの一環として昨年5月に欧州委員会が発布した指令で、いわゆるbail-in条項を含む。

これらを概観すると、欧米メディアが主たる合意内容として説明している項目(主に7月15日までの立法化要求)は、先月末以来の攻防の中に現れていたし、先週中盤にチプラス首相が提示した反対提案にも具体的に織り込まれていた。ただし、BRRDに関する議論は外部からは必ずしも明確でなかったし、具体化の如何によってギリシャの銀行システムに影響を及ぼしうる。

また、改めて言うまでもないが、ギリシャがこれらの立法化を各々の期限までに成し遂げることは、欧州の債権者とギリシャとの第三次支援に関する協議を開始する(交渉のテーブルに着く)ための前提条件に過ぎないことにも留意する必要がある。

第三次支援の内容

その上でもちろん、第三次支援の内容が現時点でまったく白紙という訳ではなく、欧州側債権者は以下のような認識を示している。

  • 支援額は全体で820~860億ユーロに達する可能性がある
  • このうち、緊急の支援として7月20日までに70億ユーロ、8月中旬までに50億ユーロが必要とみられる
  • 民間銀行の資本増強や破綻処理に100~250億ユーロの資金が必要であり(上記の全体の内数)、うち100億ユーロは直ちに供与されるべきである
  • 2012年11月の声明に沿って、ギリシャの国家債務の維持可能性の観点から返済期限の延長などを行う用意がある

これらの内容も先月末以来の交渉について報じられてきた線から大きく離脱するものではない。なお、上記の最後の内容は欧州側債権者がギリシャの要望に一定の配慮を示したものと見えるが、同時にこの公式文書は、EuroSummitとして債務の元本減免が受け入れられない選択肢である点を(ドイツ等の主張に沿って)強調していることにも注意する必要がある。

しかも、欧州側債権者が第三次支援を検討する上では、ギリシャ側に対して、中期的な構造改革の実施についても、明確な時間軸とマイルストーン、ベンチマークを含む計画へのコミットメントを示すよう求めている。具体的には、この公式文書は、年金制度の改革、多様な製品市場の改革、電力の民営化、労働市場の規制緩和、民間銀行の不良資産処理などの分野を挙げている。

その上で注目されるのは、民営化(あるいは資産売却)のための基金設立が新たに条件に加えられた点である。具体的には、市場価値のあるギリシャ政府の資産を総額500億ユーロの基金に移転し、売却代金のうち、①250億ユーロを民間銀行の資本増強のための支援に対する返済に、②125億ユーロをギリシャ政府の一般債務の返済に、③残りの125億ユーロをギリシャ政府による投資に、各々充当することとされた。

この基金構想は、先週にドイツがギリシャの時限的なユーロ圏離脱という厳しい案とともに選択肢として示したものが出発点になっている。もっとも、報道によれば原案では基金を債権者が管理し、かつ売却代金はすべて第三次支援の返済原資に充当するとされていたのに比べ、基金を欧州債権者の監視下ではあるがギリシャが管理することやギリシャは売却代金の半分を自ら活用しうることとなった点でギリシャ側の主張に配慮した内容となっている。

当面の展望

欧州側債権者は、ギリシャ政府が先に見た内容を期限までに立法化するのを待てばよい訳ではない。それ以前に資本規制によって疲弊した経済活動や国民の生活を支えるための資金供給を具体化しなければならない。先に見た70億ユーロあるいは50億ユーロといった数字がこれに該当するとみられ、EuroSummitにおける原則合意だけを根拠に拠出する必要もあろう。

預金流出によって流動性リスクの高まった民間銀行への対応も重要である。経済活動の回復には銀行業務の再開が不可欠であるが、EuroSummitによる合意だけでは-また、国民が先週の国民投票の意味について反発し、政治情勢が不安定化した場合は尚更-預金の流出リスクが残るだけに、①銀行システムに対する信認の回復と②流動性の裏付の確保の双方を満たす必要がある。これらを果たしうるのはESCBだけであり、その点では16日の定例理事会に向けて、ELAの運営やOMTの活用の展望などについての議論に再び焦点が集まることになる。

なお、欧州側の支援の大半はESMを通じて行われるので、債権国によってはESMに対する債務保証の増額について国内議会の承認を得る必要がある。この点も第三次支援に対する政治的リスクであるし、実際に否決といったケースが生じれば反ユーロ主義者を勢いづけることもあろうが、ESMの枠組みの柔軟性を踏まえると、それだけで支援全体が崩壊するとは考えにくい。

また、今回の合意にはIMFは直接には含まれないし、ギリシャは欧州側債権者のみによる第三次支援を主張してきたが、この公式文書はトロイカ体制の維持を示唆している。従って、ギリシャはIMFプログラムが最終的に消滅する来年3月以降の支援について、IMFと別途交渉することが必要になる点には留意する必要があろう。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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