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FRBのイエレン議長の記者会見-Challenge of communication

2015年06月18日

はじめに

今回のFOMCによるメッセージを要約すれば、「米国経済は一時的な悪材料の剥落とともにmodestな成長経路に服しつつあるので、本年中の利上げを展望する」ということになろう。こうした内容は想定の範囲内である一方で、イエレン議長によるコミュニケーションや利上げのパスに関するFOMCの考え方にはいくつか注目すべき点がみられた。

景気判断

今回の声明文に示された景気判断は、前回(4月)と比べて総じて上方修正された。具体的には、雇用の改善ペースが再び高まったことや、個人消費と住宅投資にも緩やかな回復が見られ始めた点に言及した。インフレに関しても、原油価格に安定の兆しが見られたことを指摘したほか、イエレン議長は、輸入物価の面でもドル相場の上昇に歯止めがかかりつつあることに言及した。

つまり、第1四半期における経済活動の減速だけでなく、原油価格やドル相場も含めて、FOMCとして、予てtransitoryと見ていた要素がその通りになりつつあるという理解を示唆した訳である。

この点は、今回改訂された見通し(SEP)とも整合的になっている。つまり、今回の見通しを前回(3月)と比較すると、今年の実質GDP成長率が下方修正された(中央値は2.5%から1.9%へ引き下げ)が、それ以外は、2016年以降の実質GDP成長率(中央値は2.55%→2.3%)だけでなく、本年から2017年の失業率(同5.25%→5.0%→5.0%)もPCEコアインフレ率(同1.35%→1.75%→1.95%)もほとんど変更されていない。イエレン議長も、記者会見の中で、今年の実質GDP成長率見通しの引下げが、主として第1四半期という過去の経済活動の減速によるものであるとの説明を行った。

利上げの展望

このように、FOMCとして米国経済が元のmoderateな成長経路に服しつつあると理解している以上、利上げについての考え方に大きな変化が生ずることは考えにくい。実際、初回の利上げの最適な時期について、FOMCメンバー17名のうち15名は本年中との考えを示しており、これは残りの2名が2016年としている点も含めて、3月時点と全く変わっていない。

一方、各年末時点での最適な政策金利に対するFOMCメンバーの見方を示した図(dotchart)をみても、特に本年に関しては3月時点に比べてレンジが顕著に小さくなり(3月:0.125%~1.675%→今回:0.125%~0.875%)、実質的には、年内の利上げ回数に関して1回または2回という分布に収斂したことがわかる。

なお、2016年についてもレンジが下方へ縮小した(3月:0.375%~3.75%→今回:0.375%~2.875%)一方で、2017年についてはレンジはほぼ同じ(ともに2%~概ね4%)ながら、ばらつきは今回の方がやや大きい。もっとも、イエレン議長が会見の冒頭で説明したように、2016年から2017年の分布をmedianでみると、今回は3月に比べて0.25%程度低いだけであり、殆ど変化がなかったと見るべきであろう。

ちなみに、長期的にみて最適な政策金利についても、分布の形には若干の変化がみられるが、3.5%~3.75%にdotが集中しているという意味では変化がない。これは、medianでみた2017年末の最適金利よりも低いが、イエレン議長は、FOMCメンバーがこのような判断に至った背景として、金融危機の後遺症が経済主体の支出行動や与信姿勢に影響を与え続けるとの理解があるとの説明を行っている。

コミュニケーション

今回のFOMCで利上げが行われるとの予想は既にほとんど消滅していた一方、イエレン議長は、米国経済が予想通りに回復すれば年内に利上げするとの見方を予て示していた以上、市場は今後の利上げに関する何らかのヒントを期待していたはずである。

これに対し、今回の景気見通しは既にみたように殆ど改訂されなかっただけでなく、イエレン議長も会見においては、「datadependent」かつ「meetingbymeeting」の判断という基本線を維持する説明に終始するなど、直接的には「掴み所」の乏しい印象を与えたように見える。

イエレン議長が慎重な対応を維持したことで、メディアには「FRBはdovish」との理解も示されているが、慎重なコミュニケーションを行うことと、景気見通しや政策判断に慎重になることは同じでないことに注意すべきであろう。もちろん、イエレン議長が、FOMC内の意見が収斂していないことを考慮して慎重なコミュニケーションを行った可能性はある。しかし、既に見たように、意見の相違は年内1回の利上げなのか2回なのかへ実質的に収斂していると理解することが可能であり、市場の見方に比べてむしろhawkishでもある。

一方で、FOMCメンバーによる利上げペースの見方は引続き慎重である。イエレン議長が記者会見で説明したように、FOMCメンバーの平均的な見方(dotchartのmedian)は、2016年末の政策金利を1.75%、2017年末は2.75%とみている。これは、年8回のFOMCのうち半分程度で25bpずつ利上げするのと整合的である。

この点は、かねて声明文で示唆されてきたように、FOMCとして、長期的な最適な政策金利に短期間で到達することを不適切と判断していることと整合的である。つまり、イエレン議長も強調したように、利上げが開始されても、当面は緩和的な金融環境が維持される訳であり、利上げ時期だけを過度に注目することを避けて欲しいというイエレン議長が再三表明した希望の実現に寄与するだけでなく、政策金利を最適水準よりも低めに維持するという意味で、弱い形であるがフォワードガイダンスでもあることにも注目する必要があろう。

市場のボラティリティ

今回の会見では、利上げに伴う市場のボラティリティ上昇に関する質問も示された。ギリシャ情勢の悪化に伴うリスク意識や2013年のテーパリングに関する市場の不安定化の記憶を考えれば、もっともな視点である。イエレン議長も、利上げに対する市場の反応に「greatconfidence」を持っている訳でない点を率直に認めた。

しかし、最初の利上げによって市場を顕著に不安定化させるようでは、FOMCが考える利上げパスの実現が難しくなるだけでなく、そもそも米国の景気回復に自体にも影響が及ぶはずである。従って、イエレン議長が強調したように、誤解に基づく不必要なボラティリティを極力避けるよう努力することは当然に重要である。

その意味では、イエレン議長がコミュニケーションに慎重になっているのも、もっともなことかもしれない。一方で、年内の利上げを前提とすれば説明する機会は徐々に減少する。景気回復に自信を得た上で、利上げの実現に向けた最後の課題はここに残っている。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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