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4月のFOMC-Virtually unchanged

2015年04月30日

はじめに

今回のFOMCに対する関心は相当低かったし、国内市場にとっては数時間後に公表される日銀の展望レポートの方がむしろ注目を集めているのであろう。それでも、FRBが米国経済をどう展望するかは、「正常化」戦略にとって重要な意味を持つことに変わりはない。そこで、FOMCに先立って公表された第1四半期のGDPと合わせて声明文を検討することとしたい。

第1四半期のGDP

米国の第1四半期GDPは年率+0.2%と、前期(+2.2%)から大きく減速しただけでなく、事前予想(+1%)も下回り、実質的にゼロ成長というべき結果に終わった。

不振であったのは設備投資と輸出であり、各々年率の寄与度でみると-0.40%と-0.96%となった。米国市場からは、前者については原油価格の下落に伴う原油産出や探索のための投資の大幅な削減、後者についてはドル高と港湾ストが各々大きな影響を与えたとの指摘がなされている。

また、これまで成長を支えてきた個人消費も年率寄与度で+1.31%と、前期(+2.98%)から大きく減速した。もちろん、米国内では年初の天候不順による影響を指摘する向きも多いが、原油価格の下落によって実質所得は増加しているだけに失望感の伴う内容とも言える。実際、貯蓄率は5.5%と前期(4.6%)から大きく上昇して5%台に戻った。

主要な要素がこのように不振な中で実質GDP成長率が上記のようにゼロ成長で止まったのは、在庫投資の寄与(+0.74%)に支えられた面も大きかった。だとすれば、この点は第2四半期に対してネガティブな意味合いを持つことも考えられる。

FOMCによる景気判断

今回のFOMC声明文は、こうした景気情勢を概ね率直に受け止めている。つまり、第1パラグラフを前回(3月会合)から変更し、この間の経済活動の減速を指摘した上で、雇用増加の減速、家計消費の成長の減速、設備投資の軟化、輸出の減少などがみられた点を挙げている。

その一方で、FOMCはこうした動きが一時的要因による面も強いとの見方を維持した。例えば、家計に関しても、原油価格の下落による実質購買力の増加を確認し、消費者センチメントが高水準で維持されていることを指摘している。この原油価格の下落に関しては「earlier decline」という表現を使用し、足許で底打ちの兆しも窺われる状況を反映させている。そして景気の先行きに対するリスクも上下双方向でバランスしているとの評価を維持した。

物価動向については、全体的な評価は変えていないが、下落の要因として、原油価格の「earlier decline」に加え、その他の輸入物価の減速が継続していることを付加した。これはドル高の影響が物価面ではより強まっていることを指摘したものであろう。

その上で、FOMCは物価に関しても先行きの見通しを変えていない。つまり、市場ベースのインフレ期待は低位であるが、サーベイ調査の示唆するインフレ期待が安定している点を確認しつつ、原油と輸入品の価格下落の一時的(transitory)な影響の減少と雇用の一層の改善に伴って、中期的にはインフレ率が2%に向かって上昇していくとの見方を維持した。

このように、今回のFOMCは、足許の景気停滞も一時的要因による面が大きく、米国経済がこれからモメンタムを回復するとの見方を全体として維持したものと理解できる。

利上げに向けた景気と物価の情勢

今回のFOMC声明文は、FRBにとって最も重要な政策課題である「正常化」に関して明示的には何も語っていない。むしろ、3月のFOMCの声明文でフォワードガイダンスの表現を変えたことに関する説明が(当然ながら)削除され、利上げ時期に関する記述は一切みられないものになった。

また、今回のFOMC声明文の公表後の米国市場をみると、第1四半期GDPによって生じたネガティブな反応が若干修正されたことが窺われる。もっとも、FF先物などが示唆する市場の利上げ予想には大きな変化がない。つまり、市場からみた6月会合での利上げ確率は小さいままで不変であり、9月会合以降について見方が分かれている。これは、FOMCが今回の声明文に込めたメッセージが、既にみたように概ね不変であることと整合的である。

FRBによる利上げとの関係で、改めて景気情勢を考えると、悪天候や港湾ストは過去の話であるし、これらによって消費や輸出が抑制されていた効果は解消しているのであろう。また、輸出にとっては、海外経済が強力な金融緩和もあって改善しているのであれば、それも回復を促す材料になる。ただし、既にみたように、第2四半期のGDPは在庫投資の調整が足を引っ張る面もあろう。

一方、原油価格の影響は単純ではない。原油価格自体は、足許で依然として不安定ながら、ここから再度大きく崩れるとの懸念は(需給関係の調整もあって)後退しているように見える。この点は物価との関係では、FOMCの言うようにtransitoryになりうる。もっとも、今回のGDPが示唆するエネルギー業界による設備投資への影響は、時間的なラグを持って現れることも考えられるだけに、第2四半期以降にも相応の痕跡が残る可能性がある。

ドル高の影響も3月FOMCの議事要旨が示唆するように単純ではない。そもそもドル相場については、欧州の景気回復期待とFRBによる利上げ見通しという要因の中で、先行きには不透明性もある。加えて、理屈の上ではドル上昇が継続しない限りインフレへの影響は減衰していくが、実際はドル高が輸入物価を変化させる効果にも相応の時間的ラグが考えられる。一方、輸出との関係でドル高はマイナスの要素であることは否定できないが、輸出自体は上記の要因で支えられる面もあろう。

コミュニケーション

イエレン議長が再三強調しているように、FRBは中期的な見通しに沿ってフォワードルッキングに利上げを判断する訳であるが、その根拠は、”data dependent”と呼ばれるように過去の経済指標が示唆する今後の展望である。

このため、上記のように当面は経済指標が不安定な動きをみせる可能性があることは、利上げ判断だけでなく市場との対話も一層難しくすることになる。だからこそ、3月FOMCの議事要旨が示すようにコミュニケーション戦略の意見は大きく割れるのであろう。

その点に照らせば、少なくとも今回のFOMCにとっては、市場の利上げ予想を概ね不変に維持することができれば、それで十分ということかもしれない。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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