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ECBによる初の議事要旨-Not permitting "benign neglect"

2015年02月20日

はじめに

ECBは政策理事会の議事要旨を初めて公表した。しかも、この議事要旨は、日米型の「量的緩和」を決定した前回(1月)会合をカバーするものとなった。そこで、形式上の特徴にも触れながら、議事要旨に現れた議論を検討することとしたい。

議事概要の構成と「理事説明」

今回の議事概要は本文が16ページからなり、巻末に出席者のリストなどが付されている。本文は二つに分かれ、前半(ほぼ8ページ)は「理事説明」をカバーしている。具体的には、クーレ理事が金融市場動向と量的緩和の技術的内容を説明する一方、プラート理事が内外の金融経済動向と既存の金融緩和策の効果、「量的緩和」の必要性を説明している。

日米と比較した場合、「執行部」が金融経済や金融市場の動向を説明する点が共通している一方、「議長案」に相当する内容がECBの議事要旨では「執行部」説明に含まれている点で趣が異なる。もっとも、日米の場合にも実際の議事進行はこうなっている可能性もあり、実質的な違いとは言えないのかもしれない。

「理事説明」の内容で注目されるのは、プラート理事による「量的緩和」の必要性に関する部分である(5ページ中盤~7ページ中盤)。

まず、一連の貸出支援策がリスクプレミアムなどのprice面で効果を挙げた一方、quantitativeな面では予想を下回ったことを認めた(TLTROと証券化商品の買入れ)。そして、原油価格下落は実体経済にプラスであるものの、(1)多くのインフレ指標が歴史的低位にある、(2)コアインフレ指標も総合インフレに影響されやすくなっている、(3)市場ベースの長期インフレ期待も一段と低下している、といった点を挙げ、インフレが"too low for too long"に陥るリスクが高まり、"benign neglect"が許される状況にはないとした。

その上で、追加緩和に踏み切るか、3月の経済見通し等の情報を待つか、の選択肢があるとしつつも、(1)追加緩和に踏み切らないと市場が大きく反転する、(2)追加緩和は進行中の景気回復を支持する、(3)追加緩和の姿勢自体がインフレ期待に働きかける、といった理由を挙げ、前者を推奨した。資産買入れに関しては、AA格以上の優良資産に限定するかBBB格以上の投資適格資産まで拡大するかというオプションがあることを説明した上で、前者では政策効果が限定されるとの見方を示した。

最後に、買入れた資産が損失を生じた場合の対応に関しては、ECBがユーロ圏の金融政策を統一的に運営することと、財政が個別国ベースで行われる枠組みの下での資産買入れであることの双方を勘案し、適切なバランスを探ることが可能との考えを示した。

政策理事会の議論と政策決定

議事要旨の後半(9ページ~)は、まず、金融経済情勢に関する「理事説明」を受けた議論をカバーしており、概ねコンセンサスが得られたことを示している。この点自体は、ドラギ総裁の記者会見の際にある程度明らかになっていた面もあり、新たな情報ではない。そこで、この部分に関しては一点だけ注意しておきたい。

つまり、市場ベースのインフレ期待(BEI)の急低下について様々な意見が提示され、その解釈が宿題とされたことである。この点は、日米でも様々な議論がなされており、先進国共通のテーマになっている。しかも、ユーロ圏の場合はインフレ連動債のウエイトが日米よりも高い国が存在し、買入れ対象にすべきとの指摘がクーレ理事からなされた(8ページ)ことを考えると、より丁寧な検討が必要と思われる。

そこで、今回のハイライトである政策判断を巡る議論(12ページ~16ページ中盤)をみてゆきたい。

議事要旨は、まず、国債を含む資産買入れがECBに授権された金融政策手段に含まれることについて全会一致で合意したことを示している。また、先にみたプラート理事の説明に沿って、量的に十分な政策を現時点で導入することの合理性に関する議論をカバーしている。

続いて、議事要旨は「執行部案」への慎重論を記載している。つまり、反対派は、インフレ率の最近の減速の大半は原油価格の下落に起因し、実体経済にプラスの影響もあることだけにインフレ期待への影響は明確でなく、BEIの低下もリスクプレミアムや米国市場の影響といった要因も大きいとした。その上で、"some members"は、既に生じた長期金利の低下やユーロ安の効果を考慮すれば、追加緩和に踏み切る必要はないとした。

政策手段に関しても、ユーロ圏のように金融と財政が別な枠組みで行われる下での国債買入れは副作用も大きく、非常に悪い金融経済シナリオが実現した場合の「last resort」として位置付けられるべきと主張した。また、代案として、社債と国際機関債の買入れを取上げ、ECBが進めてきたcredit easing(貸出支援策など)との整合性が高いと指摘した。

さらに、長期金利は既に低下余地が少ないほか、バランスシート調整が未了である下ではポートフォリオ・リバランスにも限界があり、しかも米国のように資本市場中心の金融システムでMBS利回りの低下が経済活動を直接に刺激するような効果も期待しにくいといった限界を指摘した。

このようにECBによる初めての議事要旨は、慎重論の内容を比較的詳細に書き込み、かつそれが"some members"によることを明示した点で、本来の趣旨を発揮している面がある。一方、「場外」での議論を通じて、外部の観察者にも"some members"の具体名がある程度推測しうることを考えると、このように慎重論を書き込むことが、"some members"にとって自国のステークホルダーに対する「メッセージ」として使われるという副作用にも繋がりうる点に注意する必要があろう。

議事要旨に戻ると、上記の慎重論に対しては多数派から再反論が示され、特に社債や国際機関債だけでは量的に不足するとの認識に基づき、国債を含めることが支持された。その上で、多数派も、「量的緩和」が最大の効果を発揮するには、財政の柔軟な運営や構造改革の推進といった成長促進策が必要と指摘した。

おわりに

議事要旨によれば、プラート理事は、「理事説明」の中で毎月500億ユーロという「事前報道」と同じ提案を行った。しかし、政策判断を巡る議論の中で、期間を3カ月短縮した(当初案は2015年3月~2016年末であったが2016年9月末までにした)上で、その分を均等に振り分けた結果、毎月600億ユーロに変更されたとの説明がなされている。ただ、いずれにしても、変更の理由がインパクトを強化する意図にあった点では、市場が推測した通りであったようだ。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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