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FRBのイエレン議長の記者会見-Next couple of meetings

2014年12月18日

はじめに

原油価格の大幅な下落が、米国のインフレ率に下方圧力を加えただけでなく、米国内外の金融市場にもストレスの兆しがみられただけに、市場には今回のFOMCに対して慎重なメッセージを期待した面があった。しかし、声明文とイエレン議長の会見は、こうした期待に比べるとhawkishな面が含まれていたと言える。いつものように内容を検討することとしよう。

情勢判断

声明文の第1パラグラフに示された景気判断は、前回会合(10月)とほとんど変っていない。また今回発表された経済見通しも、PCE総合インフレ率が当然ながら2015年について下方修正された以外は、前回(9月)からほとんどど変更されていない。今回はこの不変であることが意味をもつ点に注意すべきである。なぜなら、先に述べた金融経済面の展開に拘わらず、FOMCが堅調な景気回復という見方を変えなかったことを意味するからである。

声明文では、原油価格の下落がtransitoryとの理解を示唆している(第2パラグラフ)。実際、このtransitoryは、今回のキーワードの一つであり、イエレン議長は記者会見の質疑の中で多用した。今回の原油価格の下落にはpolitical economyも作用しているように見えるだけに正しく予測することは一段と難しいと思われるが、イエレン議長は近年の商品価格の大きな変動のケースも持続的ではなかったことなどに言及しつつ、少なくとも現時点ではFOMCとしてtransitoryとの理解にあることを説明した。

加えて、イエレン議長は、米国にとって原油価格の下落は、石油産業などでの設備投資を抑制するものの、家計の実質購買力を高めるだけでなく、依然として石油輸入国であるだけに交易条件面でのプラスもあるという意味で、「on net positive」であることを確認した。さらに、ロシアの金融経済に不安定化の兆しがみられることに関しても、貿易や銀行貸出、金融資産投資の点でエクスポージャーが小さいことを指摘しつつ、米国の金融経済への影響は限定的との見方を示した。

Considerable time

今回の声明文に関して注目を集めていた部分-「QE3」の終了後もゼロ金利政策を「considerable time」に亘って続けるという表現-についても、市場の一部が予想していたように、「正常化」の開始には「patient」に対応しうるとの表現に変更された(第3パラグラフの後半)。

これは上記の情勢判断を考えると当然と思われるかもしれない。しかし、今回の声明文にはやや分かり難い部分も残っている。それは、この「patient」という表現の直後に、この新たなガイダンスが元の「considerable time」を使ったガイダンスと整合的であるとの説明が付されているからである。記者会見における冒頭説明の中で、イエレン議長は、「QE3」の終了後に利上げの時期について情報を発信しないのは「less helpful」との説明を行った(公表資料3ページの最後)が、それだけでは納得しにくい面が残る。

強いて言えば、これまでの表現にはゼロ金利政策を副作用が許容しうる範囲で可能な限り続ける意図が感じられる一方、新たな表現には条件が揃えば「正常化」を開始する意図が感じられるとも理解できる。ただ、いずれにしてもその差は微妙であり、もしかすると、イエレン議長はFOMC内で比較的hawkishなメンバーに配慮して、表現の変更を選択したのかもしれない。この点は、今回の政策判断に関して3名の反対があり、そのうち2名が(今に始まった話ではないが)hawkishな視点からのものであったことと併せて興味深い点である。

ただし、利上げのタイミングを予想する上では、この「patient」に加えて今回新たなキーワードが加わった。つまり、イエレン議長は、記者会見の冒頭説明の中で、「patient」の表現をパラフレーズする形で、最初の利上げが「next couple of meetings」で行われることは「unlikely」と明言した。

もちろん、イエレン議長は、冒頭説明だけでなく記者会見の質疑の中でも、あくまで現時点の予測であり、今後の経済情勢如何(data dependent)という点を強調したが、その一方で、「couple of」が「2回」を意味することも、「辞書の言う通り」として事実上認めた。こうして、イエレン議長は-今後の経済情勢如何では変わりうるが-3月会合までは最初の利上げを行わないとの考え方をかなり明確に認めた訳である。

その上で、記者の質問に対して、重要な政策判断は定例会見のあるFOMC(経済見通しの改訂の際)に行われるとの見方を否定し、FRBは常に柔軟に対応すると回答した。しかし、金融危機の際であればともかく、2015年に米国の経済動向が突然の政策変更を求めるほどに急変するとは考えにくいし、何よりもFOMC自身が利上げに関するコミュニケーションに腐心していることを考えれば、やはり最初の利上げは定例会見のあるFOMCで行われると考えるのが普通であろう。

こうして、今回のFOMCが最初の利上げに関して事実上発信したメッセージは、最短で2015年6月の会合ということであると理解できる。市場の一部に生じた2016年説とは相いれない面があることに加えて、FOMCのある種のコンセンサスであるという点で、単にフィッシャー副議長やNY連銀のダドリー総裁が各々語っていたのとは異なる重みを持っている。

利上げのペース

米国経済のみならず国際金融市場にとって、初回の利上げもさることながら、その後のペースも劣らず重要である。この点についてdot chartをみると、2015年末と2016年末ともに分布がやや下方にシフトした印象を受ける。ただ、加重平均をみると、2015年末が1.275%→1.1367%、2016年末が2.689%→2.542%といずれも僅かな変化に過ぎないし、2015年に関しては最短で6月から利上げに着手という事実上のコンセンサスが成立した以上、使えるFOMCの回数(6月を含めて5回)が明示的に考慮された結果という面があろう。

つまり、1回に25bpとすれば、2015年は3回程度、2016年は6回程度の利上げを行うことが含意され、グリーンスパン前議長によるmeasured paceの利上げよりも緩やかな利上げが予想されていることになる。イエレン議長は、記者の質問に対してmeasured paceのような機械的な利上げを否定したが-確かに米国内ではこのような政策運営がバブルに繋がったとの批判が根強い-少なくとも現時点ではそうなる可能性が強い。しかも、金融危機後に米国に生じた構造変化になお不透明性が残ることを考えれば、特に当初は、金融経済の反応を確かめながら緩やかな利上げをしていく慎重さが望ましいように思うし、それは副作用のリスクを上回っているように見える。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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