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金融政策決定会合の議事要旨 – 見解の相違

2014年11月27日

はじめに

日銀が予想外の「追加緩和」に踏み切った際の金融政策決定会合の議事要旨が先般公表された。その内容は既に様々に報道されている通りであるが、今後の政策運営を考える上で注目される点を検討しておきたい。

追加緩和の賛否

「追加緩和」が、その規模自体の次に衝撃を与えた点は、票決が5対4と真っ向から割れたことである。その意味で、賛否双方の立 場からどのような主張がなされたかが注目された訳である。

このうち、賛成する立場からの意見は、既に黒田総裁が当日の記者会見のほか、最近の講演で詳細に説明した内容と同様である。すなわち、足許でインフレ率が減速してきたことが、インフレ期待の改善を遅らせるリスクが高まったことを、「追加緩和」の理由として述べている。また、「2年で2%」の達成をコミットすることの重要性が指摘されている点も黒田総裁の見解と整合的である。なお、賛成意見に関しては、原油価格が現状程度で推移しても一般物価への影響が来年前半まで残るとの指摘がみられるなど、フォワード・ルッキングな視点も注目される。

これに対し、今回明らかになった反対する立場からの意見は、「追加緩和」のコスト・ベネフィットのバランスに対する疑問が中心 であった。つまり、長期金利が既に歴史的低位にある下で国債買入れを増やすことの追加的な効果や、初回は有効であった「期待に働きかける」効果の再現に対する疑問が示されている。同時に、当然に予想されたことではあるが、市場機能や財政ファイナンスといった面でのコストが指摘されている。

こうした議論の上で、「追加緩和」に賛成する立場からは、主として「期待に働きかける」ことを念頭に、大規模な国債買入れを支 持する意見が示されている。この間、ETFやJ-REITの買入れも顕著に増加すべきとの意見が見られる一方で、国債買入れの平均残存年限の延長を主張する意見が限定的であったことは、個人的には興味深かった。

「量的・質的金融緩和」に関するコンセンサス

このような票決の相違がみられた一方で、今回の議事要旨からは、委員の間で意外なほどにコンセンサスが維持されていること も示唆される。

第一に、政策委員会では「量的・質的金融緩和」自体に対する支持が引き続き共有されているようだ。なぜなら、「追加緩和」に反 対する立場からも、「追加緩和」前の「量的・質的金融緩和」が我が国経済に十分な効果をもち、最終的に物価安定目標の達成を可能にするという考え方が示されているからである。

第二に、少なくとも一部の委員の間では、賛成と反対の考え方の距離は意外に小さいようだ。つまり、「追加緩和」を支持した一人 の委員は、「追加緩和」によって物価安定目標の達成が確かになることで、その時点から、「量的・質的金融緩和」の出口に関する議論を始めることができるとの展望を示している。これは、「追加緩和」に反対した委員が予て主張している、金融緩和の短期集中的な実施という考え方と、余り遠くない発想であるようにみえる。

この点はさらに、「追加緩和」に反対する立場から提示された「量的・質的金融緩和」の長期的なコストにも関連している。それは、以前の「ノート」で議論したように、「量的・質的金融緩和」のコスト・ベネフィットのバランスは、時間が経つほどに日銀にとって厄介になる面があることである。この点は、我が国の人口動態や財政状況を考えれば明らかであろう。

第三に、「追加緩和」に賛成の立場と反対の立場はともに、根っこの部分では共通の基盤に立っている。つまり、先にみたように、 反対の立場が、「期待に働きかける」効果を十分に再現することが難しいとの考えを示したのに対し、賛成する立場は、物価安定目標の達成に対するコミットメントを維持することで、「量的・質的金融緩和」への信認を維持することの重要性を強調した。興味深いことに、こうした考察の結果として、「追加緩和」に賛成する立場はその規模を可能な限り大きくするとの判断に至っている。実際、「量的・質的量的緩和」の考え方を信ずるのであれば、こうした判断の方が首尾一貫している面がある(ただし、それは長期的な課題を無視できればということではあるが)。

景気判断の相違

それでは、「追加緩和」に際しての景気判断はどのように相違していたのだろうか。

議事要旨によれば、我が国経済が緩やかな回復基調にあり、消費税率引き上げの影響も解消しつつある点ではコンセンサスが存在していたようだ。その上でポイントはインフレであり、「追加緩和」に賛成する立場からは、デフレマインドの再現に対する懸念が示された一方、反対する立場からは、帰属家賃を除く消費者物価上昇率が1%台の後半で推移していることなどもあって、インフレ期待は着実に改善しているとの見方が示された。消費税率引き上げの影響も考慮すれば、こうした考え方もむしろ合理的に見える面がある。

この点に関しては、国内の需給バランスのような実体経済要因との関係が乏しい物価の動き-今回の国際原油価格の大幅低下によるインフレ率の下押し-がインフレ期待にそもそもどのような影響を与えるかと言う問題も残る。「追加緩和」に賛成の立場も反対の立場も、ともに前向きな景気循環が続いている点で共通の理解を持っており、かつ、企業や家計のバランスシートが健全であるため、物価下落がdebt deflation といった二次的効果を持つリスクも小さいことを考慮すると、興味深い問題として残る。

おわりに

「追加緩和」に際して、市場機能や財政ファイナンスに関する懸念を理由に反対の立場をとることは、考え方に整合性がないという 批判が考えられる。なぜなら、先にみたように、政策委員の総意として「量的・質的金融緩和」自体に対する信認は維持されているし、こうした懸念があるのであれば、そもそも「量的・質的金融緩和」の導入時に表明すべきだったことになるからである。

それでも、今回になってこうした懸念を表明したことに合理性があるとすれば、それは最初から存在したかもしれないこうした懸念 がある種のthresholdに近づいたからということになる. 黒田総裁は、インフレの減速がcritical momentに近づいたことを「追加緩 和」の理由として強調した訳であるが、「追加緩和」に反対の立場からは、別な意味でのcritical momentが展望されたのだ、という ことになる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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