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FOMCを終えて-さようなら「QE3」

2014年10月30日

はじめに

今回のFOMCは「QE3」を今月で終了することを決定した。この点は広く予想されていた通りであるが、声明文に示されたFOMCとしての景気判断はやや予想外と受け止められているようである。今回はイエレン議長の記者会見はないが、声明文から読み取れるメッセージとその意味合いを検討しておきたい。

情勢判断

声明文の第1パラグラフに示された景気判断は、前回会合(9月)に比べて上方修正されている。つまり、労働市場について、雇用の増加や失業率の低下を指摘するとともに、これまで懸念を示してきたunderutilizationも徐々に減少していると評価した。一方、エネルギー価格の下落等によりインフレ率は短期的に減速するとしつつも、インフレ率が長期に亘って2%以下で推移する可能性は、本年初に比べてむしろ低下したと指摘した。

加えて、声明文が「global slowdown」に一切言及しなかったことも、金融市場の関係者からみれば意外かつ強気に映った面があろう。この点は、本コラムの予告編(10月16日付)でも指摘したように、欧州や中国の景気減速が年初来徐々に進行してきただけに、FOMCとしても既に影響を織り込んでおり、ここで敢えて言及すには及ばないと判断していることが考えられる。

このように、デュアルマンデートの双方に相応に自信を示すとともに、この秋以降に金融市場が懸念を示した問題についても、少なくとも現時点では取り立てて言及しなかっただけに、米国の市場関係者やエコノミストから「予想外に強気」とのコメントが聞かれることももっともである。加えて、翌日(日本時間では10月31日)に公表される米国の第3四半期GDP成長率が、足許の予想通りに3%台の前半といった水準になった場合には、米国経済の堅調さがいっそう印象付けられることになろう。

「QE3」の終了

FOMCとしては、こうした現状判断に加え、今後も景気回復が継続することでデュアルマンデートの達成に近づくとの見方を示した上で(第3パラグラフ)、「QE3」の終了を決定した訳である。

ただし、声明文に示された政策判断は、上にみた景気判断ほどには強気という訳ではない。第一に、FOMCは「QE3」によって買い入れたMBSや国債の再投資を継続することを決定している(第3パラグラフ)。声明文は指摘するように、FRBとして大量の資産を保有し続けることが緩和的な金融環境の維持に資するとの考え方を維持している。

第二に、FOMCとして、インフレ率が2%を下回って推移すると予想され、インフレ期待が十分安定している条件の下で、政策金利を相当な期間(considerable period of time)にわたって現状のまま維持すると予想する、という表現を維持している(第4パラグラフ)。先にみたように、市場は今回のFOMCがむしろ慎重なトーンに変化する可能性を想定していただけに、この表現が改訂されるはずはないと考えていたのかもしれないが、いずれにせよ重要な点であることには変わりがない。

第三に、デュアルマンデートと整合的な水準まで雇用とインフレ率が回復した後も、当面の間は、政策金利を長期的に正常と考えられる水準以下に維持すると予想する、という表現も維持している(第5パラグラフ)。この点は、来年の政策金利運営に直接に関係するものではないが、過去の本コラムでも検討してきたように、今回の利上げサイクルの「最高到達点」に深く関係しており、従って米国債のイールドカーブに影響しうる重要なポイントである。

「正常化」の展望

「QE3」が予想通りに終了したことで、焦点は利上げの条件やタイミングに移行することになる。この点を考える上で、声明文はいくつかの点の材料を与えてくれる。まず、デュアルマンデートの達成に向けた動きを評価する際には、労働市場の状況を示す様々な指標や、インフレ期待とインフレ圧力、金融動向など多様な要素を考慮するとしている(第4パラグラフ)。この点は、前回の声明文から不変の表現であるが、要するに政策判断の根拠が「総合評価」的なものになることを示唆している。

なお、この金融動向(readings of financial developments)と言う表現は、本コラムで議論してきた金融市場のストレスを指している。そもそも、この点に関する考慮のウエイトが、労働市場やインフレに対するものを上回るとは考えにくいし、本コラムの予告編(10月16日付)でも指摘したように、足許で生じた市場の動きによってストレスの圧力が幾分かは緩和していることも事実である。それでも、議事要旨を見る限り、FOMCの内部には長期にわたる低金利環境の維持によるバブルのリスクに関する議論が根強いと見られるだけでなく、再拡大しつつあるシャドウバンキングをコントロールすべき時が来た際には、政策金利が有効な手段の一つであることは否定できない。

加えて、今回の声明文には、先にみた「considerable period of time」の表現の直後に、今後の経済指標がデュアルマンデートの達成に向けた動きがより早いことを示唆した場合は、利上げがFOMCによる現在の予想より早まる一方、逆な場合には、利上げがFOMCの現在の予想よりも遅くなる、という説明が加えられている(第4パラグラフ)。

この点はごく当たり前のことを言っているように見えるが、それでもいくつかの重要なメッセージを含んでいる。第一に、FOMCとして「considerable period of time」を固定的と考えてはいないというメッセージである。つまり、この表現が6カ月内外の期間を示すとしたイエレン議長による先の「見解」をFOMCとして撤回するとともに、上下両方向の自由度を確保しようとしたものと理解できる。第二に、利上げのタイミングの調整は、デュアルマンデートの達成に向けた動きに基づいて行われるというメッセージである。もちろん、FOMCは年間8回しか開催されないので、利上げのタイミングもその範囲での調整となるだけに、結果的にはもともと想定されていた来年第2四半期頃となるかもしれない。しかし、今後公表される経済指標-特に雇用とインフレに関するもの-により、利上げ開始時期に関する市場の予想が従来以上に弾力的に変化することも考えられる。

おわりに

今回のFOMCに先立つ期間には、米国を中心とする金融メディアの間で、量的緩和の効果や副作用を総括する記事がみられたが、興味深いことに、量的緩和に「永遠の別れ」を告げる論調は殆どみられなかった。市場に量的緩和に頼る気持ちが再び強まったのかもしれないし、本コラムの予告編(10月16日付)で指摘したように、政策金利に「のりしろ」が確保できない状況で将来の景気後退を迎えれば、再び量的緩和に戻るリスクは残る。少なくとも現時点では、量的緩和にさようならと言うよりも、「QE3」にだけさようならと言う方が良さそうである。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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