1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. FRBのイエレン議長による記者会見-Lost decade

FRBのイエレン議長による記者会見-Lost decade

2014年09月18日

はじめに

注目を集めた今回のFOMCも、1ヶ月当りの資産買入れ額をさらに100億ドル減額したほか、資産買入れ終了後のゼロ金利維持に関する"considerable time"の語句も声明文にそのまま残すなど、決定内容だけからみれば「無風」と見えるかもしれない。ただ、同時に公表された"dot chart"や利上げに向けた戦略には興味深い内容も含まれている。

そこで本コラムでは、イエレン議長の会見における議論を参照しつつ、中長期の視点も含めてFRBの政策運営を検討したい。

景気判断

まず、声明文の変化点に着目すると、前回(7月)にみられた本年前半の経済成長率の大きな振れ(天候と在庫が主因)に対する言及がなくなる一方、緩やかな景気拡大が継続していることを確認している。また、デュアルマンデートに関しては、労働市場の改善が進んだものの、失業率はあまり変化していないと表現しているほか、インフレ率が長期にわたって目標を下回るリスクが本年初以来低下していることを確認している。

これらの内容は、FOMCとして、足許の景気が本年前半のような不安定な時期を脱したことを確認している一方、回復のペースは加速も減速もしていないとみていることが示唆される。その意味では、"QE3"の減速を従来と同じように前進させ、上にみたように声明文の"considerable time"の語句を維持するという判断も合理的ということになる。一部に声明文の変更を期待する向きもあっただけに、今回の景気判断に対する市場の最初の評価に「ややdovish」とのトーンが多かったことももっともである。

経済見通しと"dot chart"

こうした評価は、経済見通しの内容に影響されている面もあろう。実際、今回の見通しは前回(6月)の内容が殆どそのまま維持されているが、唯一の大きな変更が2015年のGDP成長率である。つまり、前回の3.0~3.2%から、2.6~3.0%へわずかではあるが下方修正されており、この点に着目すればFRBの見方が慎重化したという結論が導かれる。

もっとも、こうした下方修正にも拘わらず、2015年のインフレ率見通しは、PCEでみて殆ど不変に維持されている(前回が1.5~2.0%に対し、今回は1.6~1.9%)。その理由は、イエレン議長の会見を含めて明らかにされていないが、今回の見通しでFOMC自身が確認したように、長期のGDP成長率の見通し-これが事実上は潜在成長率の推計である点は、既にイエレン議長を含む多くのFRB関係者が認めている-が2%強であることと整合的である。

しかも、2015年のインフレがFRBの目標にかなり接近することは、5%台中盤の失業率見通しと併せて、利上げの条件が整うことを意味する。そこで、今回の"dot chart"をみると、2015年末の加重平均は前回と大きく変わらないようにみえる(1.203125%→1.275%)が、これは今回から刻みが細かくなった-つまり、目標レンジを意識した、より実践的な内容になった-ことの影響も大きい。実際、"dot chart"の図を眺めると、1%付近に予想が集中している印象のある前回に比べて、今回は1~2%のレンジに相応の予想が分布していることがわかる。

これらの要素まで含めると、今回のFOMCの判断は必ずしもdovish一辺倒ではなかったことが示唆される。実際、イエレン議長も会見の中で、労働参加率が安定してきたことについて、労働供給に関する循環的な問題が解消されつつあると述べるなど、FOMCとしてインフレに対する注目度合いが多少なりとも高まっていることが示唆される。

利上げに向けた戦略

今回のFOMCについて注目されたのは、足許の景気判断とそれに基づく政策決定の内容だけでなく、利上げの考え方であることは言うまでもない。

この点に関するポイントは、"considerable time"によって表現されるフォワードガイダンスの意味合いである。私自身も含めて今回の会合で表現が変更ないし消去されるとの見方があっただけに、イエレン議長の会見でも比較的多くの記者がこの点を取上げた。これに対しイエレン議長が繰り返し強調したのは、今後の政策判断はインフレと雇用を含む幅広い経済指標に依存し("data dependent")、機械的なスケジュールによるものでないことである。これは、イエレン議長自身による就任当初の発言を修正するとともに、FOMCとして利上げの時期に関する柔軟性を維持する意味合いを持っている。

イエレン議長は、"dot chart"も現時点の経済見通しに基づくものであり、今後に改訂されていく可能性を強調した。この点に関しては、これまではその形状があまり変化しなかったことも、"dot chart"をコミットメントの一種と理解させる面があったことは否定できない。ただ、今回は先にみた2015年だけでなく2016年も含めて、前回対比で相応に形状が変化しただけに、今後はその趣旨より明確になることが予想される。

なお、今回の"dot chart"が示唆する利上げのパス自体には、前回(6月)から大きな変化はなかった。つまり、加重平均をつないでみると、2015年が25bp×4回程度、2016年が25bp×5回程度の利上げという前回と大きく変わらないシナリオが示唆される。また、今回新たに追加された2017年も25bp×4回程度であり、少なくとも現時点では、この3年を通じて平均的かつ緩やかなペースの利上げが想定されている。

今回のFOMCは、"Policy Normalization Principles and Plans"と題する文書を併せて公表した。ただ、これは過去のFOMC議事要旨に言及されてきた内容が概ね集約されたものであった。例えば、"QE3"に関しては、(1)利上げ開始以降の適宜の時期に再投資を停止する、(2)最終的にはSOMAの保有資産は国債に限定する、というものであり、金利政策に関しては、(1)以前と同じくFFレートの誘導目標を政策金利とする、(2)主としてIOERのレートと補助的にO/Nレポを活用してFFレートを調整する、といった点である。その上で意義を挙げるとすれば、(1)MBSについて、限定的な市場売却の可能性を示唆したこと、(2)本件の内容に1人を除く全FOMCメンバーのコンセンサスが得られたこと、であろう。

Lost decade

今回の"dot chart"は、FOMCとして、2017年末の政策金利がF長期の政策金利(約3.79%)に収斂すると示唆している。また、政策効果を織り込んで作成された経済見通しによれば、2017年のGDP成長率は潜在成長率付近まで低下する。つまり、FOMCは、ようやく2017年に中立金利の下で経済が巡航速度に戻るというイメージを持っていることになる。しかし、これは米国で金融危機が深刻化してから数えても概ね10年であり、その意味では米国もlost decadeを逃れることができなかったとも言える。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています