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FOMCを終えて-9月会合のポイント

2014年08月01日

はじめに

今回のFOMCは、1ヶ月当りの資産買入れ額をさらに100億ドル減額することを決定しただけで、先日の議会証言に即した予想通りの結果となる。ただ、前回会合(6月)の議事要旨から明らかなように、FOMC内の議論の焦点は「QE3」後の利上げに向けた考え方に既にシフトしているし、そうした視点からみると今回の声明文には興味深い変更も加えられている。

そこで本コラムでは、同日に公表された第2四半期のGDP成長率に関する評価も含めて、ポイントを整理しておくことにしたい。

デュアルマンデート

今回の声明文を前回(6月会合)と比較すると、労働市場と物価の評価に関わる表現が変更された(第1パラグラフと第2パラグラフ)。このうち前者は、労働市場の改善が進んだ点を認めつつも、より広範な指標によれば、労働資源の顕著に低位な稼働率の残存が示唆される点を強調している。

こうした表現は、FOMCとして最近の堅調な雇用統計をポジティブに評価しつつ、現段階では、労働市場の改善が十分とは判断していないことを示す。FOMCが「QE3」終了後に直ちに利上げという考えにないのであれば、こうしたメッセージを出しておくことに意味がある。なぜなら、本年後半には失業率が6%を割り込み、少なくとも数字の上で「完全雇用」に近づいていく「リスク」が相応に存在するからである。

ただし、筆者には、声明文の物価に関する変更の方が興味深く思えた。つまり、今回の声明文では、(1)足許のインフレ率の評価(第1パラグラフの最後)について、「長期目標よりも低位に推移してきた」という表現を「長期目標に向かって幾分近づいた」に変更し、(2)「2%を継続的に下回ることは経済にリスクをもたらすと認識する」といった表現を削除し、「2%を継続的に下回る可能性は幾分低下したと判断する」との記述に差し替えた(第2パラグラフ)。

これらは、FOMCがディスインフレに対する警戒感を後退させ、雇用とともに物価もデュアルマンデートの達成に向かって動いていると評価していることを示す。実際、CPIとPCEデフレーターのいずれも減速のリスクは低下したし、賃金も-イエレン議長が議会証言で認めたように緩やかではあるが-幅広い業種で前年比上昇率が2%を上回って加速する傾向が確認されるようになっている。

その上で、インフレに関する評価と先に述べた労働市場に関する評価を並べた場合、市場を含む外部の観察者にとって、FOMCが利上げに向けてどのようなスタンスにあるか読み取り難い点も否めない。労働市場の評価は「余裕を持った決断」を示唆するが、物価の評価は「決断に向けて着実に前進」と読める訳である。

このように「mixed」なメッセージとなった背景に関する直接的な解釈は、現時点でFOMC内のコンセンサスが固まっていないためというものであろう。実際、プロッサー氏は、利上げが経済条件に依存することを明確にすべきとして、今回の決定に反対票を投じたほか、米国内の報道によれば、反対票を投じる可能性を事前に示唆したFOMCメンバーが他にもいたとされる。

一方で、筆者には、FOMCが意図的にこのように「mixed」なメッセージを選択した可能性も否定できないように思う。その理由は、FOMCとして、米国経済の回復メカニズムやそのsustainabilityを完全に把握しているとは言えないという意識があり、それだけに、利上げについて、可能な限り柔軟性を残しておきたいと考えてもおかしくないからである。筆者が5月末に米国を訪問した際にも、多くの専門家から、米国の景気回復が過去の経験則では測れないとの指摘が改めて聞かれたことが印象的であった。

GDP成長率

FOMC声明文の公表に先立って公表された第2四半期のGDP成長率は、年率4%という結果が市場に好感されている。実際、直近の市場予想であった3%程度を大きく上回っただけでなく、個人消費や住宅建設などが顕著に好転したことで、衝撃的なマイナス成長に終わった第1四半期のマイナス成長における天候要因の大きさが確認できた点もポジティブな意味合いを有する。

さらに、現地のメディアや市場関係者からは、第1四半期の成長率も大きく上方修正された(年率で-2.9%→-2.1%)ほか、年次の定例改訂によって昨年後半の上昇率が全体的に上方修正され、昨年後半は実に4%ペースで回復していたことについても、好材料として取り上げるコメントが聞かれる。

ただ、今回の4%成長のうち、1.66%は在庫投資によるものである。マクロの在庫は、昨年第3四半期に積み上げられた後、本年第1四半期にかけて取り崩された訳であり、今回の復元まで通じて考えればニュートラルと理解することもできる。それでも、こうした在庫の動きを除いて考えた場合、第2四半期の年率成長率は2.3%強になり、前年比でみてもほぼ同じ(2.4%)である。

つまり、現状の景気回復ペースはFRBが潜在成長率と考える2%台前半と同じであることになる。だとすれば、本当に労働資源の低稼働が解消され、インフレ率が高まっていくのかという疑問が生じてもおかしくない。6月のFOMCで示した2014年のGDP成長率見通し(2.2%:ただし、第4四半期の前年比)を達成することに相応のリスクがある(本年後半は平均して年率3.5%を確保する必要がある)ことを考えれば、なおさらにそうである。

いずれにせよ、こうした点を考え合わせても、先に述べたようにFOMCが利上げに関して柔軟性を残したいと考える理由は相応に存在するように思われる。

コミュニケーション・ポリシー

FOMCにとって次の節目は、経済見通しの改訂とイエレン議長の記者会見のある9月会合である(その前に、今年のジャクソンホールでのイエレン議長講演に注意すべきとの指摘もあるが・・・)。先に述べたように、「QE3」の幕引きについては、イエレン議長が議会証言で詳細を明らかにした以上、また、少なくとも6月のFOMCでの公表資料を見る限り、多くのメンバーが2015年中の利上げを「予想」する以上、市場を含む経済主体は、利上げに向けた考え方をそろそろ明確にしてほしいと要求するはずである。

FOMCの基本線は、イエレン議長が再三強調したように経済状況次第であり、なかでもデュアルマンデートを構成する労働市場と物価によることは言うまでもない。その上で、今回の声明文が示唆することは、むしろ物価の評価がcrucialになる可能性である。つまり、FOMCとしては、労働市場の改善を「石橋をたたく」ように慎重に見極めるという姿勢を再確認した-イエレン議長の一貫した姿勢でもある-だけに、利上げをどこまで先延ばしさせうるかは、インフレ圧力をどこまで許容するかに係る面が出てくるからである。次回のFOMC声明文ないしイエレン議長の記者会見においては、この点の扱いに注目したいと思う。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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