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FRBのイエレン議長による議会証言-take off from the table

2014年07月16日

はじめに

イエレン議長の今回の議会証言(上院銀行委)については、公表済のテキストを読む限り、特筆すべき内容はなかったという結論になる。もっとも質疑の中では、「正常化」に向けた政策手段やマクロ・プルーデンスなどに関して考えさせる論点も提示された。そこで本コラムでは、米国のCSPANによる中継をもとに、今後の議論の予習の意味も含めてポイントを検討したい。

「正常化」と政策手段

FRBの金融政策に関しては、クラポ議員やジョアンズ議員のような共和党勢が早期の「正常化」を求める一方、ジョンソン議員やシューマー議員のような民主党勢が、労働市場の改善が不十分である点を指摘しつつ、緩和解除を慎重に進めるよう求めるという、総じて分かりやすい構図の議論に終始した。これらの議論に対するイエレン議長の発言のトーンも、これまでと比較して大きく変化した点は感じられなかった。ただし、発言の機会が多かったという意味では、イエレン議長が「QE3」の終了も「利上げ」も既定路線ではなく、あくまでも今後の景気回復次第である-その際には物価や雇用を重視しつつも、幅広い経済指標を確認する-と繰返し述べたことが、金融政策運営における慎重さを印象付けたかもしれない。

慎重さの背景に関わる点として、危機後の経済予測の難しさがある。この点で興味深かったのは、共和党のトーミー議員によるFRBの予測能力に対する批判である。つまり、過去10年の間、FRBによる1年後の経済成長率予測は殆ど上方に外しているだけに、同議員は、こうした楽観バイアスの下で適切な政策ができるのかと批判した。過去10年の半分は危機後であり、その意味でFRBに同情すべき面もあるが、イエレン議長はあっさり批判を受け入れただけでなく、冒頭のジョンソン議員(民主党・委員長)とのやり取りの中では「false dawn」という語にも言及した。筆者には、直近の「金融市場パネル」での議論との関係でも興味深く思えた。

「正常化」を技術的な面からみれば、FRBによる保有資産の大規模な圧縮が難しい中で、超過準備をどのように吸収しながら短期金利をコントロールするかが重要である(詳細は、本コラムの前号をご参照ください)。この点に関しては、クラポ議員が、FRBがRRPのような吸収手段を提供すると、短期金融市場でdis-intermediationを生じ、銀行貸出などの信用創造を阻害するのではないかという問題を提起した。

本コラムの前号で説明したように、議事要旨によれば、これは6月のFOMCで議論された点である。クラポ議員も議事要旨をもとに質問したことは考えられるし、筆者自身は、超過準備の円滑な吸収が最大の課題である以上は避けがたい副作用と思うが、いずれにせよ、こうした技術的な問題が取り上げられたこと自体には意外感もある。ちなみに、イエレン議長の回答も、こうした問題には十分注意するとともに、必要であれば、RRPの利回りを抑制したり、RRPの落札に総額ないし一先当りの上限を設けると言う、これまたFOMC(6月)の議事要旨の議論そのままであった。

なお、共和党のヘラー議員は、年内に「QE3」を終了するといっても、資産買入れをどこかで再開する可能性はないのかと質問したのに対し、イエレン議長は活用しうる政策手段として放棄したくない(「would not like to take it off from the table」)と応じるともに、実際は経済情勢次第であると説明した。FRBのバランスシート問題にとりわけ厳しいスタンスにある共和党に対して、敢えてこうしたコメントを返したことが印象的であったし、「金融市場パネル」でもしばしば指摘されるFRB資産の「無限ループ化」のリスクを改めて想い起さざるを得なかった。

マクロ・プルーデンス

今回の議会証言が、かつての「Humphery-Hawkins」に相当する位置づけである以上、焦点は景気と(狭い意味での)金融政策と考えるのが普通であろう。実際、イエレン議長の冒頭発言のテキストも、そのほとんどがこれらの内容に関するものであった。

しかし、実際の質疑はむしろ金融システム安定に関する内容の方が多い位であった。このうち相当の部分が、non-bank Sifiの適用基準を巡る議論であったり、保険会社の監督を巡る議論-システミックに重要な先はFRBの責任になりうる一方、米国の場合、依然として州当局の権限が強い-であり、これら自体はもちろん重要な問題ではあるが、本コラムはマクロの領域に焦点を当てることとする。

実際、筆者にとって予想外に多くの議員が、マクロ・プルーデンスに関連するテーマを取上げた。その中では、共和党のクラポ議員が、直近のイエレン議長による講演を念頭に置いた上で、マクロ・プルーデンス政策は発動経験が乏しいだけに、金融システムの安定を達成する上で過度な期待を持つべきでないとし、金融システムにバブルが発生しつつあっても、FRBを含む監督当局がそれをタイムリーに認識し、かつ適切な対応をとることができる保証はないという、誠に傾聴すべき指摘を行ったことが非常に印象的であった。

この間、ブラウン議員をはじめとする民主党勢の多くは、金融危機後の規制強化が当初の想定より大きく遅延していることへの不満を示しつつ、特に金融機関による「too big to fail(TBTF)」への対応が進んでいないことを批判した。これに対しイエレン議長は、システミックな金融機関に対する枠組みの整備やliving willの導入、ストレステストの定期的実施といった規制上の対応を説明するとともに、実際に大手金融機関の自己資本が危機前に比べて充実しており、経営破綻自体のリスクが低下している点を強調した。

その上で、イエレン議長も、この種の対応を進めるには他の先進諸国の監督当局だけでなく、米国内の他業態を担当する監督当局とも調整しなければならないため、どうしても時間がかかることを認めた。また、システミックリスクの防止はTBTFを抑制すれば済むという話ではないし、マクロ・プルーデンスのための様々な政策手段の発動に習熟するとともに、必要な場合に政策金利の変更も金融システム安定の目的で活用しうるようにすることも重要であるとの考え方を示した。

雑感

つい忘れそうになるが、イエレン議長が議会証言(上院銀行委)を行うのは、就任時のconfirmation以来、まだ2度目である。この点も踏まえて考えると、イエレン議長が一つ一つの質問に丁寧に答えようとする姿勢-違和感のある質問には思わず困惑の表情が現れる点も含む-は、少なくとも悪い印象を与えるものでないし、前任者や前前任者とは実際に趣が異なる。もちろん、「正常化」に差し掛かっても、イエレン議長がこの種の印象を維持できるかどうかはまだわからない。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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