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FOMC(6月)の議事要旨-devil in the detail

2014年07月11日

はじめに

6月のFOMC議事要旨については、LSAPを10月会合で終了する方針が明確に示されたことと、背後にある景気回復への自信-第1四半期の落ち込みに拘わらず-に注目が集まっている。

しかし、これらに劣らず重要なのは、その後の利上げにおける金融調節手段に関する議論がより明確になった点である(議事要旨2~3ページ)。これらは技術的な面を含むが、単に短期金融市場に影響するだけでなく、政策効果などを通じてより広く経済にもインプリケーションを持ちうる。本コラムでは、今回の議事要旨を参照しつつ、利上げにおける金融調節手段について検討したい。

金融調節手段の復習(IOER)

本論に入る前に、議事要旨に示された金融調節手段を復習したい。まず、当座預金に対する付利(IOER)がある。日銀も採用しており説明には及ばないが、後の議論との関係で2点確認したい。

第一に、本制度は法律(Financial Services Regulatory Relief Act of 2006、及びEmergency Economic Stabilization Act of 2008)に基づき、FRBのRegulation D (準備預金制度)の改訂として、金融危機勃発の直後の2008年10月に導入された。第二に、対象はいわゆる預金取扱金融機関(銀行や貯蓄銀行、Credit Unionなど連邦預金保険の対象先)である。

第二の理由には判然としない面もあるが、本制度は、準備預金の「課税効果」を抑制するため、危機以前に導入が決まっていた(前者の法律に基づき2011年10月導入とされていた)ことが関連しているとみられる。そこで第一の点も考慮すれば、対象先を拡大することは容易ではない。実際、米国の様々な専門家に質問した際には、政治的には「裏口経由の収益支援」として拒絶反応に合う可能性が高く、現実的でないとの指摘が大半であった。

金融調節手段の復習(RRP)

次は、オーバーナイトのリバース・レポ(RRP)である(余談であるが、RRPは、銀行監督におけるRecovery and Resolution Plan(いわゆるLiving will)の略としても使用されるので、混同を防ぐためON RRPと表記されることも多い)。要するにFRBの売り現先オペであり、後での議論との関係で2点を指摘しておきたい。

第一に、本制度について、FRBは2009年12月から試行的取引を断続的に実施してきたが、2013年10月以降はほぼ毎営業日にわたってテストを本格化している。

テストの取引条件は、FOMCによるauthorizationに基づく。すなわち、2013年9月時点では、(1)2014年1月末まで毎営業日実施、(2)1先当たり落札額は10億ドル以内、(3)利回りは5bp以内、とされた。その後2014年1月には、(1)2015年1月まで毎営業日実施、(2)1先当たりの落札額は50億ドル以内(2013年12月に30億ドル以内に引上げ)、(3)利回りは引続き5bp以内、とされた。実際には、FRBNYが上記の範囲内で落札額や利回りの上限を徐々に引き上げている(1先当たりの落札額は本年入り後も引上げられ、4月以降は100億ドルに達した)。

第二に、対象先はPrimary Dealer(PD)やGSE・FHLB、MMFなど多様であり、FRBNYのリストによれば、現在、PD21先、GSE・FHLB6先、MMF94先(マネージャー20社)の合計121先に達している。この点は、既にみたようにIOERの対象先が預金金融機関に限定され、かつ変更が難しいことを考えると、実務的な意味が大きいことは言うまでもない。

金融調節手段の復習(TDF)

最後は、定期預金ファシリティ(TDF)である。これもFRBが定期預金を受け入れる-当然に金利を払う-というシンプルな取引なので、後の議論に関連する点だけ述べておきたい。

第一に、本制度もIOERと同じくRegulation Dに基づいて導入され、FRBは2010年6月から試行的取引を実施してきた。ただ、2013年までは、年間6回(2010年は5回)で概ね定期的な形で実施されていたが、2014年入り後には既に13回も行われるなど、こちらもテストが本格化している。

取引条件も、(1)期間は2013年まで28日がほとんどであった(当初は14日や84日も混在した)が、2014年3月からは7日に統一された、(2)金利は2013年後半まで競争入札(上限付き)であったが、その後は指値(全額割当)となった、(3)1先当たりの落札額は、当初の2.5億ドルから2010年中に12.5億ドルに引上げられた後、2014年入り後はさらに増額され、現在は100億ドルとなったなど、時間を追って変化している。

第二に、Regulation Dに基づくことで容易に想像されるように、対象先はいわゆる預金金融機関に限定されている。しかも、IOERと同じように対象先を拡大することは、政治的にかなり難しい話であると考えられる。

金融調節手段に関する復習を終える前に、量的なイメージを持っていただくため、本コラムの最後に図表を掲載するので適宜参照されたい(RRPやTDFのテストが本格化した2014年入り後のデータ)。巨大な超過準備との比較は厳しいが、RRPやTDFを個々のオペとしてみれば相応の規模に達している。このように金額の順調な拡大や頻繁なテストの積み重ねといった実績が、資金吸収能力に対するFRBとしての相応の自信につながっていることが推察され、例えば、5月のダドリー総裁(FRBNY)の講演にも一端が窺われる。

金融調節手段に関する議論(金利コントロールの手段)

それでは、利上げ後の金融調節手段に関する今回の議論のポイントを順次検討することにしよう。

第一のポイントは、金利コントロールのためにどの手段を主力として位置付けるかという点である。議事要旨によれば、FOMCメンバーのほとんどがIOERに中心的な役割を付与すべきと考えている一方、RRPは、対象先の広さを活かす形で、短期金利の下限を形成する役割を担わせるというコンセンサスが形成されている。

このような枠組みは合理的であると考えられる。現時点でMMFは巨額の資金を短期運用しており、預金金融機関との相対感も日本と大きく異なる(2014年3月末時点で、銀行が保有する短期資金残高は2.8兆ドルに対し、MMFの運用残高も2.5兆ドルに達する)。GSEのインパクトも考えれば、RRPでこれらの先の資金を吸収し、金利コントロールを確実にすることには大きな意味がある。

この間、IOERとRRPで形成されるcorridorについては、FOMCメンバーの多くが20bp程度という考え方にあるものの、もっと広くて良いといった見方も残るという意味で意見が分かれているようだ。

IOERとRRPの適切なスプレッドを演繹的に導くのは容易ではないだけに、FOMCで20bpという具体的な数字が議論されたことは興味深いが、この点に関しては2014年入り後のテスト結果が思い起こされる。つまり、FRBNYが本年入り後のテストでRRPの利回りを5bp付近にセットし(従って、政策金利とのスプレッドは20bp)、上手くいっているとの感触を得たとすれば、その報告がFOMCメンバーの考え方に影響を与えることも想像に難くない。

なお、TDFについては、議事要旨によれば、ターム物のRRPとともに、金利コントロールが難しくなった場合などに「補助的」に使用するとの意見が示されている。

しかし、TDFには「補助的」な役割に止まらない可能性があるようにも思われる。テスト結果からTDFの資金吸収能力も確認されており、O/NであるRRPに比べて(maturityの意味で)安定的に資金を吸収しうる。先にみた対象先の限界はあるが、預金取扱金融機関の資金吸収において活用しうる蓋然性は高い。おそらく、FRBにとっての問題は、TDFがターム物であるため利払いコストが相対的に大きい-政治面も含めて問題となりうる-ことであろうが、少なくともFRBNYにとって、金利コントロールを着実にする上で、対象先に拘わらず資金吸収を着実に行うことが大切であって、その意味でTDFを最初から補助的と位置付けるのも如何かと思えてくる。

金融調節手段に関する議論(政策金利の誘導目標)

第二のポイントは、政策金利の誘導目標として何を選択するかである。議事要旨によれば、FOMCメンバーのほとんどが引続きFFレートとすべきとの見方を示すとともに、その目標レンジを変更することが政策判断であるという、危機前への回帰を想定している。

このような考え方もごく自然に見えるであろう。実際、過去数年に繰り返されたLSAPにも拘わらず、FFレートを軸とする金融政策は市場が長らく慣れ親しんできた枠組みであるだけでなく、2012年以来のFOMCによるコミュニケーション(いわゆるdot chart)でもFFレートが用いられている。

その一方で、IOERに適用する金利を政策金利とし、その変更が政策判断を示す枠組みにも魅力を感じる。積極的な面から言えば、FOMCメンバーも-少なくとも「正常化」のプロセスでは-IOERの金利が金利コントールで中心的な役割を果たすと考えている以上、それ自体が政策金利でもある枠組みもまた自然である。

消極的な面からみれば、FRBは果たしてFFレートを意味のある範囲にコントロールしうるかどうかに不透明さが残るだけに、FFレートに直ちに回帰すべきなのかという疑問も湧く。実際、FOMC議事要旨の中でも、IOERやRRP、TDFといった手段を駆使しても、FFレートがIOERとRRPによって形成されるcorridorに安定的に収まることへの不透明性を指摘する意見が当然にみられる。

特に「正常化」の初期には、政策金利の絶対水準は大きくない。例えば、2015年末時点でも0.75%といった政策金利にも拘わらず、FRBが巨額のまま残る超過準備の吸収と格闘しながら、FFレートを極めて狭いレンジに維持することは至難の業であろうし、FFレートのボラティリティが高まるようでは、FOMCが政策金利をおそらく25bpずつ引き上げる「正常化」の意味もはっきりしなくなる。

技術的には、IOERの適用金利が(準備預金制度の運用であるため)FOMCでなく、理事会による決定事項であるという問題は存在する。しかし、今回に限らず最近のFOMC議事要旨が示すように、既にFOMCと理事会とが事実上一体で会合を開催しているのが実情であり、かつ、この点に関する議論がFOMC議事要旨に適切に反映されれば、実質的な支障にはならないように見える。

FOMCメンバーが示唆するようにこの枠組みは恒常的でないのであればなおさら、超過準備額が低下し、金利コントロールに自信がついた後にFFレート誘導に回帰するとした上で、当面はIOERの適用金利を政策金利として運営するのも現実的ではないだろうか。

金融調節手段に関する議論(金融システム安定との関係)

第三のポイントは、新たな枠組みに伴う副作用にどう対応するかである。議事要旨は、金融システムにストレスがかかった場合、RRPへの資金滞留が過剰になり、市場機能を一層低下させる副作用についてFOMCで議論があったことを示している。

また、対応策については、RRPの落札額に関して1先当たりまたは総額の点で一時的な上限を設けるとか、IOERとRRPのスプレッドを拡大するといった案が議論されたことが示されている。

筆者としては、FOMCがこのような事象を取上げたこと自体に、若干の違和感がある。つまり、どのような金融調節手段の組み合わせを活用するにせよ、金融システムにストレスがかかった場合に中央銀行の当座預金に資金が滞留し、短期金融市場でdis-intermediationが生ずることは避けがたい。実際、この種の事象は欧州債務危機の際にECBで顕著に発生したし、問題国の金融機関が多額の資金供給オペを引続き活用し、ドイツなどの金融機関がTARGET IIを含めてECB当座預金を抱えている点で、現在も(回復途上にあるが)生じている。

しかも、この問題への対応は最終的には銀行監督に委ねざるを得ないし、中央銀行としては、市場での資金調達が難しくなっている金融機関に効果的に資金を供給すること-MMLRの機能を果たす-ことの方が重要であるはずである。逆に、IOERとRRPのスプレッドを拡大するとか、ファシリティの利用に上限を設けるといった対応は、金利コントロールのためには合理的であっても、金融システムのストレスにとっては、最悪の場合、逆効果を持つことも考えられる。例えば、金融危機の際に、各国中央銀行がcorridorを一斉に圧縮したことは記憶に新しい。

なお、議事要旨には触れられていないが、新たな枠組みが金融システム安定と関連を持ちうるもう一つの側面としてトライパーティ・レポがある。つまり、RRPは多くの対象先を取り込む中で、試行的取引の当初からトライパーティ・レポを使用している。この取引に関しては、金融危機以前から、関係当局と市場参加者がリスクの削減に取り組んできたが、なお途上との見方がある。FRBNYが他の監督当局とともに進めるリスク削減策との整合性をどのようにとるのかも実は重要な課題となりうる。

国債やMBSの再投資について

本コラムでは今回のFOMC議事要旨のうちで、金融調節手段を巡る議論に焦点を当てて検討を進めてきたが、最後に、「正常化」の中で国債やMBSの再投資を停止するタイミングに関する議論(議事要旨の3ページ)にも一言だけ触れておきたい。

ここで興味深いのは、ほとんどのメンバーが利上げ開始後に行った方が良いと考える理由も、少数派が利上げ開始前に行った方が良いと主張する理由も、いずれもコミュニケーション・ポリシーに関わっていることである。さらに、FRBのスタッフが計量モデルで分析した結果ではあるが、再投資の停止を利上げ開始の前後、あるいは利上げ開始時のいずれで行っても、マクロ経済の視点から見た違いは限定的に過ぎないとしている点である。

不要なボラティリティを上昇させることは、FRBの中長期的な政策運営にとってコストが小さくないという意味で、筆者も、FOMCメンバーの多数意見と同じく、再投資の停止は利上げ開始後が良いと思う。それでも、議事要旨のこの部分を読むと、LSAPの効果や意味合いは何であったのかという気持ちになる面もある。「QE」をこれからの処方箋の一つと想定しているECBの理事会メンバーは、今回のFOMC議事要旨をどう読むのだろうか。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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