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FRBのイエレン議長による記者会見-pave the way

2014年06月19日

はじめに

米国の第1四半期の経済成長は衝撃的ではあったが、悪天候と在庫に影響された面が大きく、その後の経済指標は相応に安定している。従って、FOMCも景気回復に関する評価は概ね維持したし、毎月の資産買入れ額をさらに100億ドル減額することを決定した。

今回のFOMCの焦点は、むしろ、より長い視点からの経済見通しと政策運営であり、本コラムではイエレン議長の会見の内容を踏まえつつ、ポイントを検討したい。

経済見通し

今回改訂された経済見通しを前回(3月)と比較すると、大きく異なるのは2014年の経済成長率見通し(2.8~3.0%→2.1~2.3%)のみであり、しかもその理由は、上記のような第1四半期のマイナス成長の寄与による面が大きい。このため、逆説的になるが、FOMCが経済見通しを維持した理由の方が興味深く思えてくる。

まず、PCEインフレ率(総合とコアの双方)の見通しを2016年にかけて1%台後半から2%のレンジに据え置いたのはなぜかという点がある。つまり、冒頭の質問が取上げた地政学的要因の影響だけでなく、FOMC自身が2015年に3%前半、2016年に2%後半の成長を予想していることと整合的かということである。この点に関してイエレン議長は、インフレ率には上下双方にリスクがあることを指摘した上で、インフレ期待が2%にアンカーされている限りは問題ないことを示唆したが、以下で見るように潜在成長率を低く見ていることとの関係について詳しい説明が必要かもしれない。

また、失業率の見通しも微妙に改善されたに過ぎないのはなぜかという点もある。イエレン議長は、景気回復に沿って雇用が回復しているだけでなく、労働参加率の低下も失業率の改善に寄与してきたことを指摘した上で、労働市場の改善に伴って労働参加率の低下に歯止めがかかることが失業率低下のペースを鈍化させるとの見通しを示した。ただし、このような予想自体は合理的であるとしても、どの程度の量的なインパクトを持つのかは不透明な面も残る。

潜在成長率、金融システムの安定と金融政策

今回のFOMCに向けては、これらに対して市場の注目が集まっていた。結果的には、FOMCは"long run"の経済成長率をわずかに引き下げた( 2.2 ~ 2.3%→ 2.1 ~ 2.2%) ほか、dot chart 上での"longer run"の政策金利も最頻値で見てわずかに引き下げた(4→3.75%)(ちなみに加重平均では3.875→3.78125%)。

イエレン議長は、新たに加わったFOMCメンバー(つまり、フィッシャー副議長とブレイナード理事)による影響を指摘し、他のメンバーは判断を変えていないことを示唆するなど、「サービス過剰」の説明を行った。その上で、米国の潜在成長率を2%強という歴史的に低位な水準とみる理由について、金融危機によるpermanentな影響を強調した。特に、企業設備や住宅における資本形成が弱い点と、長期失業が人的資本を毀損する点を取上げ、当面はこうした要素による影響が続くとの見方を示した。

今後の金融政策を考える上でもう一つ注目されていたのは、FOMCの政策判断において金融システム安定がどの程度の意味を持つかという点である。その意味では、一部の質問が取上げたように、長期金利の低下やボラティリティの低下という足許の事象をどう評価するかは有用なヒントとなりうる。

イエレン議長は、こうした現象がレバレッジの拡大や保有資産のmaturityの長期化、広範なsearch for yieldといった状況を生み、クレジット・スプレッドのタイト化やレバレッジ・ローンの増加などをもたらしているとの見方を確認した。その上で、こうしたポジションが巻き戻った場合の長期金利の上昇に警戒感を示しつつ、今後の政策運営には不透明性が高いことを強調して、ゼロ金利政策の長期化を前提とする投資行動を牽制した。

もっとも、イエレン議長は、政策金利を金融システム安定のために活用する余地は残したいと述べつつも、この問題に対しては、まず金融規制や監督によって対応すべきという考え方を確認することで、金融政策の判断における金融システム安定に関する考慮のウエイトが、現時点では大きなものでないことを示唆した。

これらを踏まえると、少なくとも現時点の展望としては、来年のどこかで利上げを開始したとしても、そのペースは速いものにならないという推論が導かれる。今回のdot chartをみても、2015年末の政策金利の「予想」の加重平均1.125→1.203125%、同じく2016年は2.3125→2.59375%と各々わずかに引き上げられたに過ぎない。2015年に4回と2016年に5回程度の利上げということである。

「正常化」のプロセス

「QE3」による資産買入れをテーパリングしてゆけば、遅くとも年末には終了することになり、FOMCが2011年から議論してきたプリンシプルによれば、次は利上げとなる。また、この点に関しては、前回(3月)の定例会見の際に、イエレン議長が6カ月程度のインターバルを示唆したことがサプライズになったことも記憶に新しい。

しかし、筆者が5月末に米国を訪問して多くの専門家の意見を伺った際には、利上げに向けたstrategyについてFOMC内でまだコンセンサスがないという見方が強かった。実際、今回の会見でのイエレン議長の説明も、議論は続いており、”later this year”には示したいというものに止まった。

その上で、イエレン議長は、バーナンキ前議長が説明したように、保有資産の償還金による再投資の中止は利上げのタイミングとの関係で判断すること、MBSの市場売却は行わないこと、しかし長期的にはFRBの保有する長期資産は米国債にすることなども、現時点でプリンシプルと一体になっていることを示唆した。同時に、FRBとしては、reverse RepoやTerm Deposit Facilityといった手段によって巨額の超過準備を吸収しながら金利をコントロールすることは十分可能とみていることを確認した。

もちろん、利上げのタイミング自体は、イエレン議長が本日も再三強調したように、今後の経済状況如何である。一方で、本日公表された経済見通しが示すように、FOMCとしても、経済指標の上ではデュアルマンデートの達成に近いと評価している。つまり、FOMCとして、先にみたような金融危機の影響を含め、失業率や物価には現れない経済の動きをどの程度重視するかが本質的に重要になってきている訳である。

イエレン議長は、今回の会見で、利上げに向けた考え方に関するコミュニケーションを適切に行うことの重要性を強調し、だからこそ、プリンシプルの改訂版の公表といった具体的な方法に言及したのであろう。しかし、上記のような要素に対する考慮を含め「総合判断」を上手く伝えることは簡単ではない。その意味でも、今後は、イエレン議長が強調した経済見通しの不透明性だけでなく、FRBのコミュニケーションの不透明性にも注意を払う必要があろう。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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